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ヨンカイノ世界 (1)

ワンフロアー 4室のマンション

ここに越してきて3ヶ月たつが
3室の誰ともしゃべったことがない

就職に苦しんだ僕は
地元の田舎を離れ大阪に越して来た


全室同じ間取りで
部屋の広さからするに、
おそらく全員が一人暮らしかと思われる

このマンションは小さなコの字型のマンションで
4室の玄関は2室、2室で向かい合っている

向かいのどちらかと
家を出るタイミングが重なると
しっかりと顔が向き合うカタチになる


自分は西側の404。


隣の403には女性が住んでいる
が、顔しかわからない

顔しかわからないが
会釈だけでも伝わってくる愛想のよさがある

絶対に良い人なんだろうなと思う


地元を離れている自分にとって
これまで地元でしか友達がいない自分にとって
(ただの寂しがり屋だが)

いま、すがってでも手に入れたいものは

”繋がり” である


絶対にご近所づきあいはしよう!と
手土産まで持ってきたのに
ひとつも渡せていない状況だ


東側には男性ふたりが住んでいる

401はいつもスーツ姿で見かける
スラっとした端正な顔立ちの男性

俗に言う、イケメンである


問題は402だ

色黒ガテン系で髭を生やした
いかにも。な、お兄さん

初めて見かけた際に
こんにちは(小声)(会釈)
をすると

うす。(超小声)
を返された

ほとんど ”う” を言ってなかったので
もうあれは、

す。(超小声)だった

それからは声をかけるどころか
あまり見かけることも無くなった

帰宅途中、最寄り駅で見かけた際には
必要なものも無いのにコンビニに寄ったりもした



この4階に住んでいるのは

401:爽やか系イケメン、
402:ガテン、
403:愛想女性、
404:田舎者フツメン、

の4名である



いつも通り、帰宅したある日
イケメンのお兄さんとエレベーターが一緒になった

4階のボタンを押そうとしたところ
エントランスにお兄さんが見えたので

”開く” を押して、待った

「ありがとうございます」
「いえいえ」
「お仕事帰りですか?」
「いや、ちょっと買い物に」...

テンプレの会話をしていると

「あ」とお兄さん。
何か買い忘れたものがあったのだろうか


無事、4階につき
おやすみなさいを交わし
お互いの家に帰る


お兄さんが玄関に入っていく
背中を見送りながら
「あ」とつぶやく

珍しくスーツ姿じゃないお兄さんの
Tシャツの背中に一本の線がある

なんだか嬉しくなった。

(つづく)


-EIJI-

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