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早期退職、次のステージへ

1993年2月からお世話になっていた会社を、今月末で退職します。1年前まではこれに「定年」という枕詞も付けていましたが、去年7月の私の誕生日に、会社から突然「定年延長」のアナウンスがありました。今後どうしたいのか意向調査も実施されましたが、「退職」の意向は変えませんでした。

社会人採用で採ってもらって、それでも勤続31年2カ月もいさせていただいたことになります。うち15年7カ月は海外駐在、8年6カ月を東京・市ヶ谷の調査研究部門で過ごしてきたため、本社ビルでの勤務は通算でも6年程度しかありません。それも断続的に。本社ビルの敷居をまたぐたび、会社もずいぶん変わったな~と戸惑いを覚えます。まあ、断続的に4回もお世話になった市ヶ谷の建物でも、それに似たものを毎回感じたんですけど(笑)。

幸せなことに、退職後に「これをやりたい」というテーマが見つかった気がしています。ブータンに行かせてもらったおかげですね。また、ファブという切り口でもインドやネパールに知り合いが作れたのは、私の一生の宝です。そういう世界と出会うきっかけを与えてくれた会社にはとても感謝しています。

ただ、そうはいっても、精神的に追い詰められて体を壊しかけたことも3回ありました。帰国してみて、自分がこの先やりたいと思っている仕事をやらせてくれる組織ではないと改めて思いました。やりたいことがあるなら、会社になど頼らず自分自身でリスクを取ってやれということです。

さて、下記リンクでもご紹介している通り、前回、「帰国後1カ月半、取り組んできたこと」という記事を書きました。それから2カ月近くが経ってしまったので、会社を辞めるにあたってのケジメとして、取り組んだことをここで書き残しておきたいと思います。前回の記事の中で、「出身大学院の修了生でほぼ同時期に帰国した3人で同窓生や後輩向けにオンラインで月イチ報告会で話そう」という企画があると書きました。その最終回は私が3月28日(木)に報告することになっていて、今その発表の準備を進めているところです。でも、帰国後やっていたことまではとてもカバーしきれません。

その発表の補完資料として、この記事は書き残します。来月になったら、これらすら陳腐化しそうな勢いで、今自分は変身中ですので(笑)。



1.ナレッジレポート

これは、現在の所属部署での3カ月間の在籍期間中でもできる仕事として、私が「やりたい」と申告し、上長から了解をもらっていた唯一のタスクでした。当初予定では、①2016年以降にファブラボのコミュニティ界隈で起こっていること、②ブータンで自分が取り組んだこと、の二本立てにするつもりでしたが、会社から、これを1本にまとめ、かつ字数20,000字以内という制限を守れと条件を課せられました。

したがって、レポートは早くから書きはじめていた①だけに絞って書くことにしました。有給休暇の合間もシコシコ原稿を書きため、3月17日に初稿を提出しました。公開には半年程度かかるそうです。とっととnoteで公開してしまいたい思いにも駆られますが、要約のみチラ見せしておきます。

 「ファブラボ」とは、デジタルからアナログまでの多様な工作機械を備えた、実験的な市民工房の世界的なネットワークである。その工房の数は2015年8月時点で77ヵ国に555施設あったが、2023年7月時点で123ヵ国2,307施設へと急増している。
 本稿では、2015年9月の国連SDGsサミット以降のファブラボのグローバルネットワークの取組みについて、①SDGsの意識化、②持続可能な都市、③保健医療福祉、④人材育成、⑤自然災害・紛争対応等特定国の特定のニーズへの対応の5つの側面から情報整理を試みた。世界各国のファブラボの多くは、「SDGs」を明確に意識しているわけではない。しかし、これまでネットワークにおいて重点的に取り組まれてきた活動領域のほとんどが、何らかの形でSDGsに貢献するものである。特に、全世界のファブラボの多くが取り組むSTEAM教育を通じた「21世紀型スキル」習得は、SDG3に限らず多くのゴールにも波及する。
 緊急人道援助の現場におけるデジタルファブリケーションの活用や自助具のカスタマイズ製作のように、小口かつ多様なニーズに迅速にその場で応える現地生産施設をファブラボが有すること等、利用者側の活用の仕方次第で、ファブラボの分散型生産施設と工房間ネットワークがSDGsの横断的理念である「誰も取り残さない」ことに貢献できる余地は大きい。
 JICAの実施する開発協力における人材配置は、ファブラボのような生産拠点分散化との親和性が高い。しかし、専門家やコンサルタント、ボランティアといった開発協力人材が近隣のファブラボの活用を検討するようになるには、案件実施と人材の配置を企画立案・実施監理するJICA現地事務所員及び本邦勤務職員の間でのデジタルファブリケーション理解促進が課題となる。

