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【相続・遺留分】遺留分に関する話し合いの進め方

 最近、遺留分に関するご相談をいただく機会が増えています。

 やや古いデータですが、「平成 29 年度法務省調査 我が国における自筆証書による遺言に係る遺言書の作成・保管等に関するニーズ調査・分析業務報告書」によれば、公正証書遺言、自筆証書遺言ともに、利用者数が増加傾向にあるようですので、その影響でしょうか。

 今回は、遺留分に関する検討順序について、遺留分調停の進め方を参考にしつつ解説したいと思います。
 なお、令和元年7月1日施行の相続法改正の前後で、遺留分に関する法律の内容が変更されておりますので、ご注意ください。

1 遺留分侵害額請求権(【旧法の名称】遺留分減殺請求権)行使の確認 

 ⑴ 申立人が遺留分権利者であること

 遺留分権利者は、配偶者、子及び直系尊属です。兄弟姉妹は、法定相続人ではありますが、遺留分権利者ではありません

(遺留分の帰属及びその割合)
第千四十二条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。
一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一
二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一

 ⑵ 被相続人が、遺言によって財産を処分したり、生前贈与をしたこと

 遺言による財産の処分や生前贈与がなされていなければ、遺留分侵害の問題は生じません。

 ⑶ 遺留分権利者が、被相続人の死亡と自分の遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に権利行使の意思表示をしたこと

 遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)は、相続の開始及び遺留分の侵害を知ったときから1年間の期間制限がありますので、ご注意ください。

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

2 遺留分の算定

 ⑴ 計算式

 (相続開始時遺産総額【注:遺贈財産を含む】+生前贈与額-相続債務総額)×遺留分割合

 ⑵ 加算の対象となる生前贈与

 上記計算式のとおり、被相続人が、生前贈与をした財産を、遺留分算定の基礎財産に加算します。
 過去になされた贈与を無条件にさかのぼってしまうと、贈与を受けた人の立場を不安定にしてしまうので、遺留分算定の基礎財産に算定される贈与は、次の範囲に限られます

原則相続開始前1年間にされた贈与。
例外1:遺留分権利者に損害を加えることを知ってした贈与1年前の日よりも前にされたものでも算入される。
例外2:相続人に対する特別受益としての贈与相続開始前の10年間にされたものであれば算入される。 注:改正前は、時期的に無制限にさかのぼって基礎財産に算入されていた。

第千四十四条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。
2 (省略)
3 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

 ⑶ 【注意】各相続人の寄与分は考慮されない

 遺留分侵害額請求をされている当事者が、減殺額を減らすために寄与分の主張をしても無意味ということになります。

3 遺留分侵害額の算定

(遺留分額(2で計算した額)-(特別受益額+遺贈額+相続による取得額)+承継した相続債務額(いずれも個々の権利者についての金額である。)
※「遺贈」:遺言による贈与

4 遺留分減殺の対象・順序・効果

 贈与と遺贈が併存するときは遺留分侵害額は、まずは受遺者が負担し、それでも足りないときにはじめて受贈者が負担することになります。
 死亡に近いものから遺留分減殺の対象とし、取引の安全を保護することを意図した規定と理解しています。

(受遺者又は受贈者の負担額)
第千四十七条 受遺者又は受贈者は、次の各号の定めるところに従い、遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては、当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として、遺留分侵害額を負担する。
一 受遺者と受贈者とがあるときは、受遺者が先に負担する。
二 受遺者が複数あるとき、又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは、受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は、後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

5 履行方法

 ⑴ 【旧法】現物返還または価格弁償

 旧法下では、遺留分減殺請求権が行使されると、その効果として遺留分減殺請求権に服する範囲で遺贈・贈与が失効するものと解されていました。
 その結果、遺留分減殺請求権行使の相手方は、自身が受領した財産を現物返還しなければならないものと解されていました。

 また、目的物の返還請求を受けた受贈者・受遺者は、目的物の価額を弁償することによって目的物返還義務を免れることができるとされていました(旧法1041条1項)。

【旧法】 (遺留分権利者に対する価額による弁償)
第1041条
受贈者及び受遺者は、減殺を受けるべき限度において、贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。

 また、遺留分減殺請求の前に受贈者・受遺者がその目的物を既に第三者に譲渡してしまっていた場合には、価額弁償をするものと定められていました(旧法1040条1項)

【旧法】(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
第1040条
減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。

 ⑵ 【現行法】金銭給付

 旧法下では、遺留分減殺請求により、不動産や株式などは共有状態になってしまうこととなりますが、このようなことでは持分の処分や事業承継に支障が生じてしまいます。

 そのため、民法改正により、遺留分侵害額請求の意思表示により、遺留分侵害額に相当する金銭の給付を求めることができる債権が生じるものとされました。

(遺留分侵害額の請求)
第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

6 まとめ

 ざっくりとした解説となってしまいましたが、遺留分侵害については、以上のような順序を経て検討していくことになります。

 なお、東京弁護士会のホームページにて遺留分計算シートというものが公開されており、驚くほど便利です。
 もし機会があれば、活用してみてください。

 今回の記事は以上です。
 最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。

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