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財産評定【中小企業の自主再建型民事再生】

 自主再建型の民事再生手続の一連の流れを、
① 民事再生手続きを選択するに至るまで
② 民事再生申立ての準備
③ 民事再生手続開始決定
④ 財産評定・債権調査
⑤ 再生計画案を作成し認可されるまで
⑥ 再生計画の遂行・終結

の6つの場面に分けて解説しています。

 前回までで、民事再生手続開始の申し立てをして、民事再生手続開始決定が出るところまで解説をしました。
 今回からは、民事再生手続開始決定後の場面に進み、④財産評定・債権調査について解説をしていきます。

1 開始決定後に行っていくこと

 民事再生手続でも破産手続でも、開始決定がなされると、その次は、プラスの財産がどの程度あるかとマイナスの財産がどの程度あるかを調査することになります。

 破産手続きの場合は、プラスの財産をお金に換えて、債権者に分配することになります。
 民事再生手続きの場合は、プラスの財産を超える金額が債権者に分配されるよう(破産よりも債権者が多くの利益を得られるよう)、再生計画案を作成していくことになります。

 民事再生手続きでは、プラスの財産がどの程度あるのかを調査するための手続きを財産評定といい、マイナスの財産がどの程度あるのかの調査を債権調査と言います。

 今回は、前者の財産評定の解説をします。

2 財産評定の意義

 財産評定を行うべきことについては、民事再生法124条1項に定められています。

 (財産の価額の評定等)
第百二十四条 再生債務者等は、再生手続開始後(管財人については、その就職の後)遅滞なく、再生債務者に属する一切の財産につき再生手続開始の時における価額を評定しなければならない。

 財産評価の機能はいくつかありますが、その一つは、清算価値を把握するための資料としての機能です。

 民事再生手続において再生計画案が認可されるためには、再生計画による弁済率が清算配当率、すなわち破産した場合の配当率を上回っている必要があります(民事再生法174条2項4号)。これを清算価値保障原則と言います。
 破産手続きで配当されるはずの金額よりも少ない金額を、長期間にわたり分割で弁済されても、破産手続よりも損をしているので債権者は納得しませんよね。そのため、清算価値保障原則が定められています。

 (再生計画の認可又は不認可の決定)
第百七十四条 
2 裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。
四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。

 財産評定は、再生債務者が有する財産がどの程度であるのか、すなわち清算価値はどの程度であるのかを把握する機能がある、ということになります。

 民事再生法124条1項が定める通り、財産評価の基準時は、再生手続開始決定時です。

 また、財産評定は、原則として財産を処分するものとして行う必要があり(民事再生規則56条1項本文)、個々の財産を処分するといくらになるのかで価格を評価することになります。この処分価格は、仮に再生債務者が事業を清算して早期に財産を処分した場合の価格(早期処分価格)となります。
 先ほど述べた通り、清算価値がどの程度であるのかを把握するために財産評定を行っているからです。

(価額の評定の基準等・法第百二十四条)
第五十六条 法第百二十四条(財産の価額の評定等)第一項の規定による評定は、財産を処分するものとしてしなければならない。ただし、必要がある場合には、併せて、全部又は一部の財産について、再生債務者の事業を継続するものとして評定することができる。

3 財産評定の具体的手順

 財産評定書は、財産目録、貸借対照表、清算配当率の計算書で構成されています。

 日本公認会計士協会近畿会のホームページに挙げられていた参考書式を添付します。

 実際に作成する際には、まず財産目録を作成し、次に財産目録の数値を転記して貸借対照表を作成し、最後に清算配当率の計算をすることになります。

 財産目録作成の際、資産項目については、預金等についての相殺見込額や別除権(担保権のようなもの)の価額を把握する必要があります。また、負債項目については、相殺・別除権対象債権、共益債権・一般優先債権、一般再生債権に分類する必要があります。添付のエクセルファイルの「財産目録」というシートをご覧いただくとイメージが着きやすいと思います。

 上記のように、貸借対照表は、財産目録の数値を転記する形で作成します。貸借対照表には、帳簿に計上されている負債の他に、リース債務、解雇予告手当、退職金、破産管財人の報酬など、再生手続開始決定日時点において事業を清算した(破産した)と仮定した場合に、発生すると見込まれる負債も計上します。

4 主要な資産の評価

 主要な資産の評価の方法は次の通りです。

⑴ 現金・預金
 再生手続開始時の額面額で評価します。

⑵ 売掛金、貸付金などの金銭債権
 回収可能性を考慮して評価します。
 事業を清算する場合、任意に金銭債権を回収することが困難となることが少なくないため、回収可能性や回収費用等を考慮し一定額の減額を行うことになります。

⑶ 棚卸資産
 早期の売却見込額から売却費用を控除した価額により評価します。

⑷ 不動産
 事業の清算のための早期売却を条件とした不動産の処分価格により評価します。
 不動産鑑定士による鑑定評価を行うことが望ましいです。

⑸ 保険契約
 解約返戻金相当額をもって評価します。

⑹ 還付税金
 現実に還付が見込まれる金額で評価します。
 多額になることもあるため、忘れずに計上します。 


 再生手続開始決定後、再生債務者は、以上のようにして財産評定を行っていきます。
 大まかな手続きをご理解いただけたでしょうか。

 次回は、マイナスの財産の調査である債権調査について解説をする予定です。

 記事をご覧いただきありがとうございました。
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