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はじめて議論らしい議論ができた?~ファブラボブータンネットワーク会合

10月26、27日の両日、ファブラボCSTにて、「ファブラボブータンネットワーク会合」が開催されました。ブータン全国にある6つのファブラボのうち、TTTRCファブラボ(デキリン)を除く5つのファブラボと、ファブラボを所管している王立STEM教育協会(以下、RSSTEM)がプンツォリンに集まり、初めての対面式での会合に臨みました。



1.過去行われていた会合との違い

ファブラボブータンネットワークの窓口は、ティンプーにあるスーパーファブラボ(以下、JNWSFL)です。実際、JNWSFLは7月に開催された第18回世界ファブラボ会議(以下、FAB23)の準備を進めるにあたり、ブータン側の窓口を務めるよう政府からお墨付きをもらい、FAB23会場においてもそのようにふるまっていました。

ネットワーク会合の開催は、今年5月にJICAがブータン政府と実施締結したプログラム円借款の達成指標(KPI)の1つとされており、年4回、しかもうち最低1回は対面式で開催が求められていました。この円借款の成果達成の責任実施機関になっているのはJNWSFLの親会社であるドルックホールディングス(以下、DHI)です。

そのため、DHI/JNWSFLは、円借款契約が締結される以前から、ネットワーク会合主催をはじめてくれていました。2月初旬、「明日開催するから」と突然招集されてオンラインで開催されたのを皮切りに、5月初旬にもショートノーティスでまたオンラインで1時間だけ行われました。このペースなら次は8月かと予想していたら、9月初旬になってこれまた1時間のオンラインで突如開催されました。

ペースは別にそれでも構いません。しかし、1時間しかないし、ショートノーティスすぎて事前のアジェンダ共有もなく、単に各ラボから近況報告が求められるだけです。議論の時間は少なく、議事録も作られず、行動志向の会合とはいえない代物でした。FAB23以前に行われた2回についても、内容的にはFAB23に関する事務連絡が中心でした。米ファブファンデーションやファブシティ財団からの指示をDHI/JNWSFLが一方的に他のラボに下ろしてくるだけで、それで1時間を費やしていたのです。

このままではアリバイだけ作られて、実質的な行動につながっていかないことが危惧されました。うちのプロジェクトも12月に終了してしまいますし、11月に入ったら選挙期間突入で、こういう集まりを対面で開くことが難しくなりそうでした。そこで、10月中に対面式のネットワーク会合を、うちのファブラボでリードして1回開催してしまおうということになったのです。

この構想は、8月時点で私が思いつき、CST学長にすぐに趣旨説明して内諾を取り付け、9月のネットワーク会合のオンライン開催の際に提示して、開催了承を取り付けました。CST学内の話し合いで開催日が決まったのは9月最終週。すぐに全ファブラボの窓口担当にアナウンスして出席者のノミネートを要請しました。

なお、私自身も含め、今回参加してくれたJNWSFLを除く4つのファブラボは、これが第1回の対面式のネットワーク会合だと信じていましたが、会合に来てくれたJNWSFLのスタッフに聞いたところ、彼らは「FAB23」自体をを対面式のネットワーク会合の第1回だと位置づけていたそうです(苦笑)。いくらなんでも都合が良すぎる話です。


2.プログラムの編成

はるばる6時間もかけて来てくれるラボもあるため、1日だけの会合ではもったいないと考え、2日がかりの日程として、出席者には3泊4日での来訪を求めました。宿舎はCSTのゲストハウスを手配、宿泊は各ラボ1人分についてはプロジェクトで負担、食事は全員分をプロジェクトで負担しました。

交通費は各自負担としました。ただし、後述する主催者側での提案アジェンダの関連でわざわざティンプーから来てもらったブータンファンデーションのフェンキさんについては、交通費は実費をプロジェクト負担とし、日当宿泊料も現金にて支給する措置を取りました。

