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ブロックリストを開く夜/短編小説


夜が深くなった頃、
携帯を眺めながら無意識に開いていたのは
ブロックリストだった。


二度と会いたくない。

そう思っているのに消せない連絡先がある。
でも見たくないからブロックリストには入れている。

大嫌いだと思いながらも
非表示のまま消せない履歴がある。

歯茎に刺さった魚の小骨みたいに、
ずっと私にまとわりついてくる記憶に私はどぎまぎしていた。



今の環境に不満はない。
やりたかった仕事をして、
好きな友達と過ごし、

優しいパートナーと思い出を刻んでいる。

芝生の上でのんびりしているような穏やかさと、
四季折々の花をみるように鮮やかな毎日。


だけど一人の夜、時々、、、
君は思い出に顔を出す。


お腹が痛くなるくらい笑った記憶、
辛くて感情のままに泣いたこと、その時の体温。
感情のままに言いあった事、
怒り狂うくらいに嫉妬をした事。

ドストレートな恋愛ソングが自分のことが書かれているように感じた
そんな喜怒哀楽の激しい思い出が顔を出す。


強く激しく色の濃い日々。
何にも飾られていない真っすぐな私がそこにはいた。


あの頃ほどの本音を今出せているかは分からない。
でも今を手放したいとは全く思わない。

だからもう思い出に出てこないでほしいと思っている。


そう思ってもう一度携帯の操作をはじめた。
そこに残る名前を消すために。


でも消せなかった。
あと何回この夜をくりかえすのだろうか。


嫌い。

大嫌い。

でも本当に大好きだった。



そう思いながら、携帯をそっと閉じる。
今日はあの頃の音楽をたくさん聴きたい。


いつかこの名前を消せる日がくることを
ただ願いながら

私はベッドに寝転がった。


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