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【交通事故】交通事故の治療に健康保険を利用できるか?

【よくある質問】交通事故に遭い、むち打ちになってしまったので、病院へ行って健康保険を利用して治療しようとしたところ、窓口で「交通事故の治療に健康保険は利用できません」と断られてしまいました。本当にそうなんでしょうか?

 交通事故の案件に対応していると、「交通事故の治療に健康保険は利用できない」と考えている交通事故の被害者、医療機関の関係者は極めて多いです。

1 交通事故の治療でも健康保険は利用できる

 はじめに結論を述べておくと、交通事故で負傷し、治療する場合でも、健康保険を利用することができます

 厚生労働省が平成23年8月9日付の通達「犯罪被害や自動車事故等による傷病の保険給付の取扱いについて」で、端的にこの結論を示していますので、以下引用します。

 犯罪や自動車事故等の被害を受けたことにより生じた傷病は、医療保険各法(健康保険法(大正11年法律第70号)、船員保険法(昭和14年法律第73号)、国民健康保険法(昭和33年法律第192号)及び高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号))において、一般の保険事故と同様に、医療保険の給付の対象とされています

 また、ついでに引用すると、この通達では、交通事故の治療で健康保険を利用する上で、加害者の誓約書の提出は必須ではない、ということも明らかにされています。

 犯罪の被害によるものなど、第三者の行為による傷病について医療保険の給付を行う際に、医療保険の保険者の中には、その第三者行為の加害者が保険者に対し損害賠償責任を負う旨を記した加害者の誓約書を、被害者である被保険者に提出させるところもあるようですが、この誓約書があることは、医療保険の給付を行うために必要な条件ではないことから、提出がなくとも医療保険の給付は行われます

 ただし、交通事故による受傷が、労災保険の受給対象となる場合(通勤途中や業務中の交通事故の場合)は例外で、労災保険が優先して適用されますので、健康保険を利用することはできません(健康保険法55条1項)。

(他の法令による保険給付との調整)
第五十五条 被保険者に係る療養の給付又は入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費、移送費、傷病手当金、埋葬料、家族療養費、家族訪問看護療養費、家族移送費若しくは家族埋葬料の支給は、同一の疾病、負傷又は死亡について、労働者災害補償保険法、国家公務員災害補償法(昭和二十六年法律第百九十一号。他の法律において準用し、又は例による場合を含む。)又は地方公務員災害補償法(昭和四十二年法律第百二十一号)若しくは同法に基づく条例の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない。

2 特に過失相殺が見込まれる事案では健康保険を利用した方が良い

 また、交通事故の相談を受けていると、「私は被害者なのに、なんで自分の健康保険を使うしかないんだ。」とおっしゃる方が相当数います。

 そのような気持ちはわかりますが、被害者側にも過失がある場合、健康保険を利用しないことで経済的には不利なことになっている、ということを、事例をもとに説明します。

【事例】
・治療費
 ⑴ 健康保険を利用した場合100万円(自己負担3割部分30万円の治療費は任意保険会社が支払済み。7割部分は健康保険を利用)
 ⑵ 健康保険を利用しない場合200万円(自由診療の場合、1点当たりの医療費が健康保険診療の2倍とされていることが多いです。全額任意保険会社が支払済み)
・慰謝料などその他の損害 100万円
・過失割合 被害者30:加害者70
・被害者が加害者から支払われる金額は?

 まず、健康保険を利用した場合、任意保険会社から支払われる金額は、次の通り61万円となります。

【健康保険利用】
総損害額130万円(健康保険利用部分は除きます)×加害者の過失割合70%-既払いの治療費30万円=61万円

 次に、健康保険を利用しない場合、任意保険会社から支払われる金額は、次の通り10万円となります。

【健康保険利用せず】
総損害額300万円×加害者の過失割合70%-既払いの治療費200万円=10万円

 この事例だと、健康保険の利用の有無により、任意保険会社から支払われる金額が大きく異なります。

 このような結論を招きかねませんので、被害者側にも過失があるかもしれない場合や過失があるかどうかわからない場合には、健康保険を利用することを積極的に検討しましょう。


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 記事をご覧いただきありがとうございました。

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