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旅と読書

以前、旅行で新幹線に乗った時など、前席背中に挟まれている「トランヴェール」なる車内誌をめくるのがちょっとした楽しみであった。東日本エリアではあったけど、地方の町の名所旧跡や名産品を紹介する記事が載せられていたことと、にもまして、巻頭には必ず沢木耕太郎のエッセイが連載されていたからだ。沢木のエッセイは、難意語も気取った体裁もなく、平易な文体で書かれていて、電子辞書とノートが無ければ読み進めることが出来ない私の癖を必要としないので、読むに苦なく、車中の私を大層喜ばせてくれるのである。
そもそも旅行するときなど、移動する乗り物の中で、短い小説やエッセイを読むのは、とても素敵なことだ。しばし読んだあと、疲れた目を挙げ、ここはどこら辺かと窓外に目をやる。流れる風景を楽しんで、ちょっと息継ぎをしてまた本や車内誌に視線を戻す、そんな時間のちょっとした幸せ。

JAL A350の50番席が私のお気に入り


さて私は、先月の短い旅行においてもまた、私淑している太宰治を「旅の友」とした。
読むのは、主に新幹線や飛行機の中だけど、それにもまして、時にリゾートホテルのブッフェ朝食の時、サラダやフルーツを美味しそうに食べる妻を前に、2杯目のコーヒーを飲みしま読む、というのも、私に十分な幸せタイムをもたらせてくれるのである。
この旅行で読んだのは、「ダスゲマイネ」を途中まで、「御伽草紙」は浦島さんの途中まで、あと「思ひ出」の後半。つまりみよとの初恋あたり。だいぶつまみ読みしてしまったのだが、これは多数の本を持ち歩ける電子書籍ならではの、読書の楽しみと言ったところではなかろうか。
そうそう、10年ほど前になるか、嫁さん所望のハワイ旅行に行った時など、行きの機内で読み始めたままに、宿泊先であるおしゃれホテルのクラブラウンジにあるソファを陣取って、「御伽草紙」を全部読んじゃったなんて事も今更思い出し、「リゾートホテルde 太宰治!」と言う訳わからんキャッチコピーも浮かんできてはひとりニヤリとして、「ちょっと読書」という楽しみを旅に付加させている私なのである。