次に、2日間のプログラムの概要をご紹介します。

【10月26日(木)】
9時00分~10時15分 オープニング、各ラボの近況紹介(各5分)
10時30分~12時30分 ファブラボCST提案セッション(自助具技術)
13時30分~14時15分 JNWSFL提案セッション(3D CAMハンズオン)
14時15分~15時00分 CNRバイオファブラボ提案セッション(討論)
15時30分~17時00分   同上 (続き)

【10月27日(金)】
10時00分~12時15分 ファブラボCST提案セッション(pi-topハンズオン)
14時00分~15時30分 DGIファブラボ提案セッション(討論)
15時30分~16時00分 ラップアップセッション

プログラムを組むにあたって、議論の時間をできるだけ設けたいと考えたのですが、JNWSFLでネットワーク会合主催を担当していた窓口スタッフCさんから、「できれば各ラボによるハンズオンセッションを入れてほしい」との要望がありました。そこで、各ラボに呼びかけてアイデア募集し、うちもユースセンターを会場としてお借りしてpi-topのハンズオンワークショップを用意しました。

しかし、残念ながらハンズオンセッションの提案はJNWSFL以外からはありませんでした。そこで、プロマネと次善策を協議して、45分の時間帯を各ラボに割り振り、これを責任もって使ってもらうという、「分権化」を行いました。しかし、のちにTTTRCが欠席、RSSTEMが何も用意して来なかったことが判明。チェゴファブラボは土壇場になって出席を決めたため、時間帯の使用についてアイデアがありませんでした。そもそもチェゴファブラボの開所式は11月1日に決まったため、まだ共有できるものがないと言われます。そこで、CNRとDGIに多めに時間を使ってもらい、結果的にこのような形になったというのが実態です。


3.出席者のプロファイル

チェゴファブラボ(ティンプー)は、直後に開所式を予定していて準備業務多忙につき、最初は欠席と言っていました。しかし、今回の会合のある意味での主役はチェゴファブラボだと私は思っており、私はあえてマネージャーの上司のさらに上司にあたる私の知人に直談判し、なんとしてもスタッフを1人は送ってほしい、絶対にチェゴファブラボのためになると強く求め、参加実現にこぎ着けました。

TTTRCは今回まったく出欠の回答がなく、欠席の理由も定かでありません。しかし、TTTRCはこれまでもJNWSFLのネットワーク会合オンライン開催も欠席ないしは遅刻、さらに出席しても無発言を貫くケースが多く、しかるべきマネージャーがこうした場に出てこない傾向が強かったことは付記しておきます。

こうして、DGI(パロ)、CNR(ロベサ)、チェゴファブラボ(ティンプー)、そしてCST(プンツォリン)は、マネージャークラスが出席し、議論してその結果を行動に移せる体制を取ってくれました。

ブータンにあるファブラボの配置図。近々、東部デワタンにもミニファブラボができる見込み

一方、JNWSFLは3人が派遣されてきました。しかし、いずれも技術者級で、中には7月に採用されたばかりの新人スタッフも含まれていました。組織の代表として議論できるような人は来ません。CSTに主導権を握られるのを嫌ったのか、他のラボが揃ってDHI/JNWSFLに不満の声をあげる可能性を嫌ったのか、それとも単に幹部級の都合がつかなかったのか、そのあたりの事情はわかりませんが、残念な結果となりました。いちばんかわいそうだったのは、こうして送り込まれてきてサンドバッグ状態になってしまったこの3人だったかもしれません。

もう1つ残念だったのは、RSSTEMの出席者の態度でした。いつもスマホをいじっていてつまらなさそうにしていましたし、何度も退席して肝心な議論に参加していないケースが非常に目立ちました。唯一の貢献は、2024年1月開講のファブアカデミーに受講者を出すための予算はもはやRSSTEMにはほとんどないという発言でした。

【証拠写真】Zoom会議中に堂々とスマホで会話している奴

4.DHI/JNWSFL以外のラボが共通して感じている問題点

これまで、ファブラボに関して、ブータンでは、いちおう政策窓口となっているRSSTEMがDHI/JNWSFLに指示し、JNWSFLが他のファブラボに指示を下ろすというヒエラルキーになっていました。

