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『デモンズソウル』の局所的考察

デモンズソウルがPS5向けにリメイクされるというニュースが入ってきた。このゲームは、私にとってもそしてゲーム業界にとっても特別なゲームである。この記事では、そのゲーム性や他のゲームへの影響のような語り尽くされたところはあえて無視し、このゲームの中で個人的にツボにハマったポイントを紹介したい。

塔のラトリアという名作ダンジョン

このゲームには塔のラトリアと言うダンジョンがある。私はこれ以上によくできたダンジョンを知らない。特に3つあるステージのうちの最初、つまりボス「愚か者の偶像」を倒すまでの牢獄エリアは狙って作れるものではないだろう。方向感覚を失うようなレベルデザインと即死攻撃を放つ敵、牢獄に閉じ込められているおかしなキャラクターが渾然一体となって孤独と恐怖、絶望と安息、悲劇と喜劇をこの上なく効果的に表現している

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宮崎ディレクター自身もこのエリアをいたく気に入っていたようで、ブラッドボーンの発売前にも次のようなコメントを残している。

必ずしもホラーゲームを作りたいわけではないのですが、それでも本作(Bloodborne)にはそうした感情が相応しいと思っています。例えでいうなら『デモンズソウル』の“塔のラトリア”ですね。
宮崎英高、電撃オンラインのインタビューより

フロムゲームは難易度についてよく言及されるが、クリアに必要とされる技術的な意味ではこのステージは難しくなく、ボスも道中の敵もそこまで強いわけではない。しかし、この雰囲気やレベルデザインや敵の位置、音響効果などの組み合わせが、初見プレイヤーの足を竦ませ、それが総合的意味での難易度を上げている。私も初めてプレイした時は操作キャラクターの足音にも過敏になり、神経が張り詰めるせいか30分もプレイするとぐったりと疲れてその都度休憩を挟んだ記憶がある。

ハブエリア:楔の神殿

精神的続編であるダークソウルシリーズやデモンズソウルのようにステージ間が複雑に絡み合ったレベルデザインと異なり、デモンズソウルはそれぞれのステージが完全に分かれている。そのハブとなるのが「楔の神殿」と呼ばれるエリアだ。

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ゲーム上の機能としてはレベルアップ、アイテムや魔法の購入、武器の作成やアップグレードができる場所だ。しかしありとらゆるものが悪意と殺意に満ち溢れているこの世界において、この楔の神殿はプレイヤーにとって唯一安らぎを感じられる場所であることはプレイ済みの人であれば皆同意してくれるだろう。ストーリーが進むごとにこの拠点には奇妙な住人たちが住み着き始め、各々が人間関係を築き始める。それは必ずしも良好なものではないが、この世界を知る上でのヒントになるものでもあるのだ。

また、この神殿の無国籍風の雰囲気や静謐なBGMは白眉の出来である。暗い石造りの建物内部にはルーンが刻まれ、上層部には即身仏が鎮座している。RDR2のキャンプやペルソナ5のカフェ「ルブラン」など様々なゲームで拠点となる場所は存在するが、楔の神殿のように印象に残る場所はないだろう。

ロード画面の美しさ

ロード画面とはコース料理の合間に出てくるバケットようなものだ、つまり空白を埋めるためのごまかしであり、それは通常コンテンツとして評価されることはない。フロムソフトウェアのものも含め、現代的なゲームでは、アイテムの説明書きや世界設定の説明などがランダムに表示されることが多い。

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デモンズソウルではそれは違う、ロード画面では羊皮紙にのような色彩で描かれる登場人物の一枚絵である。メインの登場人物だけではなく、物語開始時点ではすでに死亡しており、アイテムのフレーバーテキストなどで存在が確認できるキャラクターの画像も登録されており、フロム脳を刺激する。

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理不尽な死に方をして呆然としている時、あるいはボスを撃破してふーっとため息ついて椅子の背もたれにもたれかかる時、画面に表示される美しい一枚絵を眺めるのはデモンズソウルのプレイ体験の象徴のようなものだ。PS5はロード画面がほとんど発生しないと聞くが、デモンズソウルのリメイク版ではこのロード画面を残して欲しいという非現実的な願望が私にはある。

美と醜、神聖と汚穢

これは特定のコンテンツではなく、このゲームを貫く美学のようなものだ。デモンズソウルには相反する要素があえて同居するように盛り込まれている。

害虫と腐ったモンスターに溢れ、最も汚らわしいエリアである「腐れ谷」には一方で聖騎士の神聖な武器や防具が眠り、そのステージの最終ボスは「乙女アストラエア」はあらゆるボスの中で最も神聖不可侵な存在である。あるいは、上で紹介した「塔のラトリア」は牢獄と拷問部屋や人体実験の痕跡が残る恐ろしく悲劇的なステージだが、そこに出てくるキャラクターたちはどこか滑稽なところがある。「愚か者の偶像」に守護呪文をかけている小間使いの妙な言葉遣いやラスボスである「黄衣の翁」のチョココロネのようなターバンはコミュニティの間で長らくネタになっていた。

宮崎は次のように語っている。

暗いものの中に明るいものがあったり、荒れたものの中にきれいなものがあったりとか、そこに少ししかないものが価値を放つと思っています。宝石がいっぱいある中での宝石じゃなくて、泥の中に宝石が埋まっている方が際立つという印象があります。それから、僕自身が、あまり世界が明るいということにリアリティを抱けないというのもあって……僕が抱えているものがあるのかなと思っちゃいますね(笑)。基本的に世界は荒れ地で、自分たちに優しくないという世界観がどうしても自分の中にあります
宮崎英高、IGNのインタビューより

神聖とケガレとは共にタブーであると言う意味で似通っている、あるいは汚穢こそが神聖を喚起する力であるという議論は民俗学や文化人類学でかねてより指摘されてきたテーマである。宮崎がこうした議論に影響を受けたのかどうかは定かではないが、その世界観に共通したものがあるのは確かだろう。

おわりに:リマスターへの期待

以上、極めて個人的な立場からデモンズソウルの凄みについて書いた。Bluepointはリメイクを手掛けたら一級品のスタジオであることは確かだが、オリジナルファンとしては、あの曖昧で不穏な独特の雰囲気を再現にリソースを注いでくれることを強く求めたい。


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