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『ペンギン・ハイウェイ』レビュー:夏の多幸感と夢

概要

『ペンギン・ハイウェイ』は夏にぴったりの映画だ、より正確に言うと、日本文化圏の夏のイメージをコッテコテに具現化したような映画だった。そしてそのコッテコテ具合がなんとも高いレベルで組み合わされていて、「夏っぽいアニメが見たいなあ」と思ってうっかり劇場に足を運んだ観客に、お望みの「夏っぽさ」を溺死しそうなほど注入する。

原作は森見登美彦で、主人公も森見らしい理屈っぽい少年、脇役はおっぱいの大きいお姉さん、「ほわあ、ほわわああ」しかセリフが振られていないメガネ、タカビーな女の子、ジャイアン、スネ夫が2体。正直、キャラクターはかなり類型的で退屈だ。そこには残念ながらジブリのようなリアリティはない。(ジブリと比較されるのは、フェアではないかもしれないが、同時に2010年代の日本アニメの宿命でもあるのだ)。

中身はないが、雰囲気だけで十分成立している

日常がファンタジーに侵食されるマジックリアリズム的な描写はよくできている。劇場版ドラえもんの序盤のようであるし、「ビューティフル・ドリーマー」も彷彿とさせる。

物語の大筋は街にペンギンが現れてその謎を解くと言うもので、『ズッコケ三人組』や『ハリー・ポッター』の1〜5巻なんかと同じ構造だといえる。しかしあまり謎解きには重きを置くと肩透かしを食らう、あくまでもこの映画の主菜は海、ペンギン、おっぱい、入道雲、夏休み、などの断片化された清涼感あふれるイメージと、お姉さんと主人公の理屈っぽい会話、それとラストで流れる宇多田ヒカルの歌声だ、そしてそれで十二分にアニメ映画の秀作として成立している。

よかったところ

個人的に好きだったのが曇り空の下、主人公とお姉さんが1回目のペンギン実験をするシーン。うまく言えないのだがグダグダ感にリアリティがあってよかった。もう一つはペンギンのいかだに乗って「海」に突入するシーン、ここはこの映画の見せ場として設計されていたのだろうが、「涼やかなカオス」が心地よかった。

また、妙に知的なお父さんとの会話シーンが何度かあるのだが、そこでのお父さんのセリフに説得力があり、なんとなくピンボケしそうな謎解きパートの縁取りをうまくこなしていた、ここは原作者の功績だろう。細かいところではコーヒーを入れた後に取りやすいようにカップを回すシーンにこだわりを感じた。スタジオコロリドは20代が中心の非常に若いスタジオだと言う。今回は原作ありきの作品だったが、次はオリジナル脚本のものも見て見たい。




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