②については、これまでnoteでずいぶん書きためてあるので、これをもう一度整理して書籍化でもできたらと思います。会社の所属部署には特定開発協力プロジェクトの歴史を1冊にまとめて書籍出版するというシリーズものがありますが、今のところそういうオファーはいただいていませんし、シリーズに含めることで印税放棄させられるのは嫌なので、出すなら自分で出したいと思います。今は時間がなさすぎなのですぐにというのは難しそうですが。


2.市ヶ谷3Dプリンター自主勉強会

市ヶ谷の会社のビルの6階に眠っていたCreality CR-10Sをお借りして、自分の座席の近くで動かしながら、市ヶ谷で勤務している社員の方を対象に、5回の自主勉強会を主催しました。4人ぐらい最後まで残って下さった社員の方がいらっしゃいました。とても感謝しています。私が退職した後も、3Dプリンターを時々動かしていただけたら嬉しいです。

ただ、参加して下さったのはいずれも有期雇用の方々で、時間が経つとまた人材の流出が起きます。それを阻止する仕掛けまでは作ることができませんでした。ましてやプロパーの社員の方への浸透は、思ったようには進みませんでした。在宅勤務の人も多いので、人を集めて対面でインパクトフルなことをやるのは今は難しいのかもしれません。

来ていただいた方々には感謝されました。「子どもにせがまれて買ったけれど、どう使っていいのか困っていた」というニーズがあったのは思わぬ発見でした。そういう親御さんが子どもに隠れてこっそりTinkercadやmicro:bitを勉強するような講習会をオンラインで主宰したら、仕事になりそうだなとか、ひらめくものがありました。

お蔵入りにしておくのはモッタイナイ!

3.職員向け講義「3Dプリント超入門」

上記2が市ヶ谷勤務者を対象にした対面式での講習会だったのに対し、5回分の講習会の要素を2時間に凝縮して全社員向けに教えるオンライン講義も2月下旬にやってみました。3Dプリント出力はオンラインでは教えられないので、近くのファブ施設に行ってもらうことにして、組織とコミュニティのファブ施設との間でのネットワーキングの先鋒になってもらおうと期待しました。これなら、本社社員だけでなく、地方の勤務者でも海外での勤務者でもできると考えました。

受講者にはもっぱらデータ作りに取り組んでもらいました。これも、オンラインで開催できるので今後プチ仕事に育てられそうな可能性は感じました。でも、集客は頑張って宣伝しても10人程度でした。やっぱり、社内横断的に浸透を図るにはいたりませんでした。影響力の強い有名社員でも味方につけるのならともかく、社内でのキャリアアップにほとんど関心のなかった私が今頃笛を吹いたって、ついて来る人は少ないのが現実なのです。


4.インクルーシブメイカソン

「私たちが知っているあの人の執務環境をよくする「道具」を考えよう!」と銘打ち、ニードノウアも視覚障害を持つ社員の方にお願いしたこのメイカソンは、2月29日と3月1日の両日、本社において開催しました。同僚が関わっているんだからある程度集客できるだろうと期待していたのですが、やっぱり人が集めるのに大苦戦し、10人集めるのも難儀でした。

ファシリテーションをやって下さったファブラボ品川さんや、ニードノウアとして2日間お付き合い下さったTさんには、ちょっと申し訳ない気がしています。ただ、「これくらいの人数だとちょうどやりやすい」「ニードノウアがふだん働いておられる現場に近い場所でプロトタイピングができたはよかった」とポジティブなご評価もいただけたので、ちょっとホッとしている自分もいます。

主催者の1人ではあったわけですが、私の一参加者としてメイカソンにフル参加してみて、こうした「場」の運営をどうやればいいのか、勉強になるところが多くありました。それに近いことはFabLab CSTでずいぶんやってきていましたが、日本語環境でメイカソンに参加したのはこれが初めてだったので。そのうち、参加者としてだけでなく、ファシリテーターとして呼ばれるぐらいにまで自分のスキルを上げたいと思います。


5.「この指とまれ」自主製作:耳鏡(Otoscope)

「自分はこれが作りたい、一緒にやろう」———通称、指とまと呼んでいるミニプロジェクトは、昨年末帰国早々に募集を開始して、市ヶ谷組と四ツ谷組、それにブータン組とで3つの自主製作が行われました。私は、ネパールでField Readyが作ったオープンソースの「耳鏡(otoscope)」を題材に据え、上記2で紹介した自主勉強会の参加者に3Dプリント出力を体験してもらうネタとして、この耳鏡を選んで製作してみました。

ちなみにこの耳鏡のデザインデータはThingiverseからダウンロード可能ですし、もっとも基礎的な白色LEDと100Ω抵抗を単三電池2本直列つなぎ(3V)するだけのシンプルな構造です。オリジナルの製作者ラム・チャンドラさんは知り合いのネパール人で、一応事前了解を取り、時々アドバイスをもらいました。

ただ、この3Dデータだとボタンスイッチ部分が秋葉原で買えるスイッチとサイズが合わなかったので、スイッチのソケットをデザインし直す手間もありましたし、3Dプリンターが不調で時々出力に失敗するなど試行錯誤が続きました。こうして自分が製作に時間を費やす事態に陥ったのですが、私も有休消化せねばなりません。時々こっそり出社してダラダラ作らざるを得ず、組立てが遅くなりました。まだこれに合うレンズが入っていないので使える状態にはなっていませんが、「こういうのも3Dプリンターで作れる」という具体的なサンプルを見せられる状態にはできたかなと思っています。

とりあえずできた!

