ARを活用したこれからのスタジアム体験の可能性
以前、サッカーの試合やスポーツニュースなどでプレーのハイライトを見ていると、選手の足元に光るリングみたいな表示が出ていて「もうウイイレじゃん」と思ったが、最近は当たり前に思えて特別なことと感じなくなってしまった。
こういった演出も含めて、スポーツ観戦にARを掛け合わせる試みは日に日に増えている印象だし、じわじわと我々消費者の当たり前をアップデートしていくのだろうと思っている。
なぜ、スポーツ観戦にARを掛け合わせるのかを考えてみたが、試合をより楽しんでもらうための演出の向上、スタジアム収容人数以上の集客の増加、道やトイレなど混雑状況の可視化による利便性の向上、試合以外でもタッチポイントを持たせることでエンゲージメント向上、試合と連動させた限定グッズのEC販売で売上向上などなど、ちょっと考えただけでも、スポーツチーム運営団体やスタジアム運営団体といった視点から見るとメリットがたくさんあるように感じられるし、これらはファンやスタジアム利用者など消費者視点で考えてもメリットが多いのではないだろうか。
例えば、ARグラスのNrealを活用して現実のサッカースタジアムに対して、AR(拡張現実)で出場選手やNICEPASS!といったエフェクトといった情報を重ねて表示する取り組みは始まっている。
現状でもスマートフォン越しに同様の体験も期待できるが、今後5GやARグラスの普及によって今まで以上に一般に広がっていくと考えられ、スタジアムの熱狂はリアルで感じつつ視界ではサッカーゲームの様な効果を同時に体験できることが可能だ。
これまでもラジオでの中継を聞きながらスタジアムで観戦するといった楽しみ方もあったが、視界情報として直感的に訴えかけることで、より没入感のある体験が提供可能であると考えられるし、スタジアムで観戦することの価値が高まる見方もある。
もちろんスタジアムのみならず、自宅にいながら新しい観戦体験の模索も進んでおり、VRヘッドマウントディスプレイを装着してコートにいるような臨場感を味わえる実証実験や、MRグラスを装着することでTVを見ながら選手の情報や解説を見ることが出来る構想も広がっている。
こうしたARを活用した体験はスタジアムに限らず都市など様々なフィールドで使われていくことになる。
例えば、スタジアム近郊の施設や駅からの街道などでも試合に向けた事前情報をARで表示し気分を高めていく演出や、試合結果に応じて近隣店舗でのクーポン配布や店舗への道順をARで表示するなど、スポーツを地域と今まで以上に結びつけることも可能だと考えられる。
こうした、位置情報を基にした、その場所でしか体験できないロケーションベースのAR技術を活用する際には3Dモデルが必要となるが、既に国土交通省がPLATEAUという都市の3Dデータをオープンデータとして提供しているため利用可能だ。
こうやって見てみると、スポーツ観戦のAR活用は一発屋的な演出ではなく、スポーツ観戦を楽しむ上で選択肢を広げていくと考えられる。
なんでもかんでもテクノロジーを入れれば良いとも思っているわけではないが、スポーツ観戦にテクノロジーを掛け合わせる試みが持つ魅力や可能性は、ビジネスモデルの変革やUXデザインということだけでなく「なんだかちょっとワクワクする」みたいな言語化出来ない気持ちの高ぶりみたいなものなのかもしれないと思った。
今回取り上げた事例は違うが、その他の多くの実証実験や事例を見て思うのは、企業やサービス提供側の視点のみで描かれておりユーザーストーリーが感じられないケースが多いこと。
夏の夕方に外苑駅から神宮球場に向かうときに食べ物を買って、生ビールは球場の売り子さんから買って、気温なのか熱気なのか分からない中で暑い暑いと言いながら試合を見て盛り上がり、やっぱ夏のナイターって最高だよねとか言いながら帰りにクーラーの効いた居酒屋で飲み直す、みたいなストーリーが出てこない。
例えば、
外苑駅から神宮球場に向かうと、ARグラス越しに贔屓のチームを応援する演出とともに、チームとコラボしたテイクアウト商品がパネル上にが表示され、商品パネルをタッチすると、注文と決済が完了し店舗までの道順が表示される。
生ビールを売る球場の売り子さんは、人間ではなくヒューマノイドロボットになっており、ARグラス越しに見るとタイアップしているアイドルの顔が映し出される。そして、アイドルからビールを買う購入体験と同時に、どのメンバーから購入するかで次にデビューするメンバーを決める人気投票も兼ねている。
暑い暑いと言いながらスタンドで試合を見た最後は、リアルの花火とAR演出が掛け合わさったショーで盛り上がり、ARグラスでキャプチャした画面をその場でSNSに投稿する。
帰りにクーラーの効いた居酒屋で飲み直すときは、球場からの近さや過去に行った飲食店の履歴、球団と提携しているクーポンの有無、場合によっては対戦相手のファンが来店している比率なんかもチェックしながら店を選ぶ。
入店したら、先ほどの試合のハイライトをテーブルに表示させて友人と振り返ったりしながら、次の試合のチケットの予約を取る。
などなど、考えられるストーリーに対してテクノロジーを掛け合わせながら、技術開発や実証実験が進むことを期待したい。
全国のスポーツ団体の皆さん、スタジアム関係者の皆さん、困ったら壁打ち相手とかやるので呼んでください!
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