非表示ハイウェイ

あー、もう腹が立つ!今日も、ねちねちと長い部長の叱責で残業だった。部下のミスは上司の責任、わかっちゃいるが、理不尽だ!いつものことだが、こう毎日続くとさすがに辛い。きっと、ここ最近の業績不振で、部長もだいぶ詰められているのだろうが。

思わず漏れる大きなため息。こんな日は、テレビを見る気にもならない。

通勤に使用している全自動車は、その名の通り、自動で目的地まで連れて行ってくれる優れものだ。しかし、いかんせん一人遊びの苦手な俺には、長時間のドライブは苦痛であった。とはいえ、もう3年も運転していないし、今更旧車に戻すつもりもないけれど。

「今日もお疲れ様です。目的地までゆっくり休んでください」

全自動車のコンシェルジュに労いの言葉をかけられる。ああ、もう、今はそれすら腹立たしい!

「うるさいな!俺の勝手だろ?!黙ってろ!」

ふう、コンシェルジュに八つ当たりしたことで、少しだけスッキリして、少し情け無くなる。何やってんだ、俺は…。

「かしこまりました。」

心なしか、コンシェルジュが無機質に発する。ああ、これじゃ俺も部長と一緒だなあ…。と、思ったのも束の間。音楽や室内ライトがぷつん、と消える。と、同時にガクッと落ちるスピード。

…え、ちょっと待てよ!そんなのアリか?!

みるみる落ちるスピードに、次々抜いていく周りの車たち。三車線の大きな道路に、両サイドの大きな壁。マズイぞ、ここは高速道路だ。事故を起こしたらシャレにならないぞ!

恐る恐るエンジンを踏む。よし、大丈夫そうだ。更に踏み込む。唸るエンジンに一抹の恐怖心を抱く。

高速道路における全自動車のオート運転は、約時速250キロだったはず。まさかそんなに踏み込めるわけもなく、追い抜かれながらもなんとか走っている。

ふう、と安心したのも束の間。ナビゲーションを起動しようにも、依然沈黙を守っているので、家までの経路がわからない。周りは壁、車、コンクリート。誰も外なんか見ているはずもなく、孤独な気持ちに襲われる。

なんでこうなったんだ?俺が、コンシェルジュに八つ当たりしたからか?いや、違う。これは、ねちっこい部長のせいだ!

なんて、現実逃避をしている場合では無いんだが…

「もう、だれかなんとかしてくれよーーー!」
「私で良ければ、指示を出してください」

間髪入れずに話すコンシェルジュ。ああ、そうですか…。

「いつもありがとう。家まで頼むよ」
「はい。かしこまりました」

かくして、俺は無事に家にたどり着いた。部長への怒りも吹っ飛び、生きて帰れたことに安堵する。明日は、この話を肴に、部長と飲みにでも行ってみようか…。

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