もうすぐ仕事辞めます⑧よくあるあるな話

仕事に行かなくなって少し経ったある日、私は縁側にクッションを持ち出して座っていた。コーヒーが保温マグカップに入っている。本当は陶器のカップが良いが、冬はコーヒーがあっという間に冷めていく。
今まで休みの日にしか朝はコーヒーを飲まなかった。
と云うか飲めなかった。出掛けるだけで手一杯だった。しかも話によれば、起き抜けに飲まない方が良いなんて聞くし···。
私は暖かくなり始めた日射しの中でゆっくりと飲んでみた。眼を瞑ってみた。
駅へ急ぐ足音がした。会話する声もした。
スピードを出して車が走って行く音がした。
これはずっと聞いてきた音。その中に私もいた。
それらの音が途切れた。

小鳥の声がした。良く耳をすませると聞こえる声が増えていった。
でも恐らく町の騒がしさはそんなに変化していなかっただろうと思う。
(小鳥、いっぱいいるんだな) 私は一度だけ見た事のある、ルリビタキの完璧な可愛らしさを思い出した。またいつか会いたいものだ。

通る道で何かに出会える代わりに、他の道のものは見る事が出来ない。
たくさん見たくても聞きたくても。
でも新しい道を行けば知らないものに出会える可能性がある。

これから先、ルリビタキに会えるかも知れない。でも私が見ていない時間にやって来るかも知れないし、そもそも全く違う場所に行ってしまったかも知れない。
野鳥観察が好きな人はカメラを設置してみるかも知れない。
ただ、どんな方法でも見ようとする事、見たいなぁと思う事が無ければ無理なのだ。

私は自分を一時的にでも「更地」にして見たかった。別に余裕がある訳でもないが、もしかすると今後、ホッとする時間があるなんて保証は全く無いのだ。それは働く人達にとってはいつも頭の片隅にある事だ。恐れに近いだろうか。

私はほんの少しでもそうしてみようと思った。今までも休日のコーヒーは美味しかったが、美味しさだけをずっと考えていて良いのだと気付いたのが私には小さな衝撃だった。
瞑想をずっとしてみたかったが失敗していたのだ。私は何となく分かった気がした。

仕事の仲間達の中には、私から見て何かを考えたくなさそうにしている人が数人いた。
それも私自身の事でも無いのに空気が辛かったなと思う。

実際、前はうるさい位に仕事で他の人に注意するマキさんだったのだが、仕事中、何で彼女はあんな所歩いていたんだろうと他の人達に噂されたりしていたり。色々あった。
皆顔を見合わせていた。私はそれを見て疲れを感じた。(彼女、慣れ過ぎたんだろうな···。)
マキさんは以前、誰でも知っているような会社にいたのだが、人間関係で辞めたと言っていた。何だか闇を感じた。
(自己肯定感って消えやすいかも?)と私は思った。縁側で青空を見上げながら、疲れて休む私を許そうと思った。


多分もうちょっと続きます。( ´ー`)








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