人形が、夢から目覚めない。

お風呂に入る時間が、1日の中で一番好きな時間だ。春夏秋冬温泉に行きたいし、自宅の湯船には、真夏だろうとお湯をはる。

春先に引っ越したばかりの知り合いの家に遊びに行ったら、引っ越して2週間くらい経つというのに「一度もお湯をはっていない」と言われて、本当にびっくりした。せっかく浴槽があるのに、そこにお湯をはらないという選択肢があるのか!そんなのもったいない!、そのままお湯をはって一番風呂にまであずかってきた。わたしのお風呂好きは、お節介な上に、図々しいにも程がある。

お風呂というのはどこで入っても気持ちが良いもので、1日のうちで一番の至福のときであることはまちがいない。お節介な上に図々しい態度で入ったそのお風呂も、やっぱり気持ちよかった。

ちなみに、その部屋の住人は浴槽に浸かってひと言「あれば入りたくなるもんなんだな」と言っていた。でも、その日まで2週間も浴槽にお湯を張らなかったんだから、きっとあの後毎日お湯をはる生活はしていないんだろうな、と勝手に思っている。相変わらず、お節介な上に図々しい。

それくらい、お風呂の時間が好きなんだけれど、最近我が家の浴槽がぬるい。真夏だから給湯温度を一度下げたのもその理由の一つかもしれない。それにしては、ぬるい

でも、わたしは薄々気づいている。これは、人形が夢から目覚めないせいだ、と。

というのも。我が家のお風呂はお湯がたまると「人形の夢と目覚め」が流れてくる。昔住んでいた家もこの「人形の夢と目覚め」が流れていたから、そんなに珍しくないシステムだと思う。

わたしがなんでこの曲が「人形の夢と目覚め」という曲名を知っているのかというと、妹が幼稚園くらいの時にピアノの発表会のために毎日練習していた曲だからだ。

毎日ピアノの音が流れている生活、しかもグランドピアノの。というのは一見華やかなイメージだが、毎日同じフレーズを引いて同じ箇所で躓いて、また同じところから次はじまるその音を延々と聞き続ける生活は、全然華やかじゃなかった

そして、家の中で流れているピアノというのは結構な大音量だから、補聴器を外していても普通にきこえてくる。が、いかせん周波数によってきこえる音ときこえない音があるわたしにとっては、かなり歪んだ音にきこえてくるから、きこえ続けるのもまたなかなかしんどかった。

その後わたしは部活だったり塾だったりで妹がピアノの練習をしている時間はあまり家にいないことが多かったから、あの「人形の夢と目覚め」を練習している姿で妹のピアノに関する記憶は止まっている。(彼女の名誉のために言い訳をすると、今は音大のピアノ科に通っているから、「人形の夢と目覚め」じゃない曲ももちろん弾けるし、彼女のピアノは上手だ)

それはさておき、わたしは家で補聴器をしていないことが多い。だから、浴槽にお湯がたまったかどうかを音で判断することが、難しい。お風呂にお湯がたまったら人形が夢から目覚めるはずなのに、きこえないから目覚めることができない。本当に、この曲とは、相性が悪い。

ちなみに、この問題にはこの家に引っ越してきて一ヶ月後くらいには気づいたから、早々に「人形の夢と目覚め」には頼らないことにした。そこで、お湯張りボタンを押して7分くらいが経過してからは、チラチラと給湯パネルを覗き込む生活をしている。

我が家の給湯パネルは、お湯張りをしている間だけ温泉マークがついていて、お湯はりが終わると温泉マークが消える。あと「ふろ自動」と書いてあるところのランプが消えるとお湯はりが完了する仕組みになっている。

だから、給湯パネルに気を使いながら動画を見たり雑誌を読んだりiPhoneをいじったりしながらお風呂にお湯がたまるのを待っている。

ここ最近は、欲しかった雑誌を手にしたから、お風呂のお湯をはっている間に、その雑誌を読んでいることが多い。コラムがたくさん寄稿されているものだから、「1記事読んだらお風呂に入ろう!」とは思っているのだ。

でも「あと1記事!」をズルズルと続けた結果、お風呂のお湯が溜まったことに気づかずに次の記事を読んでしまって、気付いたら給湯パネルの温泉マークは消えている

慌ててシャワーをして浴槽に足を入れるその瞬間は「これはまだいけるんじゃないか」という温かさを感じる。だけれども、肩まで浸かってみると、やっぱりぬるい

何分かそのまま粘ってみる。自分の不注意でぬるくなってしまったのに、炊き直すのはなんだか気が引ける。それでもやっぱりあったかいお湯で体を温めたくて、結局追い焚きボタンを押してしまう。

もったいないことをしていることは重々承知。だけど、やっぱりお湯に浸かった感が、欲しい

補聴器をつけていればあの「人形の夢と目覚め」もきこえることが多いし、お風呂に入るまでは家に一人でいても補聴器をつけようかな。それとも、給湯温度を一度上げてしまおうかな。

そんなことを考えながら、今日もぬるめのお風呂に浸かって、最後に追い焚きをした。

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