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雲南日本商工会通信2023年9月号「副会長の挨拶」

 世界が三年のコロナの喪に伏し、やっと晴れたかなと思えば、戦争、謀殺、物価上昇、不景気、不動産下落と先行き不透明、混沌という感じですね。
 それでも生存と繁殖という生物の大原則に従って、人間も「喰う、寝る、ヤル」をモチベーションとしながら、様々な複雑な活動を、合理的(そう)な神話を紡ぎながら展開しています。
 
 「喰うとヤル」については、研究がある程度進んでいるようですが、「寝る」についてはなかなか未知の部分が多いブラックボックスのようです。微生物以外に、休息、睡眠しないものはほぼおらず、ほとんどの生物は活動と休息を繰り返します。これも単純に「身体的に疲れたから寝る」という肉体の回復以外に、睡眠と精神の問題がクローズアップされています。
 
 睡眠中、目が細かく動いている時間のREM睡眠と、目や筋肉や弛緩し、代謝が下がったNON-REM睡眠が繰り返されるようです。弊社にも仕事中、起きているか、寝ているかわからないようにパソコンに向かっていて、昼の12時や夕方5時になると明らかに覚醒して、活き活きと行動し始める者がいます。彼らにとっては、仕事がNON-REMなのかもしれません。
 REM睡眠は夢を見ている時間ですから、一見、肉体回復には不要にも思えますが、好奇心旺盛な学者が、REM睡眠が始まると叩き起こすという実験をしたそうです。
 その結果は、認知機能の低下、情緒不安定、免疫機能低下、鬱病などのリスクが増加するそうで、イライラしたり、不安になったり、怒りっぽくなるのは、夜、夢を見る時間が少ないことが原因の一つかもしれません。REM睡眠という夢を見る時間は、精神面においてかなり大きな影響があると指摘されています。
 夢は毎日、必ず見ているにもかかわらず、そのほとんどは覚えていません。たとえ起きた時に覚えていても90%以上は、翌日にはその夢を思い出すことができません。昨日の朝、あれほどハッキリとリアルに覚えていた夢を、翌日にはまったく思い出せないのは誰にも経験がある誠に奇妙な現象です(夢日記をつける人もいますが)。
 実はこれにも合理的な理由があるそうで、夢を記憶に留めてしまうと、現実の出来事と夢の出来事の分離ができなくなるので、夢は記憶には残らないように設計されているとのことです。考えてみるとこれは実に合理的なことで、REM睡眠の記憶に夢というタグがついて脳に保管されているならともかく、タグがなければ混乱は必至です。いきなり、浮気をしたとして朝、かみさんから怒られたり、覚えのないお金の返済を迫られたり、夢と現実が入り交じると、社会は大混乱になるでしょう。
 毎日、映画2~3本分の夢を見ているのに、きれいさっぱり忘れて現実世界の昼間の生活ができるのは今の社会が成り立つ基礎であり、「忘れる」という脳の機能に感謝です。
 
 ところが、技術革新はVRという技術を発明しました。ゴーグルをつけた体験する仮想現実には、体験を忘れるという機能がないことがわかっています。ですから、VRを学習という意味で使うと大きな効果を示すことがわかっており、実際、手術や航空機の操縦、スポーツなどの訓練では実用化されており、これにより技術の習得は可能です。かつて失敗をしながら上達した手術が、VRで熟練できるのはとても効果的です。
 しかし、このVRも両刃の剣で、殺人や強盗や戦争やレイプなど、半分以上を仮想現実に生きて楽しむ人が今後出てくるでしょう。そうすると記憶に残る仮想現実と実際現実との区別ができない人が必ず一定数出てくるでしょう。そうなると仮想現実の延長を実際現実で行動するという奇妙なことも起きてきます。
 
 もし、こういう仮想現実と実際現実を脳が峻別できないで事件が起きた場合、この起こした事件を当事者の罪に問えるのかという問題も出てくるでしょう。本人に犯意はないわけですから困った問題です。仮想現実では、自分がアバターになって、想像力の中で何でも演じられるわけですから、想像力を罪には問えず、仮想と現実を取り違えたということだけが本人のミスですが、記憶の曖昧さを考えれば、これは誰にも起きることでしょう。私たちも自分の記憶が絶対に正しいかどうかというのは、かなり微妙な問題です。
 
 プーチンのNATOの脅威も大ロシア帝国も、脳の想像力と現実理解の認識の問題でしょうし、「中国の夢」も未来への想像と現実認識の問題でしょうし、台湾問題も、処理水問題も、すべては頭の中の仮想、仮説を現実に対応させる際の問題で、頭の中の仮想、仮説が現実の行動で社会に厄災をもたらすということでもあります。
 
 方向性を間違えなれば、仮想、仮説が大きな進歩や成功をもたらすけれど、誤った方向なら社会に大きな厄災をもたらすということで、REM睡眠の「夢」は適当なところで忘れるから社会が保たれているのかもしれません。
 もし、VRによって、忘れない夢を誰もが手軽に見られ、それが記憶に残れば、今よりももっと奇妙な犯罪、空想と現実の混乱犯罪が頻発するようになってしまうのでしょうか。
 夢見て忘れて、また夢見るということを繰り返している秋の夜長が人間らしくて良いのかもしれません。

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