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『風に舞い上がるビニールシート』 / 森絵都 | 贅沢な短編集

まずタイトルがいい。

個人的に、短編集はいいタイトルだと面白い法則を信じてる。

いいタイトルだな、と直木賞受賞の時に思った記憶がある。この本は第135回直木賞受賞作らしい。直木賞の本を読むのは久しぶり。

タイトルから、家族のピクニックでビニールシートが飛んでしまった〜的な、ほのぼのエッセイ的短編集みたいなものかと思ってたら、全然違った…

読んだ感想はまず、贅沢な短編集だなと感じた。
というのも、一つ一つの話がしっかりと取材したり、知識がないと書けないような話ばっかり。なんならそれぞれで長編にできそうなくらい。特に表題作の『風に舞い上がるビニールシート』は、難民の保護や、支援をする国連機関に所属する職員の話で、想像してたほのぼの家族エッセイとは程遠い話…
本の最後には参考資料の一覧があるけど、やっばり難民関係や、国連関係のものが多く、この話を書くのがいかに大変だったかがうかがえる。

他にも『鐘の音』という話は、仏像の修復師というこれまた知識無しで書くのは不可能な話。
よくこんな話を集めて短編集にしたな…と作者の労力を考えるだけで頭が下がる…
でも堅苦しい話は一切なく、とにかく読みやすいし笑いあり涙ありの、なんというか、結局、ほのぼの家族エッセイを読み終わった時と同じような気持ちになれる本ではあった…

『犬の散歩』は保護犬活動をしている人の話で、最近やってるサンシャイン池崎が出演してる動物番組の保護猫活動でなんとなくイメージは湧いた。しかし保護犬とか、泣かせやすそうな話なのに、家族や仕事の話がむしろ泣けるし、爽やかな終わり方含めて、なんというか、バランス感がめちゃくちゃある作家だと感じた。

他の『守護神』は文学部大学生の話だけど、『徒然草』とか『伊勢物語』とかの話をうまいこと分析しつつ、やっぱり笑いあり涙ありで面白いし、ちょっとした伏線回収まである。そうそう、この作者、いい話に伏線仕込んで回収するのがすごく上手い。
こんなのみんな好きじゃん…

全部良かったけど、『ジェネレーションX』の話が1番好きかな…
金城一紀の短編集『対話篇』を思い出した。

なんかおじさんと若者のドライブってシチュエーションだけでまずグッとくるんだよな。いい話多くないですか?
元野球部の若者が大人になっても1日みんなで集まって草野球しようって話だけど、大人だからやっぱいろいろあって・・・大人になると大人数で集まるのって難しいよな〜
でも1日も自由にできなくて、人生何が楽しいのか?とも思うし、そんな若者に協力するおじさんにぐっとくる。車内の会話もいいんだよな〜ある意味映画の『ドライブ・マイ・カー』も自分にとってはそのおじさんと若者ドライブジャンルだから好きなのかも。

きっとこの本は、老若男女誰が読んでも好きな話だらけだけど、しっかり取材してて、読んでて知らない世界を覗けるし、笑って泣ける。全体としては自分の価値観を見つめ直すきっかけになるような話が多かったと思う。
ガチガチの小説好きもたまにはこんな本を読んでみてはどうでしょうか。
オススメです!

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