(ここで「他のファブラボ」と書きましたが、ここにもちょっとしたギャップがあって、米ファブファンデーションがRSSTEM、DHIとともに設立を支援したDGI、CNR、TTTRCと、それらとは別の経緯で設立されたCST、チェゴファブラボとの間には、情報伝達経路やファブファンデーションとの距離感でちょっとした違いがあります。)

ところが、ふたを開けてみると、どちらかというとDHI/JNWSFL寄りだと思っていたDGI、CNRがCSTに同調する場面がかなり多い会合となりました。チェゴファブラボも、私たちがこまめに声かけをしてきたこともありますが、ここではとても書けない人間関係のこじれがあり、もともとDHI/JNWSFLとの関係が良くありません。

JNWSFLが問題だとも思っていないことを、その他のファブラボが共通して問題認識している状況が明らかになりました。本節では、そのいくつかをご紹介していきます。

2日目午後の様子。DGIファブラボ主催セッション

4-1.2024年のファブアカデミー

会合では、2024年1月開講のファブアカデミーに、ブータンからは受講者が出せるのかどうかがまず問われました。これまで2年間、主にRSSTEMが受講料負担してファブアカデミーにブータン人受講者を送り込んできました。しかし、今のところ個人負担で受講を希望している子が1人いるだけなのだそうです。

RSSTEMもDHI/JNWSFLも、過去2年と比べて、あまり積極的な応募勧奨はしていません。それが「2024年はどうするのか」という質問につながったのですが、JNWSFLが答えられる人を会合に送ってきていなかったことで、議論が紛糾する最初の論点になってしまいました。

私としてはそんなにシャカリキになってファブアカデミーにこだわらなくてもいいのではないかという意見なので、この状況は驚きではありません。一方で、ブータン人はこうした「学位」や「受講証明書」の有無を対人評価や自己アピールの拠りどころにしていて、ファブ人材の評価の基準が無くなることには抵抗感も相当あるようでした。

私は、FAB23のパネルトークに登壇した際、「ファブアカデミーの受講料(5,000ドル)は開発途上国にとっては高すぎ」と発言して、フロア最前列にいたニール・ガーシェンフェルド教授を渋い顔にさせました。しかし、その直後に行われた教授とブータンのファブラボ関係者の集まりの中で聞かされたのは、ファブアカデミーの受講料を高めに設定して、その分他の人材育成プログラムを無償化するなど、財団内で内部相互補助を行っているのだという実態でした。そして、このことは、私以外にその場にいたブータンの関係者は皆、そのような認識を持ちました。

そこで問題になってくるのは、ニール教授が言っていた「ブータンの「21世紀型スキル教育」ショーケース化」や「ファブ2.0の国内ラボへのロールアウト」、「Fab-in-a-Boxの配布」の議論は、いったいどこまで進んでいるのかということです。会合では、DHI/JNWSFLからそうした情報共有がまったくなされていない点が問題視され、彼らは何か自分たちだけで握っているのではないかとの声が聞かれました。


4-2.ファブアカデミーのローカライズ

いっそ、ブータン版のファブアカデミーを作ったらどうかという声もあがりました。これは、JICAのプロジェクトの予算で2022年にファブアカデミーを修了したCSTの関係者4人がいずれも提起していて、今回の会合でもその中の1人であるテンジン君が発言して、DGIとCNRが同調しました。

元の出自が開発屋である私も、ブータンの開発課題を俯瞰した上で、必要とされる技術要素や課題解決につながるソリューションをモジュール化して、人材育成プログラムとして廉価で提供できたらいいのにと常々思っています。でも、そのためには、この国の開発課題を俯瞰し、プログラムをキュレートできる人が必要だし、少額でも受講料を徴収し、収入を各ラボに配分する中立組織の設立が必要となる気がします。

これは中長期的な課題なので、今の技術協力プロジェクトの協力期間中に着手することは難しく、むしろ現行プロジェクトの後継案件として実施できないかと、今からちょうど1年前に可能性を探ったことがあります。少なくとも今の東京の主管部署はあまり関心はない様子でしたし、そもそもJICAの対ブータン協力は案件が積み上がり過ぎていて、新しい案件を取り上げる余裕はないと言われて断念しました。

