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“UXデザイン&ビジネスデザイン視点から見るスポーツの可能性” 座談会

はじめに

SandSの第2弾連載として始めた「UXデザイン&ビジネスデザイン視点から見るスポーツの可能性」シリーズ。メンバーが一巡したタイミングで、振り返りの座談会を行いました。

テクノロジーはエンドユーザー視点があってこそ活きる

高井:テーマを分担して1本ずつ記事を書いてもらったけど、それぞれ調べていく中で何か面白い気付きはあった?

浅見:ARやVRは個人的に本業だから、なかなかフラットな視点では見づらいけど、スポーツの領域ならではの可能性を感じるのはやっぱりライブ演出かな。
放送では画面に表示されるゴールシーンのリプレイ演出や選手のスタッツ、競技ルールのチュートリアルなどがスタジアムの生観戦でもXRで見れたら、初心者のハードルも下げられそう。

高井:確かに、情報量や競技の見やすさだけで言えばスタジアムよりテレビの方が良かったりするけど、XRのテクノロジーでテレビ的な見やすさとスタジアムならではの臨場感が両立できたら、スタジアムでの観戦体験の付加価値がもっと高められそうだね。

林:今回のテーマの中でもXRはすぐそこまで来ている身近な技術だけど、観戦体験という意味では他にもスタジアムグルメとか色々な要素があるよね。コアファンやライトファンによってそれぞれ重視する要素が異なりそうだから、トータルなスタジアム体験としてどうディレクションしていくか、という発想が大事な気がする。

高井:そう言われてみると、「スタジアム体験のUXデザイン」を統括的にディレクションする役割、っていう人は現状いないかもしれない。スタジアム体験とか文化はよくも悪くもファンやサポーターを中心に自然と作られてきた側面が強いから。

浅見:スポーツチームが外部のパートナーと一緒にカスタマージャーニーマップを作ったりしているケースはあっても、実行する人的・資金的リソースがなくてそこまで手が回らない、っていう話は聞いたことがある。
あとは、カスタマージャーニーマップを作ったとしても、理想・妄想ベースでエンドユーザーの視点が抜けてしまっていたり。実際に旅行者として街を見てみても、どこでグッズが買えるのか分からなかったり、チームとの接点を見つけられないこともあるから、あんまり頭でっかちになりすぎずにそういう地に足のついたところからやるのも大事かもね。

高井:そういう意味では、戦略を立てるにしても、ちゃんと現場でのリサーチからエンドユーザーの視点をすくい上げるSandSみたいなプレイヤーが貢献できる部分はありそうだね。

林:XRも最初は目新しい体験として客寄せパンダ的な施策から始まるのかもしれないけど、テクノロジードリブンじゃなくて、そのそのジャーニーで描く理想の体験のためにどう使うかを考えていきたいね。

スタジアム活用が地域の魅力を引き出すカギ

浅見:地方創生のテーマで言うと、都会よりむしろ地方の方がアーキタイプやメンタルモデルのパターンが多岐にわたる気がする。ターゲットの母数が少ない分、セグメントに切り分けづらくて全方位的な戦略にならざるを得ないから。
そういう意味では、「甲子園期間中移住プラン」とか「大相撲巡業プラン」くらいの訴求粒度はちょうど良さそうだよね。これより狭いとニッチ過ぎてビジネス的に成立しないし、これより広いとその地域の独自性や必要性が薄くなっちゃいそう。

林:地元に対しては全方位的な戦略でいいかもしれないけど、県外や全国のターゲット向けにはこういう風に興味軸でセグメント化してアプローチした方が良いと思ったんだよね。

浅見:地域によっては全国向けにアプローチして拡大戦略を取るより、むしろ地域の中でしっかり循環して成り立つシステムを作ることを重視しているケースもあると思うけど、それでも常に新しい血を入れ続けるという意味では他地域の人に向けたアプローチは確かに必要だもんね。

高井:地域の関係人口を増やす、って観点では、JFLの奈良クラブみたいに「面白い試みをして既に1番好きなクラブがあるファンもちょっと気になる『2番目に好きなクラブ』を目指す」っていうアプローチも親和性あるし面白そう。

林:あと、今回調べてみて、スタジアムを自治体任せじゃなくて自前で持つのはめっちゃ大事だと思った。
スタジアムは新しい事業やサービスを生み出す「ラボ」でもあるから、自前で持つと、自治体からの干渉を防ぐ「防壁」として、地方自治の実験を自分たちでできるんだよね。
スタジアムを「正しい使い方」に縛られない色々な使い方ができる場として地方自治をやるためには、逆説的にいかに地方自治体を入れないかが大事なのかもしれない(笑)。

浅見:地方自治体ともうまく連携できるのが一番いいけど、どうしても行政は責任を取りづらい構造だから、スタートアップ的な思考と行動が求められるクラブ経営とのギャップはあるかもね。


腹落ちして機能する「カルチャー」はボトムアップでつくる

高井:人的・金銭的リソースが限られるという意味でも、クラブ経営がスタートアップっぽいって話も出たけど、組織カルチャー視点ではどんな気付きがあった?

