「いらすとや」的なもの。害悪を陽気にばらまく。

劈頭からあれだが、いらすとや、が嫌いでしようがない。あの当たり障りのないニュートラルな画風がまことに気持ち悪い。

唐突に愚痴ることではなかったかもしれない。けれども人生とはいつも唐突なものなのだ。そうだろう？「いらすとや」というのは、今日そこらじゅうで見かける例の無料イラスト群を提供するサイトだが、そんなもの知らないとは言わせません。聞いたことがなくても見たことがあるはずだ。広告チラシや張り紙、ウェブ上の人畜無害のブログやホームページまで、ほとんど見かけない日はない。この頃にあっては親の顔より見ている気がする。全然まったく見たくないのにね。別段僕は「いらすとや」に対して個人的な恨みがあるわけではないし、作者の顔だって知らない。ただこれ以上視界にいれるのがつらいのです。あいかわらずこの眼前世界は気持ちの悪いものだけには事欠かないのです。どうにかしてください。

あの当たり障りの無い営業的ハイテンション全開のイラスト群が鬱陶しくて仕様がないという人、いますか。分かりますか。いやわたしあれ大好きなのよ、とかいう類稀なる美的感性をお持ちのあなたは、僕のような下劣な人間の読者ではないですね。クソしてマスかいて寝てくださいね。

あの「私たちは誰も傷つけませんよ」的な笑顔、笑顔、笑顔。企業やイベントの広報活動にあれくらい無難な絵は他にない。かのイラスト素材群は、ユーチューブでいえばヒカキン的存在といえそうだ。そうだ、ヒカキンと「いらすとや」は明らかに似ている。彼らはみなどこまでも「善良なる市民」を装い続ける存在であり、マスに向かって何か「コンテンツ」を提供する際にも常に「善良なる市民感情」しか想定していない。著名人の訃報があればほとんど反射的に「ご冥福をお祈りいたします」とか「かなしいです」とかコメント欄に書き込みまくるアホで素朴な善男善女しかあそこでは想定されていないのだ。

そうだ、万人に愛されるためには愚鈍で無邪気な笑顔を無際限かつ分け隔てなしにふりまきまくればいいのだ。被災地を訪問する「天皇皇后両陛下」のごとくに。町の選挙ポスターを見ればいい。どいつもこいつも白い歯をのぞかせてふてぶてしく微笑んでいる。いいか、この大義なき大衆社会で成功する秘訣は大衆に愛されることなのだ。偽善者とか言われてもへこたれるな。ちびっこから老人に至るまで広く愛されるイメージ作りに奔走しよう。世を拗ねているふうな奴らも本当は「好感度ランキング」の上位に食い込みたくて仕方がないのだ。この世界において愛されることは市場で勝つことでもあります。お金儲けはだいたいにおいて「えげつない」所業、高度に「打算的」な所業をたぶんに含んでいる。だからその「えげつなさ」や「打算性」をほのぼのした「いらすとや」的な痴呆的ハッピースマイルで中和させるのだ。利益本位の欲望は出来ればごまかさなければならない。アマゾンのロゴマークみたいな作り笑顔一つで人々は簡単に好感を抱いてくれる。ちょろいもんさ。

介護士募集のチラシには可愛いお爺ちゃんお婆ちゃんのイラストを配すればいい。そうすれば当分の間は職場の地獄的様相を想像させないで済む。不条理極まる醜い老人たちや苛立ったパワハラ上司、殺人的な勤務実態について察せられないで済む。「いらすとや」的なものの消臭効果は実に大したものです。

戦争が起これば志願兵募集の政府広告にきっと「いらすとや」的なものが挿入されるだろう。あの得意のニコニコイメージによって、戦地で流される大量の血が覆い隠されること請け合いだ。あらゆるグロテスクな「現実」、指導者の打算、猛烈な死臭が、あの多幸症的イメージの中に吸収されてついに見えなくなってしまうだろう。

「大事な家族を守るため、最後まで戦おう(#^.^#)」

そういえば今回の「ウイルス禍」でも似たような広報的スローガンはいくらでも見かけた。

「自分や大切な人を守るために外出は控えよう」

いらすとや、の話に戻ろうか。

何も僕は、「いらすとや」だけに唾を吐きかけようと言うのではない。どこか既視感のある、鮮明なのに安っぽい一群の画像素材の全てに、僕はほとほとウンザリして久しいのだ。その全てを巨大な痰壺に葬りたいのだ。例のフリー素材モデルの間抜けな顔を見るたびに苛立ちが高じて心拍数が上がるのが分かる。新興宗教のパンフレットなんかにお誂え向きの、あの妙に綺麗な写真素材も勘弁してほしいのです。あんな腑抜けた画像群でもどっかの糞ライターや阿呆ブロガーどもが飽きずに使うものだから、供給側もやはり飽きずに作り続ける。この負の循環は僕のような感性の人間にとって、まさに悪夢である。あの「いらすとや」に代表されるような「戦略的軽薄さ」「安全志向」「大衆迎合性」は、これからますます増長していくだろう。巨大隕石が東京のど真ん中に落ちてこないかな。すべてを一回、コッパミジンにしたいのだけど。

御免。