現代の本歌取り『すずめの戸締り』

先月公開された『すずめの戸締り』を観た。
これだけ大規模な作品で現実に起きた震災をテーマに描くことは、簡単なことではなかっただろう。新海誠だからこそ、この描き方ができたのだと思う。

作品の本筋とは別に、鑑賞中に何度もジブリ作品が脳裏をよぎった。
『崖の上のポニョ』『もののけ姫』を思わせるセリフがあり、後半は全体的に『ハウルの動く城』の雰囲気を纏っていた。『魔女の宅急便』の劇中歌である『ルージュの伝言』が劇中歌として流れた時は、思いがけず大好きな曲が流れたことで思わず頬が緩んでしまった。

新海誠監督は宮崎駿や押井守、庵野秀明をリスペクトしているそうなので、少し意識していた部分もあるのだろうか?本当のところは分からないが。
少なくとも、『すずめの戸締り』は幼い頃から親しんできたジブリ作品の流れを感じる作品だった。

さらに『ルージュの伝言』以外にも、思わず懐かしいと思う劇中歌が多く使われていた。『ギザギザハートの子守唄』、『俺ら東京さ行くだ』『銀河鉄道999』『糸』など…。どれも世代を超えて親しまれている名曲である。私が懐かしいと思うのは、世代というよりも親の影響だろうが、こうした曲を聴いて育ったことは間違いない。

これはまるで、和歌の本歌取りのようだと感じた。
本歌取りとは和歌の修辞法の一つで、みんながよく知っている古歌を一部引用して作品の趣を深める技法だ。本歌取りでは、元の古歌をその場のみんなが知っていることが前提となっている。

幼い頃から親しんできた作品や歌が、新しい作品の前提となっている。私にとっては同世代、現代であったものが、みんなが知っている「古典」として扱われている。
20代で生意気だが、あれからそれだけ時間が経ったのかと胸が熱くなった。自分が生きてきた時間が確かにあった、と証明してくれるような気がした。

『すずめの戸締り』もいずれ全国民に知られる古典になっていくのかもしれない。



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