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子供部屋おじさんの逆襲(婚活編_1話目)

「小林さん、今度一緒に婚活パーティーに行きませんか?」
私は同じ歳で恋人がいない小林さんを呼びつけ、無理やり婚活パーティーに連れ出そうとした。

ちなみに、小林さんは私の小学生時代からの幼馴染だ。同じ歳でお互いを「さん」付けしているのは特に意味はなく、私が誰に対しても「さん」付けをしているからに過ぎない。お互いに敬語なのも、「さん」付けと全く同じ理由だ。

「婚活パーティーって、佐々木さん結婚願望ありましたっけ?」
「結婚願望はそこまで強くありませんけど、良い人がいれば結婚もありだと思っていますよ。だから、一緒に行きましょうよ。」
私はそう言いながら、すでに二人分の予約済み画面を小林さんに見せた。

「行きましょうって、もう予約されてるじゃないですか。」
小林さんは、『また始まったよ。』といった感じで渋々、了承してくれた。


婚活パーティーには、男性は25~50歳までの社会人、女性は20~50歳まで25名ずつ計50名が参加していた。男性陣は学生がいない事もあり、落ち着いた雰囲気の人が多い印象を受け、女性陣は20~30代までの若い世代が多かった。

「小林さん、そろそろ始まりそうですね。さて、一生懸命アピールして良い人探しますか。」
佐々木さんは妙なテンションになっていた。

パーティーの最初は5人ずつグループに別れ、男性陣が各テーブルを回って行くシステムだった。
「そういえば、佐々木さん。ちゃんとプロフィールシート書きました?」
「もちろん、書きましたよ。」

そう言うと佐々木さんはプロフィールシートを見せてきた。
「所々、空欄はあるじゃないですか?年収とか、職業とか。」
「あぁ、そこは何を書けば良いか迷ったので書きませんでした。」
「佐々木さん、ここは婚活パーティーですよ。経済力とか社会的ステータスは、ちゃんと書かなきゃダメじゃないですか。」
「わかりましたよ。」
そう言うと、佐々木さんは渋々、プロフィールシートを埋めていた。

そうこうしているうちにパーティーが開始し、1組目の女性陣との顔合わせになった。
「各テーブルでの時間は10分間となっています。一人の人が話過ぎないように気をつけて、でも会話は盛り上げていくという婚活パーティーあるあるですが、最初にして最大の難関である自己紹介パートをぜひ皆さんで力を合わせて乗り越えていってください!!」
司会の人が場を盛り上げようと頑張っている姿を横目に、参加者たちは各々、席に着いた。

「終了のタイミングでアナウンスを流しますので、そうしたら男性陣は隣のテーブルに移動をお願いします。では、1組目スタートです。」
アナウンスが終わると、各テーブルで自己紹介がスタートされていった。

私たちの男性グループは、私と小林さんの他、28歳・会社員で身長は175cmくらいの細マッチョ体型の爽やか系男子の畑中さん、38歳・自由業(美容師)で身長は170cm前後の色黒サーファー系男子の太田さん、25歳・経営者で身長は185cm前後でちょっとオラオラ系男子の新田さんの計5人だった。

席順の関係もあり、畑中さん、太田さん、新田さん、私、小林さんの順番で自己紹介が進んで行った。

畑中さんは一部上場の超有名会社でバリバリ働いており年収は800万円と書いてあった。続いて、太田さんは美容院を都内で3店舗を経営しているようで年収は3千万円と書いてあった。新田さんは、まだ起業して2年目という事もあり年収は400万円と少し恥ずかしそうに語っていたが、会社は順調に伸びているようで会社の目標を楽しそうに語っていた。

その後、私と小林さん、女性陣5人が自己紹介を終えてもまだ数分だけ時間が残っていたので、太田さんの提案で女性陣からの質問タイムを急遽、設ける事になった。

すると、女性陣の一人が、
「皆さんは、どちらにお住まいなんですか?」
と質問を放り込んできた。

畑中さん、太田さん、新田さんは、都内のマンションに一人暮らしだと回答していった。皆さん、そこそこの家賃が掛かる場所に住んでいるようで、女性陣は目を輝かせながら話を聞いていた。

そして、私の番になり、
「都内に住んでます。」
とだけ回答すると、すかさず質問してきた女性が、「一人暮らしですか?」と追加質問してきたので、「いえ、実家にいます。」と回答すると、これまでの三人と明らかにテンションが落ちたように、「へぇ、そうなんですね。」と返答した。

私の後に小林さんも「都内で住んでます」と答えると、先ほどの女性がまた「一人暮らしですか?」と追加質問してきたので、「そうです。」と答えると、女性陣の一人が、

「佐々木さんだけ『子供部屋おじさん』なんですね。」

と揶揄してきた事をキッカケに、残り時間はずっと女性陣には私の姿は見えず声も聞こえなくなったのか、透明人間として扱われた。

「はい、10分経過しました。男性陣は、移動お願いします。」
男性陣が「ありがとうございました。」とお礼を言いながら席を変えていった。

次のテーブルからは、男性陣側はある程度お互いのパーソナリティーが分かっている状態のためか、畑中さんが自己紹介の中に「都内のマンションに一人暮らし」という住まい情報が追加された。先頭バッター畑中さんが新しい自己紹介フォーマットを作ったことで後続も住まい情報を言うのが当然という流れになり、私は毎度、『子供部屋おじさん』という事を発表するハメになった。

全てのテーブルで自己紹介が終わり、次は立食形式でのフリートークへと変わったため、私と小林さんは男性3人に「ありがとうございました。」と一言感謝を伝え、飲み物を取りにいく為に席を立った。

「小林さん、女性陣たちの反応見ました?正直、『子供部屋おじさん』がここまで拒絶反応を示されるとは夢にも思っていませんでしたよ。」
私は自己紹介中に感じていた事をぶつけた。

「確かに、佐々木さんが実家暮らしと発言した瞬間に、女性陣がさぁーっと引いていく感じはありましたね。しかも、引くだけじゃ足りず、男女共に、実家にいるっていう事実だけで佐々木さんの人格まで否定するような口撃もあって驚きましたよ。」
小林さんも驚きを隠しきれない様子だった。

「男性陣も負けず嫌いが多かったですね。畑中さんなんて、最初は自分が一番上位にいると思っていたんでしょうね。意気揚々としていた自己紹介が2回目からは他の二人に負けている事に引け目を感じたのかテンション落ちていましたね。」
「佐々木さんは、本当に人を見てますね。そして、人が突かれたくない弱い部分をズバッと切りますね。」
小林さんは笑っていた。

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