見出し画像

太宰治とポケモン

まあこの時間に、これを読んでいるあなた(男)に、なるほど、と唸らせる一つがあるとしたらそれは、フジテレビ岡副麻希ちゃんは間違いなく可愛いと言うことです。というフリから今夜の話を始めたい。
と言うのも半年前に入社してきた若い社員が、ひょんな事から私と一緒に仕事をすることになりまして、ところが私と彼とはどうにも年齢が離れ過ぎています。さてどうしたものか、どうコミュニケーションを取ればいいのか。でもね、承知の通り、男同士って便利なツールがあるんですよ、スポーツ、車、女、ついでに下ネタ。
ところがその新人君はちょっとはオレに話を合わせる努力などすればいいのに、話の歯車が合わないんです。
「好きな車なに?」
「フェラーリですっ」
「好きはいいんだけど、買えないでしょ」
「まあそうですね」で話が切れる。
「彼女は?」
「て言われてもまだ赴任してきたばかりでいませんよ」
「まあそうだよね」話が切れまくる。
では、下ネタいきますか。でも。いきなりそこに行ったんじゃあさすがにお里が知れる、というか安易だよね。そこで、さあ先輩としてはもう少しコミュニケーションを何とかしなくてはと、私は必死に接点を探し始めたんですよ。
「じゃあどんな子がタイプ?おっさん(私)こうみえて芸能関係、結構詳しいのよ、言ってみて」
「乃木坂の○○ちゃんて感じかな」
「(ん?乃木坂?白石麻衣しか知らねえし)あ、そうね。汗。じゃあ、おっさん女子アナめっちゃ詳しいんで、もう少し絞り込みの作業しようよ」
新人くん「岡副麻希(おかぞえまき)ちゃんです、どうです、おっさん?」

ビビビっと来た。確かに、そのとき歴史は動いた(笑)

瞬間、私の脳髄を電気が走りました。
「あ、いい。おかぞえちゃん。いいよね。可愛い。うん俺も大好き」
はーーい。決定です。みんなが好きな女子は「岡副麻希ちゃん」です。新人君とは年齢差を乗り越えて、たったいま友達になりました。
おれ「じゃあオレたち仲良くなれたよね、兄弟だよね。岡副麻希ちゃん推しってことで」
話は俄然盛り上がります。
おれ「じゃあ岡副ちゃんは、どんな感じでかわいいのか表現してみて。」
新人くん「なんだか髪の毛くしゃくしゃってして、おまえ可愛いね、っていってあげたいかわいさです」
わお、何というすばらしい表現力!
おれ「おっさんはですねぇ、スタジオに乗り込んで岡副ちゃんの前に俺の手を出して、ほらこっちおいでって言って、外へ連れ出したい、そんな可愛さってところかな」
女子の可愛さ表現のガチ勝負。私もなかなか言いいますよね。素晴らしい。

そんなこんなの昨今の出来事でしたが、枕詞が長くなりました。すみません。

さて、先日私、東京へ遊びに行ってきました。
目的は二つあり、別用は午後にあったので、午前はもうひとつのことを。
それは東京都三鷹市にある、「太宰治文学サロン」を訪問すること。
どんよりとして朝から蒸し暑く東京の夏そのもの、そんななか三鷹駅に到着した私はグーグルマップ頼みに何とか目的地にたどり着きました。
ビルの1階にある貸し店舗状の一室にその「太宰治文学サロン」はありました。「あ、勝手に見ていてかまいませんか」
お姉さん「はいどうぞ勿論です。」
早速ボランティア説明員の方が近くに来て、親切に解説をしてくれます。部屋の一角には晩年の作品「如是我聞」を中心とした作品の原稿(複製)など展示され、でもね志賀直哉への反駁でしょ、あの作品は余り感動もなかったのね。もっと違う作品いっぱいあるでしょ。
え、桜桃の書き出し?ガーン!!
私の大好きな小説「桜桃」の書き出し部分の原稿(複製)が「如是我聞」の横に展示されていて、見た途端、私は感きわまり、うおーっっと雄叫びあげてしまいましたよ。


「われ、山に向かいて目を挙ぐ。子供より、親が大事と思いたい。」から始まって
「この、お乳とお乳のあいだに、…… 涙の谷、……」と来て
「ああ、ただ単に、発育がおくれているというだけの事であってくれたら!この長男が、いまに急に成長し、父母の心配を憤り嘲笑するようになってくれたら!」と障害を持って生まれた長男を憂い、そして最後には、
「桜桃が出た。 私の家では、子供たちに、ぜいたくなものを食べさせない。 子供たちは、桜桃など、見た事も無いかもしれない。食べさせたら、よろこぶ だろう。父が持って帰ったら、よろこぶだろう。蔓を糸でつないで、首にかけると、 桜桃は、珊瑚の首飾りのように見えるだろう。しかし、父は、大皿に盛られた桜桃を、極めてまずそうに」食べるシーンで終わるこの作品のすばらしさは言わずもがな。
(桜桃やら太宰やらの真髄あたりを話していると、本題に入るタイミング失ってしまうので、また後で書きますからね。)
さて、小一時間ほど女性の方とお話しながら展示物を見させてもらいました。そんなボランティアの女性の方が、そろそろ帰りますと告げた、去り際の私に向かって、とても強く勧めた、三鷹駅西方の跨線橋。そこに行ってみることにしました。文学サロンから駅へもどり、駅に向かって左の道をまっすぐに進んでいくとそれはあります。三鷹電車区の東端。確かに少し古めかしい、いい味を出している跨線橋が見えます。その手前には跨線橋に上るための広い階段がありますね。その階段の登り口の端には、太宰治とこの鉄橋のいわれについて書かれたレリーフがあるのを見つけたんですが、そこを囲むようにしておおよそ階段の中程あたりまで、総勢二十名くらいの若い人たちが座り込んでいるではありませんか。
おや、太宰治ゆかりの場所を訪ねる散策のイベントでもあって、ここが集合場所なのかなと、最初は思いましたよ。ところが若い人たちみんな下を向いてスマホをいじっているじゃあありませんか。スマホです。
「おまえたち、何してんねん?」言いませんでしたが、それでも階段の一番上にいた女子のスマホをちょっとのぞき込むと、あらら、あれね。
みんなポケモンやってるのね。このスポットが良いのでしょうか、私にはさっぱりと言うか皆目わからないけど。暑さのせいだけじゃなくて、なんだか少しイラッときた私。
「おめえたち、いいおとながなにやってるんだ」と言葉こそ出しませんでしたが蔑む視線を思い切り彼らに向けて見ましたが、そんな彼らの一人のあんちゃんも早速オレのところ見て、「なんだあ、おめえ誰だぁ?」て顔するんですよ。
あわよくば跨線橋をバックに、太宰と同じポーズで何枚か写真を撮ろうと、策を巡らしていた私ですが、彼らのポケモンゲームパワーにおされて、いささか居づらくなり、また閑散とした冬に来ようと自分に言い聞かせ、すごすごとその場を離れた次第です。太宰先生も草葉の陰で、こいつらバカじゃねえか、などと嘆くに違いなく、ついでに私も調子に乗って、怒られるのは、如是我聞の志賀直哉どころではない、この炎天下スマホゲームに夢中になっているオトナたちだ、などと小さな声で毒づいてしまった、東京三鷹の哀しい跨線橋絵図でした。

ポケモン大嫌い!