今回の会合では、どうしたらローカライズが可能なのか議論しましたが、決定的な方向性は見出すことができませんでした。DHI/JNWSFLはファブアカデミー自体の修了者数がKPIになっているので、ファブアカデミーの代替プラットフォーム作りには積極的には加わりにくいでしょうし、そもそもDHI/JNWSFLがリードすべきでないという意見もあります。一方で、今回の参加者の中で、その見解がもっとも期待されるRSSTEMが、まったくこの議論に乗って来なかったことは遺憾でした。

少なくとも、ファブラボCSTのマネージャー、カルマ・ケザン先生が、7月のFab Bhutan Challenge、10月のEMPOWERカンファレンスを経て、相当な熱量をもって推進しようとしている自助具技術(AT)の普及は、そういう人材育成プラットフォームに乗せやすいでしょう。今回の会合では、ブータンファンデーションが計画している自助具技術の展示スペース「ATラボ(Assistive Technology Laboratory)」に提供できる障害児・障害者自助具を、各ラボで試作してどんどん情報共有していこうという流れがとりあえずできました。これは大きな収穫だったと思います。

自助具技術の普及については、ブータンファンデーションのフェンキさんに話してもらった

4-3.電子工作パーツ、フィラメントなどの共同調達

これは、CSTの学長がいろいろな場で2年以上前から再三提起していて、それを受けてFAB23のパネルトークで私も提起した論点です。同様の課題はいずれの地方ラボも直面していることが今回確認されました。各上部機関(CST、CNRの場合は王立ブータン大学、チェゴファブラボはDSP)の調達制度の硬直性という課題もありますが、もう1つは各ラボが小ロットの調達をしたいときに応じてくれる調達業者が少ないという課題でした。会合では、「ここは発注に応じてくれる」という調達業者の情報共有も行われました。

初日冒頭のCST学長挨拶でも、共同調達は話題にのぼった

CST学長は常々、「半期でいいから各ラボのニーズを聴き取り、集約してDHIで共同調達してほしい」と表明し、DHI関係者と会うたびにこれを提起しています。しかし、民間企業であるDHI/JNWSFLには公共調達のような硬直性がなく、必要なものは、お金が続く限りは自由に調達できるというのが現状です。他のラボのためにあえて汗をかくというインセンティブはなく、この問題への対応を長らく放置してきました。

私は、「この問題を放置することは、ブータンのSTEM教育普及上のボトルネックになる。ファブラボだけではなく、全国のユースセンターも同様の調達問題を抱えている」として、RSSTEMからの出席者に対し、RSSTEMが真剣に検討したらどうかと水を向けました。しかし、この出席者は薄ら笑いを浮かべるだけで、何ら回答をしませんでした。


4-4.ファブフェスティバル

FAB23が終わった時、来年以降はどうするのかというのは気になったポイントでした。Fab Bhutan Challengeも、入賞してFAB24での進捗報告が義務付けられたファブラボだけでなく、他のホストラボも進捗報告を求められるでしょうし、教育省があれだけそのインパクトに関心持ってくれたFab Student Challengeも、来年以降も継続実施しなかったらもったいない。いつまでもアドホックなイベントに終始していたら、せっかく来年のチャレンジに向けて構想を温めてくれている若い子たちのハシゴを外すことになります。

この問題提起は、CNRから行われました。会合では、予算確保ができるかどうかという課題はあるけれど、来年5月の「ゾリグデー(ものづくりの日)」をターゲットにして、ファブフェスティバルを開催しよう、先ずはAT(自助具技術)とFab Student Challengeの成果品を組み合わせて展示しよう、という方向で合意しました。

FAB23期間中に行われた「ファブフェスティバル」の様子

4-5.ネットワーク会合の対面開催頻度

今回の会合はCSTがホストしましたが、こうして共通課題について集中討議して明日以降の具体的に行動を決める場として評価され、年1回ではなく、2回やるべきとの声が上がりました。円借款のKPIの達成に協力するために自主的に開催した今回の取組みが、参加者からそのような評価を受けたこと自体はとても嬉しいことです。

