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『もういちど生まれる』/ 朝井リョウ | ウイイレ、サークル、麻雀、大学生…

『桐島、部活やめるってよ』、『何者』、最近だと『正欲』だったり、いい本を書く人とはわかっていた。現代らしい切り口だけど、この人ならではの視点だし、なおかつ共感もできる、みたいなとにかく信頼がおける作家。

重すぎず軽すぎずで、何かの待ち時間にはよくお世話になってきた。

今回のこの本も待ち時間に読もうと思って買っていた。短編集で、恋愛っぽい始まり方だったんで、ちょっとそんな気分じゃないかも…と思いつつ読んでたら、やっぱり止まらない。面白い!

30代の大卒男が読むと、なんというかマジで心に刺さる描写が多すぎる…

短編集って言ったけど、正確には短編集ではなく連作短編集らしい。それぞれの話が同じ世界で登場人物に繋がりがあるような作り。たまに出くわすタイプの短編集。

まずいきなり大人しいタイプの大学生の悩み、チャラチャラしてるタイプの大学生の悩みを、昔のことがフラッシュバックして手が止まるくらいありありと描写してくる…
それからも美大生の悩み、浪人生の悩み、専門学校生の悩みと、いろんなパターンで攻めてくる。
大学の人間関係だったり、コンプレックスだったり、恋愛や家族の悩みだったりと、いろんなパターンで必ずしも自分に当てはまるものではないんだけど、あの頃の感覚を呼び覚ます力がこの本にはあった。

なんでだろうと考えると、作者の言葉選びのセンスがまずいい。

『MDがトーストのように飛び出す』
とか、麻雀牌の音を『時間と体力をたっぷりともてあました大学生の夜を、底からぐしゃぐしゃにかき混ぜてくれる音』なんていうだけで、当時のどーでもいい記憶が呼び起こされる。そんな状態で読む大学生話なんかはそりゃクラクラするよな…

しかも父親が亡くなってからトイレに座ったらその暖かさで涙が出たとか、トイレットペーパーで涙を拭くと頬に白い紙がついちゃうとか…よくそんな所を切り取れますね、と素直にため息がでるような表現がガンガン出てくる。

タイトルの『もういちど生まれる』もいいけど、『燃えるスカートのあの子』がやっぱり1番好きかな…
みんな結局好きになる、愛嬌がある翔多というチャラチャラした大学生の話。
自分が何かになれると思ってる人が苦手、プライドなんて持たないでいたら楽、みたいな考え方をしてる。
わけわからない映画を作ってる友達を馬鹿にしたり馬鹿にされたりするけど、映画を観てない人がそいつのことを馬鹿にすると、観てもないのに批判するのはきっとよくないと真剣に言い、またおちゃらける。
他人からはふざけてるように見えるけど、人を適当に馬鹿にしたりはしない、いいヤツなんだよな…
そして本人は全然気づいてないけど、周りの夢を持って生きてる人も翔多にすごく救われてたりする。
単純にいい話だし、こんな感じの考え方で過ごしてた人多いんじゃないかな?

個人的にはこの話が1番よかったけど、他の話もよかった…話同士の繋がりがけっこう強めなんで、そのフィクション感とかがあんまり好きじゃない人には向いてないかもだけど、社会人が読めば、きっとどれかの話で自分の過去がフラッシュバックするはず…特に30代の人にオススメです!

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