佐々木:クラブチームの職員やスタッフの価値観が実際にはどうやって作られていくのかは気になる。

浅見:寝食を共にして密にディスカッションしていく中で作っていく感じで、組織の規模的にも本当に少人数のスタートアップみたいな感じなんだと思う。

佐々木:じゃあ今みたいにオンラインでのコミュニケーションがメインだったり中途入社だったりすると難しい側面もありそうだね。

林:その分、今はどの組織もカルチャーはすごく重視してるよね。オンラインでもよくカルチャーの話をするし、行動も常にカルチャー視点で考えるから、逆にカルチャーマッチングしない人はどんどん辞めていく。「コーポレート・カルチャー・エヴァンジェリスト」っていう職種があるケースもあるくらい。

浅見:日本はどちらかと言えば同質的な文化だし、これまでなんとなく空気で合わせて来れたのかもしれないけど、海外は人種や文化がそもそもバラバラだから、カルチャーでベースを揃える必要性があったのかも。
カルチャーに合致した行動を讃える仕組みを作って評価と結び付けることが、カルチャーを作っていく上では大事だよね。

林:どうカルチャーを作るかという意味では、ボトムアップであることも大事。カルチャーを浸透させるにはトップダウンの力も重要だけど、カルチャー自体はプロフェッショナルな社員の姿勢から言語化・明文化してボトムアップから作ることで、押し付けで言わされているのではなく、規範として行動に結び付いてくるから。

佐々木:逆に言えば、カルチャーはそうやって人工的に作れるってことだよね。

高井:むしろそこまでやらないとカルチャーは作れない、ということかも。

浅見:スポーツに話を戻すと、普通の会社と比べて、スポーツチームにはファンやサポーターがいることが大きな違いだけど、クラブとしてはカルチャーを社員や職員に向けてだけじゃなくて、ファンやサポーターにも発信していく方がいいのかな?

高井:鹿島アントラーズのサポーター目線で言うと、会社が社員に働きかけるみたいに、クラブからサポーターにカルチャーマッチングを求められている、とは感じないな。クラブのカルチャーに共感したからこそサポーターになっているので。
だからむしろベクトルとしては、クラブからサポーターというより、サポーターからクラブに対して「こうあるべきだろう」とプレッシャーをかける存在といった方が正しいかもしれない。

浅見:ファンというより株主みたいだね。

高井:利害の一致した運命共同体という意味では本当にそうかもしれない。
スポーツチームはどこも勝利を目指すのは当然だけど、鹿島の場合は、地理的・商圏的なハンデがある分、強くて魅力的であり続けないとクラブも街も本当に消滅してしまうかもしれない、という危機感をクラブもサポーターも共有しているからこそ、「すべては勝利のために」というミッションの切実感があるし、ブレない。
腹落ちしないお題目になっちゃうとミッションやカルチャーが形骸化してしまうのはクラブも会社も一緒だよね。

まとめ

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①スポーツチームは地域にとって重要な存在になれる

地域の魅力を引き出す「実験場」として、イベントや防災の「拠点」として、シティプライドの「求心力」として、スポーツチームは地域にとって重要な存在になれる。
そのためには、エンドユーザーや地域住民の視点からもスポーツチームが果たすべき役割や機能を考え、スポーツチームのやりたいこととユーザーがやってほしいことのギャップをなくし、地域に根ざした手触り感のあるところから始めることが重要なので、この部分でデザインが力になれる余地はまだまだあるはず。

②スポーツチームの生み出すカルチャーがファンを生み出す

取ってつけたようなお題目ではなく、地域課題やチームの存在意義に紐付いた、腹落ち感のあるカルチャーが共感を呼び、ファンを惹きつける。
そのためには、スポーツチーム自身がそれを自覚・定義し、自分たちの行動と結び付けなければならない。組織デザインやEX(Employee Experience)デザインのプレイヤーがより絡んでくればもっと面白い動きが生まれそう。

③ファンの「推し/聖地」として地域は活性化する

スポーツチームのファンにとって、ホームタウンとはただの居住地ではなく、「推し」のチームの「聖地」として、特別な存在になる。
仮にその地域に住んでいなくとも、「2番目に気になる地域」として常に気にかけ、折に触れて訪れ、関係人口化していく。
そうしてファン・関係人口が増えていくことで、さらにスポーツチームはその地域にとってますます重要な存在になっていく。

「UXデザイン&ビジネスデザイン視点から見るスポーツの可能性」として始めたこの連載だが、スポーツという視点から見たことで、改めてUXデザインや組織デザイン側が果たせる役割の大きな可能性も感じることができた。
SandSとしてやれることがあれば、ぜひチャレンジしてみたい。

SandS 高井


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