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閑話二題

夢を見た

テレビには最近流行の婚外恋愛をテーマとしたドラマが映し出されている。
とある男が年長の女に優しく愛されるシーンに場面が切り替わって、なんだか私は落ち着かない。
その場を打ち消す一言を発しなければいけないと焦った私は、事もあろうに、
「ああ、いいな!こんなことされてみたい」
そう言った、ような。
すると隣で一緒に見ていた妻が、
「○○さんに抱いて貰えば良いじゃない!」
と、ごく自然に柔らかな口調でニコリとしながら、○○さんと、私の恋人の名をあげて返す。
優しい口調で言って貰ったのに、知るはずのない恋人の名を出した事に、突如として激怒(逆ギレ)した私は、妻に向かって何かを激しく言い返す。

とそのあたりで、夢なのか、妄想なのか、よく分からないままハッと目が覚めた。
「どうして恋人の名を知ってるんだ?」
真夜中だった。電気毛布を強にして、そのまま寝てしまい、熱さにうなされていたせいなのかも知れないが、それは「浅い眠りの中の妄想」というのが正確な表現だと思う。そうして私は喉が異常に乾いているのを感じ、キッチンへ水を飲みに向かった。そして目が幾分か覚めるにつれ、まさかベッドで恋人の名を言わなかったろうに、いやそれでも、と不安になってしまった。

そんな、優しかったあの恋人も、既に私のもとを去っていった。
季節は例年より早い冬を迎えた。毎日が前日の延長でしかないむなしい日々が連なるようになって、私はまた独りで首をうなだれたまま、連綿と続く毎日を這うように過ごしはじめたのだ。
確かに別れた恋人の面影を引きずってはいるものの、日が日を重ねる毎に、最近は若い頃死んだ前の妻のことなどまた思い出すようになって、すると恋人に対する愛は、詰まるところ、ひとりでいる寂しさの裏返し、穴埋めなのじゃないかなど、そんな若者じみた事を考えだすようにもなった。
それでも、恋人の優しい顔や柔らかい身体を思い出しながら、布団を頭まで被って、今夜もまた眠りに入ろうとしている私。できれば恋人の夢を見れますように!でも、うなされないように、電気毛布を少し弱めにしてね!

南京事件

古谷経衡氏のいち推し
南京事件」 秦郁彦 中公新書
を読み始めた。
何度も書いていて申し訳ないが、大事なこと。
私が太平洋戦争で、いわゆる、徴兵、軍属、徴用工などで従軍した下級兵士たちが、先の戦争で受けた悲惨な出来事を調べているのは、あの太平洋戦争は、決して中世の話ではないのだという確認を、常に自らの念頭に置いているということである。
明智光秀や織田信長の時代ではなく、麒麟がくる来ないの話でもない、まさに私達の父母、祖父母たちが生きていた時代なのである。徴兵で従軍した私の父も「ただ、ただ、(上官達に)殴られに行っただけだ」と話していたのを思い出す。
自分の親が殴られて良いわけはない!「オレのおやじは19才、20才頃、ボカボカに殴られまくっていたんだ!」という怒りだ。
戦争だからという理由ですべての価値観が変わってしまう、そんな凄惨な実相が確かにあったのだ。そこをしっかりと自分自身が再認識しなければいけない。そうでないと自分は、単なる「日本近代史」を調べている、町の歴史好きおじさん、で終わってしまう。
父ちゃんやじいちゃんが受けた事への怒り、それを忘れぬよう肝に銘じて、戦争の本を読んでいこうと思う。