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子供部屋おじさんの逆襲(婚活編_4話目)

私たちの話し声が意外と大きくなってしまっていたのか、会場中の注目を集めていたことに気付いた大坪さんは司会者からマイクを受け取ると、
「大変失礼致しました。フリートークは継続中ですので、皆さま楽しい時間をお過ごしください。」
と会場にアナウンスした。

「佐々木さん、もうお帰りになるんですよね。出口までお送りしますよ。」
大坪さんが私を誘導しようとした時、
「小林さんに佐々木さん、もう帰られちゃうんですか?私たちと一緒に話しませんか?」
と、先ほど小林さんを盛大に振ってくれた女性二人組がこちらに声を掛けてきた。

その様子を見た大坪さんは私たちに会釈をすると、業務に戻っていった。

私は声を掛けてきた二人組の女性たちに返事をした。
「あなた達は青山さんに加藤さんでしたよね。」
名前を覚えてもらっていたことで勝手に脈を感じたのか、二人は更なるアプローチを仕掛けて来た。

「佐々木さんってお休みの日は何をされているんですか?」
「そうですね。最近はマリンスポーツにハマっているので、サーフィンとかSAPとかスキューバダイビングなどを、そこにいる小林さんと一緒にやってますね。」
「素敵ですね。行かれる場所は沖縄とかですか?」
「沖縄もありますし、ハワイに行ったり、ゴールドコーストだったり、グアムだったり、サイパンだったり、色々ですかね。仕事で世界中に行かなければならないので、各国でやってますね。」

『世界中を飛び回っている』
この言葉がかなり響いたのだろうか、二人は益々、目を輝かせて質問攻めにしてきた。そんなやりとりを見ていた他の女性陣たちも次から次へと集まってきて、気付けば周囲を取り囲まれていた。

お金を持っている人間だと分かっただけで、先ほどまで、あれだけ『子供部屋おじさん』と揶揄し笑い者にしてきた人に対してここまで手のひら返しで対応を変えてくる人たちに徐々に疲れてきた私は、ここら辺で終わりにするために発言をした。

「私から皆さんに大事な質問があるんですが、質問しても良いですか?」
急な真面目トーンになった私に周囲は何事だ?という顔をしながら各々が静かに同意を表すために頷いた。

「ここにいる皆さんは、結婚を前提とした出会いを探しに来ていると思います。皆さんは、結婚相手に一番求めるものは何ですか?お金ですか?社会的ステータスですか?外見ですか?性格ですか?」

この質問の途中、女性陣たちは佐々木さんが唐突にしてきたこの質問への正解は何なのか?何と答えれば佐々木さんに気に入ってもらえるのかを頭をフル回転して考えていたことだろう。

一人の女性が、
「お金も外見も大事ですが、私はやはり性格が結婚相手に対しては重要視しますかね。」
と回答した。

すると、他の女性たちも『私たちも同じ意見』だと主張するように深く頷いていた。
その様子を見ていた佐々木さんがまた口を開いた。

「先ほどまで皆さんは、私の事を『子供部屋おじさん』として揶揄していたと思います。それ自体は私自身、実際に実家に住んでいるので子供部屋おじさんだと言われることを気にしてはいません。」

急な話し振りだった事もあり、女性陣たちの間に緊張が走った後に、安堵の雰囲気が包み込んでいた。

佐々木さんは、そんな女性たちの一挙手一投足を気にする素ぶりも見せずに話を続けた。


「私が気にかかっているのは、私がお金持ちだと分かった瞬間、数多くの会社を経営している人間だと分かった瞬間に『子供部屋おじさん』と揶揄し、話すらしようと思わなかった私に対して180度態度を変えた理由が何故かという事です。

先ほど、皆さんはお金やステータスよりも性格が重要だと言っていましたが、それなら平均年収程度しか稼いでいない物書き子供部屋おじさんである私に対しても、内面を知るために話をする時間は作ろうとするのが普通の対応かと思います。

でも、皆さんはそれをしなかった。理由は、『平均年収程度しか稼いでいない物書き子供部屋おじさん』という表面上の情報で私という人間を結婚対象としては価値のない存在だと認識したから。結局、言葉では性格重視・内面重視と耳障りの良い事を言っていても、本心では『お金・ステータス』が大前提として必要であり欠かす事のできない要素であるということに他ならないと思っています。」

佐々木さんの主張に女性陣は何か気の利いた返しをしないとマズイと感じていながらも、うまい言い訳が思いつかず苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

佐々木さんは、更に続けた。

「普通の家庭に生まれ、平均年収しか稼がない人は子供部屋おじさんと揶揄される対象として吊るし上げられ、私のように資産家の家庭に生まれ実家に住み続けている人物は揶揄される対象からは外す。しっかり働き、納税もしているという行動そのものは変わらないにも関わらずなのに。

それに、両親の介護が必要で実家に住んでいる人もいれば、両親との関係性が非常に良く生活する上で実家から出る必要がない人もいる。

実家暮らしという事象だけで勝手に人を決めつけ、その背景や理由などを聞く事もしない。ただ『実家に住んでいる』というだけで人間として底辺だ、社会人として価値が低いなど見なすことに違和感を感じることは無いのですか?

別に男性を選ぶ上で経済力や外見、内面など基準は人それぞれですので、それ自体を責めるつもりは毛頭ありません。でも、本心を隠し、自分を少しでもよく見せようとして、『人は内面が一番大事だ』として嘘を平気でつく。

そういった人が結婚相手として選ばれると思いますか?

話が少し長くなってしまいましたね。話を戻します。

ここにいる女性の皆さんは、『内面重視』と主張していたにも関わらず、『子供部屋おじさん』として認識していた当時の私に対しては軽蔑するような対応をしていたにも関わらず、お金を持った『子供部屋おじさん』だと分かった瞬間に態度を急変させたのは何故ですか?」

私の問いかけに対して、会場中が水を打ったように静まり返った。

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