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平凡な街の鬱陶しい出来事⑧かまってちゃん考

寂しさって何だろう?誰もいない場所に一人ポツンといたら寂しいのだろうか。
沢山の人が行き交う街に行けば寂しく無いのだろうか?
そんな事は無い。
寂しさは様々な種類があり、何層にもなっていたり、枝分かれしていたりするのだと思う。
複雑だ。だが、もしかするとシンプルに元は一つで、小さな種だったのかも知れない。
それは木霊がこっそりと『ココニイルヨ!』と言っている様なイメージがある。

10年近く前の事だ。
私は知人のKさんが勤めているスーパーと違う店へ行った。半分買い物がてらKさんの顔を見るのもあるけれど、その日、このスーパーが野菜が安かったからだ。
良くある話だと思う。
店の距離も家から殆ど変わらなかった。

そして私はそれ程多くない買い物客の間を歩いていた。いつもの何でもない時間だ。
パン売場へさしかかった。
何人か陳列棚を覗き込んで立ち止まっていた。
私はここの店のパンについての品揃えはあまり気に入らなかったが、時々地元の手作りパンが置いてある事もあり一応立ち止まった。
すると、

横にいた高齢の男性が声を出した。
「馬鹿女が~、馬鹿女がいるんだよ~。」
連れの人はいない。
周りに何かを知らせる位の声だった。しかし、最後の方はフェードアウトするように小さい声で黙った。
あなたに言っていませんと云うフリをして、叱られない様に言い逃れ出来る様にしているらしかった。

流石にびっくりした。
だが、老人はやや上を見上げるように、私とは反対の方を向いていた。
薄気味が悪かった。

その後も他の女性が近づくと同じ事をしていた。やはり誰もが気味悪そうにしている。

(あ~、ボケちゃったか。それにしても家族はこれじゃ堪らないな。)と思った。
その日以降、時々老人に出くわし、 同じ言葉を聞いた。

初めて見た日だったか、また別の日だったかは忘れたが、そのスーパーから買い物を済ませ外へ出ると、コンビニエンスストアの前に老人がいるのを見つけた。
店内にいないと思ったら、しっかり出没していた。

コンビニから30代位の女性が出てきた。
すると…、
「馬鹿女が、馬鹿女が~いるんだよ。」と老人は声を上げた。またしてもその女性に背を向けて、上を向き、声は終わりの方は小さくして誤魔化していた。
女性は驚いて目を見開き、老人を横目で見たが、気味悪そうに黙って少し振り返って見てから立ち去った。
そしてまた若い女性がコンビニから出てきた。老人はまた同じ事をしたが、彼女は何か気を取られていて気付かず行ってしまった。
すると何となくだが、失敗したと思っている風に見えた。
本人が言った訳ではないので証拠は無いが、私はそう見えた。
老人は次にまた女性客が出てくるまで待っていた。
私は横断歩道の信号が青に変わり、その場を離れた。

帰りながら、あの老人、馬鹿と云う言葉の所だけ力を込めて言っているなと思い出していた、
女性に恨みがあるのだ。
多分、家族だ。家庭内で疎まれている気がした。
大切にされている様には到底思えなかった。

でも、こうしているのが、家族にばれたら…。一体どれ程叱られるのだろうか。
そこまでは思い至らないにしても、微かに相手に捕まってはいけないと分かってはいるのだ。
そして相手が無関係な人である事も承知している。でも、誰かにぶつけずにはいられない苛立ちを感じているのだ。

人生の終わりに向かって…、これはキツいな。
私は花が沢山咲く静かな裏道を歩き、家へ向かった。

また続きます(´ω`*)



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