ちなみにこのデザインはField Readyがネパールではすでに実装にまで到達させています。オープンソースだから、壊れたらローカルで治せます。


6.4月以降の動向について

(1)ファブアカデミーと新しい仕事
前回の記事でも書いた通り、私は米ファブファンデーションとMITニール・ガーシェンフェルド教授が主宰している6カ月のディプロマコース「ファブアカデミー(Fab Academy)」を受講中です。アカデミーは7月まで続き、順調でも卒業までにはあと4カ月はかかります。週平均35時間を投入しないと毎週のアサインメントをクリアできず、全然ベクトルが別方向を向いているような仕事とファブアカデミーを両立させるのは難しいと思っていました。

毎週の課題クリアが大変ですが、短期間で猛烈なスキルアップに
つながっている確かな手ごたえがある

このため、これまで2カ月少々、未消化の有給休暇をできるだけ活用してなんとかやってきたところですが、4月以降はいよいよ卒業製作が本格化するため、フルタイムの仕事はまったくできないと思っていました。

従って、退職後すぐに新しい仕事に就くことは考えておらず、アドホックな小口の仕事の請け負いでしばらく過ごそうと思っていたのです。アカデミー修了できれば、アカデミー同期生200余名との国境を越えたネットワークができますし、デザインや機械操作のスキルがかなり包括的に習得できていると思います。

ところが、3月5日に軽い気持ちで履歴書送付した仕事があれよあれよと決まってしまい、5月7日からまた働くことになりました。

具体的な仕事の内容はまた何かの機会にご紹介したいと思いますが、某大学のファブ施設のスタッフとしての勤務になります。ポジションとしては、ブータンのFabLab CSTで「ラボ専属技師(Lab Technician)」と呼ばれていたテンジン君と同じような役割だと理解しています。

ブータンのFabLab CSTでの勤務経験と、現在ファブアカデミー受講中であることがポジ要素として働いたのではないかと思います。ありがたいです。

デジタル工作機械が常に近くにあるので、自宅に工作機械を持っていない私にとっては、多少条件が悪くても修業のつもりで受けておいた方がいいと考えました。

(2)FAB24とFab City Challenge
それともう1つ。ファブアカデミーを無事に卒業することが先決ですが、すでにチケット販売がはじまっている8月の世界ファブラボ会議メキシコ大会(FAB24)と、その直前にメキシコで開催されるFab City Challenge、参加を申し込みました。

Fab City Challengeは、去年は私はホスト側に回りましたが、参加者が短時間で作り出した数々のプロトタイプを見ていて、「プロジェクトを終了し、FabLab CSTを去ったあかつきには、次にFABxに出席する機会があれば、純粋に一参加者として、ファブチャレンジを楽しみたい」と思いました。

昨年のブータンでのチャレンジの人選プロセスを知っているだけに、申し込んでも「ドラフト会議」で選外になる可能性も相当ありました。そこで、「ファブアカデミー卒業予定」と応募書類に書き込み、ちょっと盛った記載をして自己アピールに努めました。結果、3月に入ってなんとか採用通知をいただきました。このデザインスプリントに参加する5泊6日の現地滞在費は、ほとんどが主催者持ちです。実にオイシイ💛

メキシコのFab City Challengeは、ホストコミュニティが8つもあり、ブータン以上に大規模に開催されるようです。私はチアパス州の先住民女性のエンパワーメントにつながるもの作りというテーマに、5日間取り組む多国籍チーム10人の中に加わることになりました。たぶん木材加工が中心となると思います。ファブアカデミーの卒業製作では私は木材加工を含めないので、自分自身でも少し「予習」やっておかないとと思っています。

大型CNCももうちょっと操作してみたいなぁ…

FAB24は、ファブアカデミーの卒業生として、胸を張って出たいです。去年のFAB23では頑張ってサイドイベントをローカル企画しましたが、疲れてしまったので今回はやりません。ただ、FAB24では前回のFab Bhutan Challengeで優秀成績を上げたホストラボからその後の進捗報告を行うことが求められるため、場合によっては古巣のFabLab CSTのために何か発表を行うという可能性はあるかもしれません。

ファブ絡みでは他にもやりたいと思っていることがいくつかありますが、それはいずれまた、具体化したところでご紹介していきたいと思います。




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