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【相続・遺産分割】生前の使途不明金の取り扱い

 遺産分割の案件に対応していると、相続人のうちの1人が、生前に被相続人名義の預貯金口座から引き出しをし、私的に流用したなどとして争いになっている事案がしばしばあります。
 このような生前の使途不明金の問題が生じた場合、どのように対応すればよいでしょうか

1 遺産分割の進め方(話し合うべきトピック)

 使途不明金の問題について解説する前提として、遺産分割において話し合うべきトピックは、いくつかの段階に分析することができます。

 ① 相続人の範囲の確定

 誰が相続人となっているか、遺産分割協議は相続人全員でしなければ無効となってしまいますので、しっかりと戸籍を確認します。

 ② 遺産の範囲

 相続人が死亡時に有していた財産を遺産と呼びます。プラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も遺産ですので注意が必要です。

 遺産のうち、遺産分割協議時に存在する財産は、原則として遺産分割の対象となりますが、遺産分割の対象とはならない遺産もあります。
 つまり、遺産は、

⑴ 不動産や現金、預貯金など遺産分割の対象となる財産
⑵ 貸金債権などの可分債権や相続開始後の賃料など、相続開始によって当然に分割されてしまうため、本来は遺産分割の対象ではないが、遺産分割の対象にするという相続人全員の合意があれば遺産分割の対象となる遺産
⑶ 相続債務や生命保険金など、相続人全員の合意があっても遺産分割の対象にはできない遺産

に分かれます。

 これらの遺産の範囲を確定させる、というのがこのトピックの内容です。

 ③ 遺産の評価

 遺産のうち、例えば不動産や非上場株式などは一見してその評価額が明らかではありません。
 このトピックでは、どのような方法(不動産にしても、非上場株式にしても様々な評価方法が存在します)で遺産を評価し、いくらと評価すべきかを話し合うことになります。
 この点について話し合いがまとまらない場合には、最終的には裁判所において鑑定をすることになります。 

 ④ 具体的相続分の算定

 相続開始時の財産評価額(細かく言うと、特別受益額の合算(持戻し)もします)に法定相続分を乗じると、一応の相続分が算定されます。

(相続開始時の評価額+特別受益の額)×法定相続分=一応の相続分

 この一応の相続分の評価額に、各相続人の寄与分の評価額を加算したり、特別受益の評価額を減じたりする修正を施すことで、具体的相続分を算定します。

一応の相続分+寄与分ー特別受益=具体的相続分

 ⑤ 遺産の分割方法

 最後に、誰がどの財産をどのように取得するのか、遺産の分割方法を話し合います。

 遺産の分割方法には、

⑴ 現物分割
⑵ 代償分割:一部の相続人に特定の遺産を取得させ、その代わり、他の共同相続人に対して代償金を支払わせる。
⑶ 換価分割:遺産を換価して(お金に換えて)、そのお金を分割する。
⑷ 共有分割:遺産を共有とする分割方法。後日、共有状態を解消するためには、改めて共有分割をしなければならず、新たな紛争を招くことがあるのでできれば避けた方が良い。

という方法があります。


 遺産分割について分析をすると、以上のトピックについて話し合いをすることになります。

2 使途不明金の取り扱い

 ここからが本題ですが、冒頭で述べたように、遺産分割の事件においては、相続人のうちの1人が生前に被相続人名義の預貯金口座から引き出しをし、私的に流用したなどとして紛争になっているケースがしばしば見られます。

 この使途不明金の問題は、上記の①から⑤のトピックの中で言うと、②遺産の範囲のトピックに関連する問題です。

 払い戻しが生前に行われている場合、被相続人は、払戻しをした相続人に対して不当利得返還請求権あるいは損害賠償請求権を有することになります。
 被相続人が死亡すると、この不当返還請求権あるいは損害賠償請求権は、トピック②で述べた本来は遺産分割の対象ではないが、遺産分割の対象にするという当事者の合意があれば遺産分割の対象となる遺産に該当します

 この問題について、
遺産分割の中で話し合うことについて、相続人全員が同意するのであれば、遺産分割協議の中で取り上げることができます
が、
相続人全員の同意が得られなければ、別途、払戻者に対して、不当利得返還あるいは損害賠償を求める民事訴訟を提起する
ことになります。

 例えば、払い戻された預貯金の使途について、払戻者が使い道を説明し全員が了解した場合、払戻者が私的に流用したことを認め返還意思を示している場合には、遺産分割の話し合いの中で解決することができるでしょう。
 このような解決ができるのであれば、別途民事訴訟を起こす必要が無いので、非常にスムーズです。

 他方、例えば、当該相続人が自分は払い戻していないと主張したり、払い戻したお金の使い道は正当なものだと主張したりする場合は、民事訴訟を起こさなければならないでしょう。

 なお、被相続人の死後の払戻しについても同様の問題がありますが、令和元年7月1日に施行された改正相続法により、払戻しをした相続人を除くすべての相続人の同意があれば、払戻しをした財産が遺産に含まれるものとして遺産分割協議をすることができるようになりました。
 もっとも、一人でも同意をしない相続人がいれば(払戻しをした相続人を除く)、死後の払戻しについても遺産分割の中ではなく、払戻者に対する民事訴訟を提起して解決しなければなりません。

(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)
第九百六条の二 遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。
2 前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処分されたときは、当該共同相続人については、同項の同意を得ることを要しない。

 使途不明金の問題は深刻に問題になることが多いです。
 被相続人の預貯金を管理する立場にある方は、後日使途を明らかにできるように、領収証を残しておいたり帳簿を作成しておいたりするなどの対応をしておきましょう。


 今回は以上です。
 記事をご覧いただきありがとうございました。

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