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ノ縞屋③


スェーデンの都市・ヨーテボリ

◇プロローグ


野島氏が実際に買い付けを行なう主な国は、バルト三国と呼ばれるエストニア・ラトビア・リトアニアやそこからさらに北に位置するスウェーデンなどの国々だ。エストニアではノ縞屋のヒット商品である「small house」、ラトビアでは定番商品であるウールのミトンやソックス、リトアニアではリネン雑貨などを買い付けている。ブログ「ノ縞屋②」でもご紹介したが、野島氏の買い付けは「ここ」という目的の商品や場所があるのではなく、街中を歩き回って偶然見つけた工房で気に入ったものを買い付けるスタイルだ。

明確なビジョンがない中でも人の目に留まる商品を見つけ出せるのは野島氏の商品に対する嗅覚の鋭さが成せる技だが、その嗅覚が発揮できる土壌がその国々になければできない買い付け方法だ。
今回のブログでは、買い付けを行なう各国の特徴や、ノ縞屋で購入できる北欧のヴィンテージ食器の工房についてご紹介する。


赤枠で囲ったバルト三国とスウェーデン


◇買い付けで訪れる国々はどんな国?

では最初に、ヨーロッパとロシアの中間に位置するバルト三国について。
土地の特徴として、平野部が多く湿地や沼地が多い。深い森など豊かな自然が広がっている。日本と同じく四季があるが、1年を通して気温が上がりにくく夏でも長袖で過ごすような気温がある。
note筆者は訪れたことがないのだが、日本でいえば標高が高い山間地のようなものだろうか。

13世紀〜14世紀に北ドイツの諸都市を中心に組まれた自由都市の連合体「ハンザ同盟」に参加した国々でもあり、周辺諸国と共通する文化が多い。三国の都市であるタリン(エストニア)・リガ(ラトビア)・ヴィリニュス(リトアニア)の美しい街並みがそれぞれ世界遺産に認定されている。

その街並みの美しさからそこに暮らす人々の美意識が垣間見られる。

エストニアの世界遺産都市・タリンの路地


歴史的に日本と深い関わりがあるのがバルト三国の一番南にあるリトアニアである。
第二次世界大戦期に当時の外交官・杉原千畝がリトアニアのカウナスにあった日本領事館に殺到したユダヤ人の亡命を幇助した歴史があり、リトアニアのストリートに杉原の名前がつけられていたり記念館があるなど功績を称える歴史が残っている。2015年に日本で『杉原千畝 スギハラチウネ』という映画も制作されているので、知っている人も多いのではないだろうか。

ロシアやポーランドなど歴史上「列強」と言われた国々に隣接しているため、三国とも歴史的に長い時間を他国に支配されてきたが、1991年にロシア(当時はソ連)から独立した。
1989年にロシアの占領に抗議する意味で行った、三国の民衆約200万人が手を繋ぎつくった600kmに及ぶ「人間の鎖(バルトの道)」は世論を動かし各国の独立へ追い風となった。

三国とも独立まで常に周辺の列強国の支配と戦った歴史を持ちながら、文化風習をうまく取り入れ発展させてきた。日本も明治維新を境に列強国の文化を取り入れながらオリジナルの形に変化させ成長させてきた歴史があるので、そういった面でシンパシーを感じるところがある。


フィンランドの首都・ヘルシンキ


バルト三国の少し上に位置するスウェーデンはヴィンテージ食器の聖地と言っても過言ではなく、北欧雑貨を語る上では外せない国だ。
面積は日本の1.2倍。真面目でシャイな性格が日本人に似ているといわれている。
一つの道具を手入れして代々使う風習が古くから根付いており、その手入れから育った独特の艶感や質感を持つ家具が「ヴィンテージ家具」として世界中で愛されている。


◇バルト三国のものづくり


陶器・編み物・リネン雑貨など様々な分野があるが、そのどれもが人の手を通して生まれた温もりを感じさせる。

中でもラトビアのミトンは作り手の思いを強く感じさせる。
女性の手仕事として代々受け継がれてきた編み物で、バルト三国共通にある“キヒノヴィッツ”と呼ばれる伝統技法で編まれている。
ウールを素材とした指なしの長い形の手袋で、手袋の中に空気を閉じ込めるので5本指の手袋よりも保温性に優れている。

ラトビアのミトン
ラトビアの帽子とエストニアのsmall house


使う人の幸せを願う気持ちや厄除けの意味を持つ模様が編み込まれ、生まれてくる子どもや家族に贈られるが、男性からのプロポーズにミトンを送るとOKの返事になるという。
物自体がとても温かいのに、そこに込められた人と人の心をつなげる想いが更に温かい。

