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子供部屋おじさんの逆襲(婚活編_3話目)

「すみません、責任者の方に挨拶したいんですが、どちらにいらっしゃいますか?」
突然の問いかけにスタッフが戸惑っている様子だった。

「運営上でなにか問題でもありましたでしょうか?」
スタッフはもしクレームだった場合、上に報告される前に自分のところで止めておけるならば止めておきたいというのが本音だったのだろう。そういった雰囲気を感じたので、
「いえ、何か問題があったという訳ではありません。このパーティーを主催している運営会社の社長さんと知り合いなので、もし今日、会場に来ているのであれば挨拶してから帰ろうかと思っただけなので。」
スタッフは『そういう理由か。』と少しホッとしている顔になったと同時に、『社長と知り合いってこの人物は何者なんだ?』といった感じで私の顔を見ているように感じた。

「今日、たまたま社長が会場に来ているようです。ここにお呼びしますので、お客様のお名前を教えて頂けますでしょうか?」
「佐々木誠と申します。佐々木コーポレーションの佐々木とお伝え頂ければ分かってもらえると思います。」
「かしこまりました。社長が来るまで会場でドリンクをお飲みになってお待ちください。」
スタッフはインカム経由で社長と会話している様子だったので、私たちは指示の通り会場の片隅に座って待っていた。

数分後、会場内をキョロキョロしている運営会社の社長が目に入った。
「大坪さん、こちらです。」
私は大坪さんに声を掛けた。

「あぁ、佐々木さん。ご無沙汰しております。どうされたんですか、本日は。もしかして婚活始められたんですか?」
大坪さんは私がまさか婚活パーティーに来ているとは想像できなかったようで本気で驚いている様子だった。
「まぁね。私も良い年齢になったので結婚も視野に入れて動こうと思って。」

大坪さんと私と小林さんの3人で談笑して盛り上がっていると、出席者の人たちが『どうしたんだ?』といった感じで、こちらを遠目で見ていた。その中で大坪さんと知り合いだったのか、美容室経営者の太田さんがこちらに近寄ってきた。

「大坪さん、お久しぶりです。珍しいですね、会場に顔を出されるの。」
「太田さん、今日も来て頂きありがとうございます。何回も参加頂けるのは非常に嬉しいですが、そろそろ本気で結婚考えてみてはいかがですか?」
会話の様子を見ている限りでは、太田さんと大坪さんはよほど親睦が深まっている様子が感じられた。

「佐々木さんも大坪さんとお知り合いだったんですか?」
急に太田さんが私に話しかけて来た。すると、大坪さんが私の代わりに回答した。
「佐々木さんは弊社に出資して頂いている大株主であり、今よりもずっと規模が小さかった頃から弊社を応援してくれている大恩人です。」

『子供部屋おじさん』だと思っていた人物が、自分が想像していた以上の存在だった瞬間の様子は言葉は悪いが、非常に面白いものだった。

「え、佐々木さんってご職業は確か物書きで、そんなに年収も無いって仰っていませんでしたっけ?」
子供部屋おじさんが自分よりも数段上のステージにいる存在であって欲しくないという心理が働いたのか、私に確認をしてきた。

「はい、物書きです。これまで何冊か本を出してます。一番好きな仕事が物書きだったのでプロフィールシートに物書きって書きましたが、色々な仕事をやってるので。年収は本当の額を書くと引かれるので、日本の平均年収を書きました。」
この状況を小林さんも面白がってきたのか、多少の追撃をしてきた。
「佐々木さんの仕事は幅広すぎて、最初はプロフィール欄を空欄にしてましたもんね。経営している会社って子会社含めたら1,000くらいでしたっけ?世界中にありますもんね。」

太田さんはこれまでのやりとりを見ていて完璧な負けを感じたのか、これまで下に見ていた子供部屋おじさんに向けた視線とは全く異なり、凄い人を見る視線を私に向けてきていた。

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