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#音の世界と音のない世界の狭間で 生きるわたしが「ハンバート家の夏祭り」に行ってきた。

日比谷野外音楽堂

地方暮らしが長かったわたしだって知っている【野音】と言われるそこは、1923年に日本最初の大規模野外音楽堂として整備された音楽の聖地で。ライブ、しかも野外なんて音が拡散されてしまうような場所は聴覚障害があるわたしにとって、一生縁のないところかもしれない。それでもいつか行ってみたい憧れの場所で。

この夏、学生時代から何度も何度も繰り返し聴いてきたハンバートハンバートが野音で夏祭りをするというので、ひっそりと抽選に応募したら見事に当選してしまったので。ついに、足を踏み入れてきた。

17時会場。早めに入場して、BGMや場内放送を聴きながら補聴器の調整をする。わたしの補聴器には

・補聴器技師さんが推奨する音量
・上記から全体的に音量を下げたもの
・補聴援助システムに対応するテレコイルモード
・ミュージックモード

の4つのチャンネルが内蔵されていて、それぞれiPhoneと Bluetoothで接続させてイコライザで音量を調整できる。

事前にリサーチした情報では、野音補聴ループは設置されていない。そのため、テレコイルモード以外、一番最初のものかミュージックモードを使うつもりでいた。

いざ座席に着くと、ミュージックモードでもかすかにBGMが聴き取れる。うーむ。やっぱり野外はこんなものか……と思いつつ、今日は野音の雰囲気を味わえれば充分!とじぶんを納得させながら開演を待つ。

開演10分前。場内アナウンスの放送。もしかして、これは音声認識アプリで文字化できたりしないだろうか……と試しにUDトークを起動してみる。それでもなかなか認識はしてくれない。けれども、マイクの音がダイレクトに補聴器に入ってくる。

そうそう。W杯のときに本田圭佑の実況をUDトークで拾ったときに知ったのだけれども、このアプリを起動するとiPhoneで拾った音がダイレクトにBluetoothで補聴器に入ってきて聴き取りやすくなるようになっていて。

さすが音楽堂。音響の設備がめちゃくちゃ良いみたいで
音響→iPhone→補聴器
と経由してきた音は、普段Bluetoothで SpotifyやYoutubeの音楽を聴いているときとほぼ変わらないクリアさでわたしの耳に届いたのだ。(もしや磁気ループが付いているのかとテレコイルモードも試してみたけどやっぱりそれだけでは無理だった)

おかげで、お二人の名物漫才MCも7割くらいは理解できた。中華屋さんの杏仁豆腐の話も、RRRがおもしろかった話も、足の指の鍛え方の話も、ちゃんと分かった。MCを聴きながら、UDトークに文字化される情報を見てそれを補い、会場の人たちと一緒に笑うことができた。

ここだけだったら多分トーク内容は分からないと思うので。

聴覚障害のなにがしんどいって、ちょっとした雑談でみんなが笑っているときに、その笑いについていけないこと。仕事とか勉強とかの必要な情報は周りが教えてくれるけれども、ちょっとした小話とか雑談ってテンポも早いしそれを遮ると気まずくなるから。だから、みんなの顔を見てよく分からないけどヘラヘラと笑っていることが多い。だから、会場のMCで笑えたってことは、わたしの中ではとっても大きなことで。すごくすごく嬉しかった。

もちろんどの曲も知っているものばかり。補聴器を駆使しても歌詞までは聴き取れないけれども、二人の声がハモって響く振動や、生の楽器たちの響きは全部全部身体中に伝わってきた。まぁ、どの曲も歌詞を覚えるまで聴いているのでそこは割と問題なかったし。とにもかくにも、音楽をするための公会堂の音響は、本当にすごい。

ライブ会場とかホールだと、わたしの聴力の問題なのか聴き取れない周波数というのが絶対にあって。その楽器が演奏されていることは目で分かるのに、その音は想像で補うしかない。みたいなことがしょっちゅうある。

吹奏楽をしていたころは、スコア譜を持ってその楽器を演奏している人たちのところに行っては個別にそのメロディを吹いてもらって、自分が演奏するときはその記憶を頼りに合奏に参加していた。だから、そこにあるのにキコエナイ音があることはよく分かっている。

だけど。この夜は、見えた楽器全ての音がちゃんと音や振動として感じられた。それが本当にびっくりで。

特に、休憩後の「おなじ話」や「虎」なんかはもう感動して涙腺が崩壊してしまった。ナマの音楽って、こんなにもわたしの心を揺さぶるものなのか、と。ちょうど日も暮れて、夜風が吹いてきて心地よい雰囲気だったこともあってまた。

なんってしあわせな夜なんだろう。

これもひとえに、聴覚の訓練をしてくれた人たちや、吹奏楽時代にたくさんわたしと向き合っていろんな音を聴かせてくれた人たちや、ハンバートハンバートを教えてくれて一緒に歌詞カードを追ってくれた人や、補聴器の進歩や、それらとちゃんと向き合ってきた過去のわたしのおかげで。

ああ。音のない世界だけでなく #音の世界と音のない世界の狭間で もがいてきてよかった!この夜の心地よい風ととめどなく流れた涙を、わたしは一生忘れないと思うんだ。

【UDトークとは?】
コミュニケーション支援・会話の見える化アプリ

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