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私とギリシャとピスタチオ

5年前の春、ギリシャのある島にいた。
この国では一つ為すべきことがあった。ピスタチオへのリベンジである。

その少し前、飲兵衛の友人から大学近くの探偵バーに誘われた。古いカウンターの似合う落ち着いたお店で、本棚の奥には隠し部屋まであるようだ。少しだけ背伸びをして、ホームズかポアロの気分で洋酒を頼んだところまではよかった。しかし、ナッツの盛り合わせにまで手を出したため、私は殻付きピスタチオに出会ってしまった。

どう食べたものか、灰色の脳細胞は次の結論を導いた。
バルタン星人のハサミに実らしきものが詰まっている。同じ皿のピーナッツは載っているのをそのまま食べればよいのだから、これもまたそうであろう。そうして、ピスタチオを殻ごと噛み砕く音が店じゅうに響きわたった。

静かなバーのこと、犯人と名指しされたかのように注目が我が身に集まる。事態と殻の破片を飲み込みかねていると、友人もバリボリの合奏に加わった。ぞんざいな推理の報いを受ける私に恥をかかせまいとする優しい心がけはありがたいが、二人で分かち合えば音も二倍、逆効果でしかない。

島の市場では袋いっぱいのピスタチオを買い込んだ。薬草酒も仕入れてある。あの日から、私は鍛錬を重ねた。法律や哲学だけでなく、ピスタチオの食べ方も学んだ。エーゲ海の日差しは暖かく、浜辺の岩に腰かけると穏やかな波が足を撫でる。

時は来た。エーゲ海に乾杯。ピスタチオに乾杯!


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