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おかっぱヘアのアンチヒロイン性
私が好きな物語にはある共通点がある。
その登場人物の中に年齢や職業、話す言語はそれぞれだが、黒髪ないしはダークトーンのおかっぱヘアの女の子がいることだ。
私のミューズ
その中でも映画『パルプフィクション』(1994)は私の中で別格だ。おかっぱヘアのミア(ユマ・サーマン)はマフィアのボスの妻という立ち位置ながらギラギラと着飾ることなく、仕立ての良い白シャツとブラックのフレアパンツというファッション。
バングスが眉上にカットされたスタイルのおかっぱヘアがその出で立ちの潔さを際立たせている。
そんな完璧なスタイリングで50s風ダンスを踊ったり、世にも美味しそうなミルクシェイクをこの上なくいじらしく飲んだりするミアに、劇中のヴィンセントと同じく虜にならないはずがない。
私自身切ったり伸ばしたり色々な髪型に挑戦してもおかっぱに戻ってしまうのは、やはり彼女への憧れの気持ちからなのだと思う。
ミアが私のミューズになってからというもの、映画やドラマのトレイラーや宣材写真におかっぱヘアの女の子を見つけるとチェックせずにはいられなくなってしまった。
しかしその超私的な精査基準はあながち間違っていなかったようだった。
おかっぱヘアのヒロインが登場する作品はほぼ100%面白い。
言わずと知れた名作映画『レオン』のマチルダや現在ネットフリックスで配信中のドラマ『BABY』の主人公ルドなど挙げ出したら本当にキリがない。
ヒロインの髪型一つ、おかっぱ一つでその作品の印象を変えたり出来栄えを底上げすることだってできると思う。
もしミアがおかっぱではなく別の髪型だったなら?パルプフィクションがパルムドールを獲ることはなかったかもしれない。それぐらいの力がおかっぱヘアにはある気がするのだ。
アンチヒロイン
ではその力とは一体何なのか?
ここまでおかっぱヘアのヒロインの魅力について語ってきたが、私が思うに彼女たちの最大の魅力とは、そのアンチヒロイン性だと私は考えている。
アンチヒロインという言葉の定義は曖昧かつ解釈によって範囲が広すぎるため、ここではフィクション作品における古典的なヒロイン像(聖母的側面を持ち合わせたいわゆる人格者)から逸脱した女主人公と定義したい。
おかっぱヘアの歴史
そもそもおかっぱという髪型にどんなイメージが湧くだろうか?
昭和初期の少女のヘアスタイルというのがもっと多い第一印象ではないだろうかと思う。
実際の起源を調べてみると、日本では遡ること1000年以上前の平安時代の文献にも『目刺し髪』、『尼削ぎ』といった異なる名称で幼児の髪型としておかっぱヘアが登場することがわかった。
そして江戸時代頃になると子どもの髪型であると同時に、世俗を離れ出家した女性や刑罰を負った者の髪型『御河童頭』とされていたそうだ。
大河ドラマ『おんな城主直虎』の井伊直虎がちょうど前者にあたる。
そして時代は流れ移り変わり、西洋ではこれまでの女という概念や生き方に縛られないフラッパーやギャルソンと呼ばれる女性たちが登場した。
長かった髪をバッサリ切り落としたおかっぱボブにあのココ・シャネルが発案した丈の短いスカートとNo.5の香水は彼女たちにとってのいわば戦闘服。
男性と対等に渡り合える社会を目指し奔走した。
それまでの曲線的なアール・ヌーヴォーから直線的なアール・デコへの分岐点は女性たちの心や装いの変化に呼応するような形となったようだ。
そしてその流れは日本にも輸入され、女性解放運動やモダンガールの流行の火付け役という話は日本史の授業でも取り扱っていたはず。
↑1800年代末から1910年代までの流行ファッション(アール・ヌーヴォー)
↑1925年当時のファッション(アール・デコ)
↑新時代の象徴となった女優ルイーズ・ブルックス
↑大正時代日本のモダンガール
下のリンクに飛ぶとココ・シャネルの軌跡を拝見することができる。
彼女の創造した永久不滅の『スタイル』はどんな時代でも女性たちを輝かせ勇気を与え続けるのだと確信した。
反骨精神と少女らしさの同居
このように長い歴史の中でその当時一般的とされていた髪型とおかっぱとでは
女性↔︎少女 俗世↔︎離俗 保守↔︎革新
というように常に二項対立の関係となっていることがわかる。
おかっぱヘアは女性の象徴ともされていた長い髪を切り落とすことによって、外界から作り上げられた理想の女性像(貞淑、従順、献身的、良妻賢母など)へのアンチテーゼを唱えるような、いわば反骨精神の現れなのではないだろうか。
女優としてのキャリアに見切りを付けギャングスターの妻として組織の頂点にのし上がったミア、家族を殺したならず者への復讐を誓うマチルダ、学校きっての問題児でありその美しさで次々周囲を翻弄していくルド、と先ほど紹介したおかっぱヘアのアンチヒロインたちはまさに反骨精神旺盛だ。
誰もが「そんなバカな」と言ってしまう無謀なことに挑戦しそれをやってのけてしまう。
髪型は口ほどにものを言う。
一糸乱れぬその髪は女性の内面に秘められた強さや覚悟とも捉えることが出来るだろう。
そして凄みがあるだけではなくおかっぱの本来の持ち主である少女らしさもそこには同居しているのだ。
ダンスコンテストに飛び入り参加したり映画の登場人物を真似た一人芝居をしてみたりと、その時より見せる無邪気な可愛らしさが作用し圧倒的魅力となって彼女たちは多くの人に愛されているのだろう。
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