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子供部屋おじさんの逆襲(プロローグ)

『子供部屋おじさん』
2014年に2ちゃんねるで提唱された造語であり、2019年にネット上で流行したインターネットスラングである。類語に子供部屋おばさん(こどおば)がある。パラサイト・シングルやニートに似た用語だが、それらは不況や社会構造から来たものとして中立的な意味合いも持ち、厚生労働省などの公的機関においても普通に用いられる用語である一方で、こどおじ・こどおばという用語は、もっぱら個人の自立心の無さを揶揄する蔑称として用いられる。
(wikipediaより)

人間に付与された能力の一つに、他人を揶揄する言葉を作り出す能力がある。インターネットが一般家庭に普及し、誰でも気軽に匿名で自己表現ができるようになったことで、この能力が更に向上したといっても過言ではないだろう。

そして最近、日本で流行し始めている新しい揶揄言葉の一つが、『子供部屋おじさん』だ。

先に断っておくが、この話はフィクションである。話を主人公にとって都合よく進めるために、諸々を忖度している。なので、ぜひ肩肘張らずに、翌日の仕事を考えると憂鬱になってしまうタイミングで読んでいただくことをおすすめしています。

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「良い歳した男がずっと実家に住んでるなんて恥ずかしいと思わないのかね。」
「本当だよな。俺だったら恥ずかしくて街歩いたり会社に出社するとか絶対できないわ。」
「私も今の彼氏がもしも子供部屋おじさんだったら、速攻で別れるわ。」
隣に座っていた20代中盤くらいの会社員数名が楽しそうにお酒を飲んでいた。

「良い歳した大人が実家に住み続けることを、今は『子供部屋おじさん』って表現するんですね。」
私は初めて聞いた『子供部屋おじさん』という言葉に軽く衝撃を受けた。

「そうみたいですね。最近、有名経済誌やメディアも『子供部屋おじさん』特集を組んでたりしてますよ。」
「そうなんですね。確かに耳に残るキャッチーな言葉ですし、人の興味を引くには持ってこいのワードですね。」
「ええ、でも佐々木さんは恐らく、世間でイメージしている子供部屋おじさんには当てはまらないと思いますよ。」

私自身は、隣の会話を聞いている時、自分は『子供部屋おじさん』だという自覚を持っていたので、小林さんの返答に驚きを隠せなかった。

「なぜですか?34歳は『良い歳したおじさん』に当てはまらないって事ですか?」
「いえいえ、『子供部屋おじさん』と聞いた大半の人が想像するのは、30歳を超えている人物像を思い浮かべるでしょうから、佐々木さんは年齢面だけを見れば立派な子供部屋おじさんだと思いますよ。」

「じゃあ、どんな点が当てはまらないのでしょうか?」
「家柄ですかね。佐々木さんは、ハッキリ言って一般人とは違う世界に住んでいる人なので、揶揄される対象には絶対に入らないと思います。」
小林さんから言われた『家柄』という言葉は、私が子供の頃から耳に胼胝ができるほど言われた言葉であり、私にとっては不快な言葉でしかなかった。

「同じ年齢で、同じように働き、税金を納めているのに、家柄が違うだけで揶揄される人と揶揄されない人がいるって、おかしな社会ですね、日本という国は本当に。」
私は、これまでも幾度となく日本に失望してきた。今回の『子供部屋おじさん』という言葉には、初めて自分も当事者になったという事もあり、今までとは違った感情が沸き起こってきた。

「佐々木さん、私決めました。」
「一体、何するつもりですか?」
小林さんは少し心配そうな面持ちで私を見てきた。

「それは今は内緒です。」
私は小林さんの不安を更に煽るような笑みを浮かべた。昔からの付き合いである小林さんは、半ば諦めかけた顔をしながら、
「あまり無茶だけはしないでくださいね。」
と一言だけ呟いた。


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