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『俺が公園でペリカンにした話』/ 平野夢明 | 狂人しかいないキノの旅

"金のない人間は、ひとつひとつこうやって自分の心の中の柵を取り外して他人に売り渡していってしまう。そうすると昨日までは死ぬほど厭だったことが、明後日には平気になり、来週には当たり前にできるようになる。誰だっていきなりゴミ箱の中から残飯を食い始めるわけじゃない。その前に必ず、柵をひとつひとつ取りはぐっていって、そうなるんだ。"

「俺が公園でペリカンにした話」P568より

580ページ近くあるこの本、はっきり言って読み終わるとどっと疲れた。この分量の本で、こんなにまともな人が出てこない本は他にあるのか?

ストーリーは簡単、ヒッチハイクでいろんな町に行くその日暮らしの男の話。マジでそれだけだけど、聞いたこともないような罵詈雑言が飛び交い、意味不明な行動原理の人ばかりがいる。嘘だと思うなら適当にページを開いてみればわかる。まともなページが存在しない。こんなに分厚い本なのに…
適当なページをめくってみる。

「あ〜おれゴメン。ニュースだめ。全っ然、見ないから」
「土だねぇ。それじゃあ小卒以下の土だよ」


うーん、ひどい会話。この本の中の世界では、よくお前は中卒だ、小卒だという文句が出てくるし、なんなら殺される。

どこかの店に入った主人公はお前の親は戸建てか賃貸か聞かれ、わからないと答えたら殺されそうになってた。ひどすぎる。

あとはトイレ関係の話が多すぎる。ご飯を食べる前や後に読むことはやめた方がいい…

あー…あと死んだ子どもが生きてると思ってる女に、子どもが死んだことを気づかれないよう医者のふりをする話があって…その子どもの死体を見ているとゴキブリが…うーん、書いてて吐きそうになる描写もありとあらゆる角度から攻めてくる。

最初の話からヤバすぎる。夫が妻に暴力を振るうほど成績が上がる家で、頑張って家庭を不安定にして息子が大学教授になった?人の話…次も盲目の女の人にポルノを見せる人の話…

時々いい話もある。
円周率を唱えて小銭を稼ぐ父娘。親の名はスベスベ、娘の名はマカロニ。金持ちの家にお城でお姫様みたいに暮らせると言われ、父は娘を売る。というかひどい暮らしだからマカロニもそれを望んでた。しかしその金持ちの家で行われてるのは、書くのも憚られるようなことで、結局金持ちから宝石を奪ってパン屋を開く…いや、いい話なのかもよくわからなくなってきたな…

あとはパンツという子どもが殴られたら金がでてくるという話。しかも殴るのは善人じゃないといけない、そのお金で孤児院を運営しているっていう。主人公はそんなことやめろと言うけど、じゃあどうするのか?お前は何ができるか?と詰められる。何かの寓話のようでもあるし、ただのブラックユーモアのようでもあるような話…オチもひどすぎる。

タイトルも凄いものが多い「おまえのおふくろ地獄で犬とやってるぜ!」「余命百万年」…恐ろしいことにホントにタイトル通りの話が展開される…

「おにぎり鬼と善人厨」っていう話はゼンギという老人が子供に公園で握ったおにぎりを渡す話。主人公がおにぎりを食べてみると、おにぎりは噛むたびにちょっと人ん家の臭いがするらしい…嫌な予感を感じながら読み進めると、案の定公園の公衆便所を掃除した後に心を込めて握っているという話が…きっついよ!

そしてそのおにぎりを食べた子どもが何人も死ぬ。おにぎりは関係なく車に撥ねられて死んだんだけど、親はゼンギに恨みをもつ。ゾロゾロとゼンギにつきまとい、結局ゼンギは土に埋められ口に米を突っ込まれ、目に箸を突き刺されて見つかる…

この本で1番信じられないことは、主人公が正気を保っていることだ。こんな世界で普通の世界の感覚を持って生きているのは信じられない。

「金のない人間だな」
「おれがもってるのは魂だけだよ」

といった受け答えもある。ここだけ聞くと主人公は格好いい。いや、よく考えるとかっこいいのかも。読んでいる間は雄一のマトモな人というイメージだったけど、食事するためのお金なんかは欲しがるが、いざ大金が舞い込みそうになるとカッコよく断ってる気がする。

好きなだけお金を持っていっていいと主人公が言われるシーンがある。

「あんたは?要らんのか?」
「金がなくてもどうにかこうにかやる術が染みついててね。持ち慣れないものを持つと眠りが浅くなる」


あんな世界でよくこんなマトモに育ったもんだ…

何かを得ることができる本ではない。読んでいて昔読んだ名作ラノベ、「キノの旅」を思い出した。まぁ旅をしていろんな町に行くくらいしか共通点はないけど。

極め付けのヤバさは、特大本が発売されたところ。



特大本って…?と思うけど、そのままの意味でやたらデカいバージョンの本が出る。内容は同じ。本当に何を考えてるのかわからないけど、狂気は感じる…

一応Tシャツと入手困難な本はついている…しかしまぁ狂っている。何も得られない話と言ったけど、こんな本は読んだことがないので、何かしら心にひっかかる。けっこう前に読み終わったけど、今だに全然関係ないタイミングで思い出す。そしてなんから少し欲しいと思ってて、日に日にその欲求すら強まっている気がする。いいことなのか悪いことなのかはわからない。

特設HPには、冨樫義博芥見下々など漫画家のコメントも載っている。ハンターハンターや呪術廻戦のファンがこの地獄を耐えられるのか…??軽い気持ちで読み始めるとマジで最悪な気持ちになるのでオススメです!

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