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富裕層でも満たされた老後にならない理由

「老後の悩みはお金で解決できるのか?」
この問いに、私なら「7割は解決」と答えます。
解決しない3割をご紹介します。

ある富裕層女性の話

先日、久しぶりに神戸のとある町に
行ってきました。
そこは、私が幼い頃にかわいがってくれてた
ある女性(70代)が住んでいた町です。
私はその女性を「おばさま」と
呼んでいました。

親せきではなく、母の友人だったおばさまは、
私の周りにはいないタイプの
大人の女性でした。
生まれながらのケタ違いのお嬢様。
お父様は当時有名な実業家で、
何人もの「ねえや」「ばあや」に囲まれて
育てられたそうです。

20代で外国人男性と結婚し、
大きなドイツ車が2台並んで
門を通過できるほどの
お屋敷に住んでいました。
私がお屋敷に遊びに行くと、
そこには珍しいものがたくさんあり、
食事時、アンティークの燭台に
ろうそくを灯す姿をを見た私は、
幼心におばさまのバックグラウンドを
いろいろ想像したのを覚えています。

おばさまの悩み

おばさまには子どもがおらず、
夫が亡くなった後は一人暮らしをしていました。
年を取るにつれて、
「誰かに迷惑をかけるんじゃないか」
「衰える姿を人様に見せたくない」と、
老後の不安を抱えるようになっていました。
とても気高く他人に弱音を吐かない人でしたが、
私の母には老後の不安を吐露していました。

そこでおばさまが取った行動は、
当時まだ珍しかった入居金数千万円の
老人ホームに元気な時から移り住むこと。

それでおばさまの悩みは解消されるはずでした。
でも、現実は違っていたようです…

万人が納得できる環境はない

「ここ出たい」
入居して間もなく、おばさまは
思い悩むようになりました。
眺めのいい広い部屋、
窓の外では小鳥のさえずり、
充実したレクリエーションルーム、
おいしく温かい食事、親切なスタッフ…
何不自由ない環境にいながらも、
元の自宅に帰りたいと悩んでいたのです。

理由を尋ねると
「お年寄りばかりで気が滅入る」でした。
「え?」と思いませんか?
老人ホームなのでお年寄りばかりなのは
当然のことですし、
それはわかっていたはずです。
でも、入居してみないとその辛さは
わからなかったのです。
「ここに引っ越したのは失敗だったわ」と
何度も言っていました。

人もうらやむような老人ホームでも…

その老人ホームの名誉のために言いますが、
楽しく暮らしている人もたくさんいて、
今でも「老舗の高級老人ホーム」と
言われています。

何が失敗だったのか

当時の私にはその失敗の原因は
わかりかねましたが、
今ならわかります。
原因は3つです。

①元気な時に入居した
仕事柄、元気な時からの入居を希望される方の
ご相談に応じることがありますが、
ほとんどの方が、入居後の生活のイメージが
あいまいです。
「元気な時から入居できる老人ホーム」

「元気な時から入居したい老人ホーム」とは
別物です。

ほとんどのお客様は、いくつかの老人ホームを
見学することで、このことに気付きます。

たとえば、
老人ホームには、自分よりかなり年上の方や
介護を受けながら生活されている人が
たくさん住んでいます。
介護を受けている人を目にすることに
慣れていない場合は要注意です。
「見下すわけではないけれど、
将来の自分を見ているようでつらい」と
感じるかもしれません。

②入居前に何度も足を運ばなかった
おばさまは、数回のみの見学で
入居を決めました。
表面的な情報しか
得られていなかったのでしょう。

老人ホームには、様々な「顔」があります。
日中だけでなく、夜の様子、暑い日寒い日、
1人で見学、友人と見学など
様々な側面から見ることをおすすめします。

③「高価格=自分にとって快適」という思い込み
高いお金を払えば、良いサービスを受けられると
思いませんか?
そうとは言い切れないのが老人ホーム選びの
難しいところ。
良いサービスの「良い」とは
とてもあいまいな言葉です。
例えば
Aさんにとっての良いは「利便性の良さ」、
Bさんにとっての良いは「自然豊かな環境」。
自分にとって快適、良いとは何なのかを
明確にすることで、ミスマッチは防げます。

自分にとっての「良い」の見つけ方

自分が何を求めているのかわからない場合、
おすすめの方法があります。
元気な時から複数の老人ホームを見ることです。

見学することで、「あ、これいい」
「こんなことは嫌だな」という感情が湧きます。
直感でいいのです。

老人ホームの見学や選定には、
気力体力が必要です。
実際、私の事務所で毎月開催している
「老人ホーム見学ツアー」に参加される方は
お元気な方ばかりですが、
見学後は「見学は疲れるものですね」と
おっしゃいます。

いくつかの老人ホームに足を運び、
自分が頻繁に「良い」と感じることを
重視しながら選びましょう。
そこで暮らすのは誰でもなく自分です。


その後、おばさまは体調を崩し、
老人ホームを退居することなく
お亡くなりになりました。
もしも今、おばさまがお元気で、
「老人ホームを選ぶの手伝って」と
私に頼んでくれたら、
きっと、二人でたくさんの老人ホームを
見学して、おばさまにとっての「良い」を
一緒に考えていたと思います。

はる社会福祉士事務所
佐々木 さやか

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