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春とデニム
春物のコートを買った。
デニム地の薄手のトレンチコートだ。
丈の長いコートを初めて買ったのは中学生の時。
グレーのダッフルコート。
その次はそれからだいぶだいぶ経った3年前の冬。茶色のウールロングコートで、これは今冬まで活躍している。
春に向けて着るもの変えたいなぁと思うと、デニムを使いたくなる。
春はデニム。
そんな感覚の刷り込みは、前職だったアパレルで10年かけて培ったものだろう。
新卒で入ったその会社はいわゆるファストファッションの筆頭で、
僕が入社した16年前は、それまでの"安かろう悪かろう"的なパブリックイメージが若年層を中心に少しずつ薄れ始め、
ネクストステップへとブランド戦略を進め始めた頃だったように思う。
当時の新入社員は400人余り。
今でも入社式やその前後の本社での泊まりがけの研修が微かな記憶として残っている。
コーヒーをブラックで飲めたのが確かこの頃の研修の時だったな。
結果として僕は一年でその会社を一度辞めている。(厳密にいうと社員を辞めて、好きなことやりながらバイトで続けることになったというのが正しい。以降の紆余曲折は機会があれば。)
"ブラック企業"という言葉もまだあまり聞きなれない頃だったように思う。
ただ、おそらくブラック企業だったのだろう。
周りの同僚が一年余りで半分近く辞めたという話は後になって知った。
自分自身があまりに未熟だったなぁと今となっては思うけど、当時はこの怒涛の一年がとにかくしんどかった。
3度目の転勤の時、それまでの関東から中京の店舗に行くことになった。
新店オープンのためのゴリゴリな人事で、住まいも決まらぬままとりあえず異動、1週間ホテル暮らしで過ごした。
ようやく住居が決まってからも毎日早朝から深夜までの仕事が続いた。
ちょうどオープン準備が終わるかどうかというころ、母が電車で数時間かけて訪ねてきてくれた。
ようやくできた休みの日に母と近くのショッピングモールに行き、ラグや小さな観葉植物を買った。
食事も作ってもらったと思う。
明日母が帰るという夜、
本当に忙しくてなぜかはよく覚えてないけれど、
大人になってから初めて母の前で大泣きした。
それから4ヶ月後、退職した。
その後、自分のやりやすい任用形態で仕事を続けられたことは結果的によかったなと思う。
最終的には都内の旗艦店のVMDチームでオープンから3年弱、やりたかった仕事をやりがいを持って取り組めた。
何もわからずに詰め込まれて泣いていたあの頃の自分も、辞めた自分も、形を変えて続けた自分も間違ってなかったと思えた期間だった。
入社してすぐの頃、上司との面談で自分のことを"スロースターター"と称したら、その上司が"スロースターターは結果的にみんなに追いつくんだよ"と言われた。
だいぶスローだったけど、10年働いて追いつくことができたなという自負ができた。
そこで一つ達成感があったのもあって、
その後家業に入ってこの3月で丸5年。
ひさびさに前職のこといろいろ振り返ったら、少しヒントが見えたような気がする。
正直疲弊しきっていて、
猛ダッシュしても全然先が見えない。
けどもう一度追いつきたい。
そんな春。
デニムコーデ。
明日着ようと思ったのに雨だし寒いんだってさ。
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