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「保護犬だった僕と植物人間になったパパ」第3話#創作大賞2024



第3話「ハゲ犬と呼ばれて」

パパとママと暮らし始めて四年が経った頃、ボクの身体の毛が突然、抜け始めた。今まで会う人ごとに誉められていたボクのフサフサで艶々だった自慢の白い体毛が、どんどん無くなっていったんだ。そして、あっと言う間に頭と顔を抜かして、丸裸のようなわんこになっちゃった。
ボクは原因を知っていたし、恥ずかしくなかったけど一番大騒ぎしたのは、やっぱりさんちゃんママだった。
「どうしよう、どうしよう」
って、ボクを抱いてはオロオロしながら、ネットで可愛い服を取り寄せ始めた。パパは心配してくれたけど、
「変な病気だと困るから病院は連れてってあげてよ」
としか言わなかったな。
「でもでも、こんなゴンちゃんを連れて歩いて、ダーちゃん恥ずかしくないの?」

ママは、いたって標準的思考の持ち主だった。
「恥ずかしい」からお洋服を着せて、その恥ずかしい部分を隠そうとしたんだ。でもパパは違った。

「恥ずかしい?なんで?」
「だって、こんなにハゲてる犬連れてて」
「ゴンはゴンだ。恥ずかしくなんてあるもんか」

パパは、いつだってそうだった。身体が弱い人やハンディキャップを持つ人を可哀想だとか恥ずかしいなんて思わない人だった。そういう思考能力が欠如していたのかもしれない。ただちょっと不便だから、困っていたら「手を貸してあげればいい」だけだって、いつも言ってたな。
でも、それでも納得しないさんちゃんママは、出掛ける時は、ボクに必ず洋服を着せるようになった。パパは
「おっ、ゴン、カッコいいぞ」
くらいしか興味を示さなかったけどね。

動物病院での検査結果は「健康には特に異常無し」で原因不明の「脱毛」だと言われた。ママはボクのハゲの治療費に40万円以上も費やしたんだって。「へそくりがなくなっちゃった」ってまた大騒ぎしていたよ。結構、ちゃっかり隠し持ってたんだね。
他にも「毛が生えるサプリメント」を毎日飲まされたり、お水をミネラルウォーターに変えてみたりママなりに大変だったみたい。

ボクのこれからの仲間達の為にボクがどうしてハゲちゃったのかお話するね。原因は、あの捨てられた時の「ストレス」だよ。わんこのストレスは、4年〜5年で症状に表れるんだ。だから、パパもママも何も悪くなかったんだよ。僕が繊細で賢かったのが悪かったんだろうね。
「なぁ~に、そのうち生えてくるさ」
パパの見立てが正しかったの。
でも、ママ、ヘソクリがバレちゃった上にボクの為に使っちゃってごめんなさい。

こうしてボクの体毛は1年半掛かって、やっとまた生え始めた。最初にうぶ毛のような毛が生えた時、パパとママは本当に喜んでくれたんだ。やっぱりパパも内心は心配してくれていたんだね。

ボクの毛が再び綺麗に生え揃った頃、大きな地震がボク達の住む地方を襲った。ちょうど日曜日の昼下がりで、パパは居間でお酒を飲みながらテレビを観ていた。ボクはと言うといつものように、さんちゃんを押しのけてパパの隣に座っていたの。

ズンッ、グラグラグラ〜〜

地響きのような音の後に古いマンションが、大きく横に揺れた。ボクは自慢じゃないけど怖がりだ。パパはいきなり仰向けに寝ころがって、右手でプルプル震えるボクを抱くと左足で揺れているテレビを押さえつけた。さんちゃんは案の定、オロオロしているだけだった。

「ダーちゃん、ゴンちゃんばっかり庇ってズルい!私は〜?」
「来いっ!」

パパは開いている方の左手で、今度はさんちゃんを抱えた。
「いいか、もしも天井が崩れそうになったら、一緒に逃げるぞ!」

パパ、カッコいい。
揺れが収まると僕は思ったんだ。僕とさんちゃんは、いつだってパパって言う大木にしがみついていたいんだって。でも、さんちゃんはパパを見て
「変な格好(笑)カエルが潰れたみたい」
って大笑いしたけどね。パパも自分の格好を
「とっさだったからな、ガッハッハ(笑)」
って笑っていたな。

パパはカッコいいだけじゃなくて、カッコ悪いところも沢山持った人だった。
ホームサイズのアイスクリームを一人で全部食べちゃって台所で石像のように固まった事もあったっけ。ほら、ちょうど非常口に書いてある人みたいなあのポーズのまま動けなくなっちゃったんだ。
「低体温症」を真夏にアイスクリームを食べ過ぎて家の中で発症した人をボクはパパしか知らない。
そんな時はボクが寝ているさんちゃんを起こしに行くんだ。
「わん!わんわん!」(パパがアイス食べ過ぎて動けなくなってるよ~)

夜中に一人で、すき焼きの残りを食べようと卓上コンロに火を点けたまま寝ちゃった事もあったな〜。部屋中が煙だらけになって、またボクがさんちゃんを起こしたんだ。
「わん!わんわん!」(パパが火事を起こして死にそうです)

こういう事を「モチツモタレツ」って言うんでしょ?
パパは「ゴンは俺の命の恩人だ!」「ゴンほど賢い犬は居ない」って、いつもボクを誉めてくれたよ。ボクはパパを助ける為には、何でもしようって心に誓った。だってパパはボクを犬じゃなくて、いつも人間のように扱ってくれたからね。
「ゴンは俺の相棒だからな」
『相棒』って、さんちゃんが、いつも観てる刑事ドラマでしょう?うん、いいよ。パパとボクはバディだね。パパは、こうも言っていたっけ。
「ゴン、徳を積めよ。徳を積んで、今度生まれて来る時は人間に生まれておいで。出来れば俺の息子にな」
って。
「徳」って分からないけど、ボクはいつもパパの話を一生懸命に聞いていた。ボクは徳を積めたんだろうか?ねぇ、生まれ変わったらパパの息子になれるかな?
パパ、パパ、ずっとずっと一緒だよ。ボクは何処にも行かない。パパだけのバディになるって決めたんだから。

つづく


2310文字

第4話はこちら↓


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