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同性婚判決を読みとく

 昨日、札幌地裁で同性間の婚姻についての判決がなされました。三十ページ以上にも渡る長いものですが、なるべく私の立場や主観を排して、次の三つの疑問に答えるかたちで判決の内容を概観してみましょう。

1 今後この判決の通りになるのか?

 今回の判断がひっくり返されてしまうことはありえます。現在同様の事件が他の裁判所で争われていますが、そちらが高等裁判所や最高裁判所に行き、今回と逆の判例になってしまう可能性があります。今回の判決が単なる裁判官の勇み足として放置されることもありえるでしょう。
 そのため、必ずしも今回の判決通りに進むとまでいうことはできません。とはいえ、ここでは仮にこの判決のとおりになったとすればどうなるかを検討してみることにします。

2 同性婚が認められるようになるのか?

 今回の判決からただちに異性婚と同じ同性婚ができるようになるとまではいえません。これからお話するように、「裁判所は同性婚を認めないのは違憲だと判断した」と説明する報道などはミスリーディングです。

同性愛者に対しては,婚姻によって生じる法的効果の一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しないとしていることは,立法府が広範な立法裁量を有することを前提としても,その裁量権の範囲を超えたものであるといわざるを得ず,本件区別取扱いは,その限度で合理的根拠を欠く(判決文より)

 婚姻により、二人の間には様々な法的効果が生じます。現在その是非に議論はありますが、一番わかりやすい例は同じ苗字になることでしょう。判決はこれらをまとめて「婚姻によって生じる法的効果」と呼んでいます。

 注目すべきは、なにが差別かということです。この判決は、法律が同性カップルに対してこうした法的効果の「一部ですらもこれを享受する法的手段を提供しない」ことが差別だと判断しました。
 逆にいうと、こうした法的効果の全てを同性カップルに認めなければ差別だという判断はしていません。すなわち、この判決からは、「異性婚と全く同じ法的効果の同性婚を制度として設けていなければ憲法に反する」とまではいえません

 それでは、同性カップルに具体的にどの程度の法的効果を認めるべきでしょうか。裁判所はその判断はしていません。なぜなら、それは世論等を受けて国会が決めることで、裁判所は僅かな例外を除いて口を出せないからです。
 要するに、この判決は「今の制度は違憲なので、同性カップルにどの程度の法的な地位を認めるかを国会が決めてください。単なるパートナーシップ制度の拡充から異性婚と同じ同性婚まで選択肢は幅広くあります」というものだといえるでしょう。

 なお、この判決は憲法24条が同性婚を想定してはいないとも判断しています。誤解してはいけないのは、憲法改正は同性婚の制度を作るのに必須ではないということです。
 もちろん、憲法を改正して同性婚を保護する選択肢はあります。しかし、憲法が同性婚を想定していないからといって、同性婚を法律で定めることまで禁止される訳ではないのです。

3 どうしてカップル側が敗訴したのか?

 同性カップルに婚姻と同じ法的効果を全く認めないのが差別であれば、どうして今回の裁判ではカップル側の訴えが退けられたのでしょうか。それは、カップル側が今回勝訴するため、すなわち国から損害賠償の支払いを受けるためにはもう一つ越えなければならないハードルがあり、カップル側がそれをクリアできなかったからです。

 カップル側の請求が認められるためには、国会議員が憲法に反する法律を改正しなかったことが、国家賠償法という法律に照らして違法と判断される必要がありました。そのためには、大まかにいうと、既にある法律が憲法に反することが明白であり、しかも長期(たとえば10年以上)にわたって国会議員が正当な理由なく法改正を怠っている必要がありました。

本件規定が憲法14条1項に反する状態に至っていたことを,国会が直ちに認識することは容易ではなかった(判決文より)

 「法改正をさぼった」と国会議員を非難するためには、その前提として彼らが法改正の必要を認識できなければいけません。裁判所がカップル側の請求を認めなかったのは、この要件を満たさないと判断したからなのです。ですが、裁判所から違憲だという判断を引き出せた点で、今回の裁判はカップル側が実質的には勝ったといえるでしょう。

4 おわりに

 今回の判決は、「法律の規定は憲法に反するけれど、国会議員が法改正をしなかったことが違法とはいえない。だから損害賠償は認めない」というものでした。現在、東京や福岡でも同様の裁判がなされており、今後も同性婚に関する裁判所の判断が続くことでしょう。
 こうした裁判例の動向に注目するとともに、性的指向を問わず生きやすい社会になることを願っています。

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