ビブリオテークの妖精

図書館のすみにある購買部でパンを買って、廊下のベンチに座って、
ほんのわずかな時間でしたが、お話ししましたね。
まぶされたお砂糖が落ちてしまうのを気にしていたのは私だったか、あなただったのか。
ずーずーと、紙パック入りの飲み物を啜る音が聞こえました。

私には長らく部屋にこもりっきりだった日々があって、その日はいよいよたまらなくなって、午後、行くあてのないまま外に出かけて、
歩いているうちにだんだん雲行きが怪しくなってきて、雨が降るまえに通りがかりの市立図書館へ。
そこに入るのは初めてでしたが、あまりそういう感じはしなかったです。

思うに、図書館というところはどこも繋がっているような気がします。
幼いころから今までに通ったいろいろな図書館の、棚の前に座り込んで本を探したり、古びたページをめくっていた時間に通じていて、
だからいつでも不思議と懐かしいのです。
その日も何か本が読みたかったわけではなくて、ただただ懐かしい気持ちに浸りたかったのだと思います。

しばらくすると思った通り雨が降りはじめて、外は暗く、夜のようになりました。
窓に滴が流れて、遠くで雷が鳴っています。
ざあざあ、すっかり雨に閉じ込められたようで、私はなんだか安心していました。
舞台の幕が下ろされて、今日はもうここまで。
これ以上どこかに行かなくてもいいよって、言ってもらえたようでしたから。

横を見ると、同じように窓の外を見ている子がいて、それがあなたでした。
あなたはきらきらした目で
「雷ってすき? わたしは一番好き」
と、言いました。

時々光る雷がまぶしくて、こうしてあなたと並んで立っているのは、夜の教室でクラスメイトと花火を見物しているよう、
そしてあなたも私と同じで、本を読むためにここにいるのではないということが、ひしひしとわかるのでした。

木の手すりの冷んやりした感触や、
銀色の水飲み場の味は日によって違うこと、
嗅ぐと良い匂いがするインクの本や、
夕ぐれどきに伸びる紫色の影のことなど、
人目を忍んで何か大事なものを埋めるように、小さな声で交換しましたね。

今日、本をめくっていましたら、図書館に棲む子ども、という名前の妖精がいて、あなたでしょうか。
また、お目にかかれたら。

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