現在、書斎ギャラリー・離れで開催されているノ縞屋展でも帽子やソックスなどが販売されているので、編み込まれた模様に想いを馳せながらぜひ手にして頂きたい。

カゴから少し見える帽子が可愛い


◇ヴィンテージ食器の工房


ノ縞屋といえば北欧のヴィンテージ食器も欠かせない。ノ縞屋が実際に買い付けを行っているのがスェーデンとフィンランドにあるいくつかの工房だが、ここではノ縞屋で実際に手して頂ける工房について紹介する。

大体がカップとソーサのセットになっている

◉Rorstland(スウェーデン)
1726年に創業した王室御用達窯。
代表作の「モナミ」は窯のアイコン的存在でもある。1930年に発表された「スウェディッシュグレース」をはじめ「クリナラ」など優美な印象を与えるテーブルウェアから、気軽に使えるカジュアルなデザインまで手がける。

ロールストランドのPrimeur Good Cup
こちらはすでに販売済みなので、ぜひ別のシリーズをノ縞屋で探してみてほしい



◉Gefle(スウェーデン)
1910年創業で1970年代に閉窯。元々はタイルやレンガを製造する工房だったが後にオリジナルデザインの食器を手がける工房となった。
幅広の口に上部から下部に向けてすぼみのないストンとしたフォルムが素朴な可愛らしさを感じさせる。
日本でGefleの食器を入手するのは困難といわれているのでノ縞屋でGefleの食器を見られるのはかなり貴重な機会といえる。

◉Arabia(フィンランド)
1873年創業でフィンランドを代表する陶磁器ブランドの工房。
Kirsikka・Valencia・Balladi・Citrusなどのシリーズを持ち、「フィンランドの工房といえばここ」というほど世界中でその名を轟かせている工房でもある。
フィンランドの首都ヘルシンキに世界の都市の名前がつけられたストリートがあり、アラビア通りに工場があったことから「アラビア」と名付けられた。

白地の陶器に原色が眩しく映えるサマースタイルのKirsikka、コバルトブルーで描かれた優美な線が美しいValencia、台座のように中央が盛り上がったソーサに花が踊るようにデザインされたカップが可愛らしく乗っているBalladi、落ち着いたグリーンでレモンを意匠化したデザインが繊細さと爽やかな香りを感じさせるCitrusなど世界中で名の知れたシリーズが生み出されている。

ArabiaのBalladi


◇エピローグ:「ノ縞屋」で北欧雑貨を手にする意味


日本で入手困難な逸品が、もしかするとノ縞屋では見つかるかもしれない。
その可能性は現地買い付けをしているノ縞屋ならではであろう。

現地からやってきたモノはどこか別の地域を経由してきたものよりも、強い力を発しているように思う。(どこの空気の影響も受けていないという表現が心情的には一番近い。)

ダイレクトに存在の強さを伝えてくるからこそ、使い手となる私たちはそのものが生まれた場所を知り感じながら使うことで愛情を持ってその強さに応えられるのではないだろうか。

こんな風に想いのこもった暮らしの道具で彩られる生活は、きっとこれまでよりも幸せな時間を人生にもたらしてくれる。
ノ縞屋で手にする北欧雑貨を通してそんなことを感じて頂けたらと願う。


※1月15日(日)まで三方舎書斎ギャラリー(離れ)にて、「ノ縞屋展」を開催しています。いつものとは違う真っ白な天井と床に囲まれた空間を、野島氏が北欧の雑貨でどんな風に演出しているのか、どんな風に心地の良い空間を作っているのか。
一味違う「ノ縞屋」を、ぜひご体感ください。

また、書斎ギャラリー母屋では「アラベスク絨毯 新入荷展」を開催中です。
こちらもこのnoteにてご紹介しておりますので、ぜひご一読ください!
・アラベスク絨毯 その①
https://note.com/sanpousha/n/nbe846991755d



執筆者/学芸員 尾崎美幸(三方舎)
《略歴》
新潟国際情報大学卒
京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)通信教育学部卒
写真家として活動
2007年 東京自由が丘のギャラリーにて「この素晴らしき世界展」出品
2012年 個展 よりそい 新潟西区
2018年 個展 ギャラリーHaRu 高知市
2019年 個展 ギャラリー喫茶556 四万十町
アートギャラリーのらごや(新潟市北区)
T-Base-Life(新潟市中央区) など様々なギャラリーでの展示多数
その他
・新潟市西区自治協議会 
写真家の活動とは別に執筆活動や地域づくりの活動に多数参加。
地域紹介を目的とした冊子「まちめぐり」に撮影で参加。
NPOにて執筆活動
2019年より新たに活動の場を広げるべく三方舎入社販売やギャラリーのキュレーターを主な仕事とする。

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