これについても、討議内容を議事録に残し、幹部を出席させなかったDHI/JNWSFL、欠席したTTTRCとも共有することになりました。ネットワークとして活動していくなら、おざなりな1時間のオンラインミーティングではなく、1~2日程度のオフサイトミーティングはやった方がいいと思います。2回はどうかなという気は個人的にはしますが、上記4-4のフェスティバルを開催するなら、その機にもう1回というのはあり得るでしょう。

ちなみに、今回CSTがホストするのにかかった費用は総額約50,000ニュルタム(≒90,000円)で、ゲストハウスが使えたCSTは比較的安価で開催できた方だったかもしれません。

2日終了後には、CSTの教員数名も参加して、夕食会も開かれた。
DGI、CNRのマネージャーはCSTの卒業生でもあるのです

4-6.ラボ運営の長期的持続可能性

この課題もCNRから提起され、かなりの時間をさいて議論が行われました。CNR、DGI、TTTRCは、設立時こそ機材調達でファブファンデーション、DHI、ブータン政府から多大な支援を受けましたが、ラボの運営になると急に突き放されて、財源確保や持続可能なラボ運営のための方策は、自分たちで考えろと言われたそうです。

マネージャー以外のスタッフの配置がなかなかできないとか、ラボを運営していくための資金が十分ではない、ましてや機材の新規調達の予算が捻出できないとか、JNWSFLを除くすべてのファブラボが同じ課題を訴えました。

私自身も、CSTでこの問題に直面しています。確かに機械使用料や原材料使用料を利用者(主に学生)から徴収していますし、その利用者の財源は大学の文教予算がかなりのウェートを占めています。

しかし、こうして大学の予算がファブラボに流れる仕掛けを用意しても、それだけではスペアパーツの購入や原材料追加購入をカバーするのが精一杯で、機械の新規購入はとてもできません。機械を新規購入したければ、既存機材を活用して収入創出活動をもっと展開するとか、研究助成金かプロジェクトグラントを他所から引っ張ってくるかしかないというのが今のところの私たちの結論です。

でも、研究助成なら大学教員にはノウハウがあるかもしれませんが、プロジェクトグラントになると、どこが出してくれるのか、いつ頃募集があるのか、上限はいくらか、提出資料は何か、そもそも誰が事業提案書を書けるのかなど、数々の疑問符がつきます。今月初旬にファブラボネパールを見学してから、私はファブラボの技術スタッフが事業提案書を書くことまで担うのは確かに難しいと思うようになりました。インパクトハブ・カトマンズのように、そういうのに長けた特別チームがそれを担当すべきだと思います。

今回の会合で結論が出る話ではないものの、外部資金をどう引っ張って来たのか、今後のネットワーク会合に向けていくつかの事例が出てくることを期待するしかありません。


4-7.「ファブシティ・ブータン」の司令塔

7月のFAB23の際、ブータンは国として「ファブシティ」グローバルイニシアティブへの参加を表明しました。私は、このファブシティ加盟を拠りどころに、「世帯・事業所」「区画」「市域全体」「国全体」といった何段階ものレイヤーにおいて、資源循環の実現をめざす必要が生じると予想し、ファブラボもラボレベルでの資源循環や、コミュニティレベルでの資源循環に取り組まねばならなくなるだろうと考えていました。

このため、RSSTEMとJNWSFLからの出席者に対して、その後ファブシティのブータンでの推進策はどれくらい検討されているのか訊いてみました。

残念ながら、いずれの出席者からも、「知らない」「聞いたことがない」との回答しか返ってきませんでした。いわんや、DGI、CNRをやです。

そもそも、ブータンのファブシティ加盟はどこの誰が推進したのでしょうか?私は絶対にDHI/JNWSFLだと思っています。ファブ2.0同様、国内の全ファブラボに横展開しなければ国全体で実現するのが難しい取組みについて、ネットワーク会合に情報を持って来て実施について議論しない中央の姿勢には、首を傾げざるを得ませんでした。


5.JNWSFLは、調整する余力がないのではないか?

こうして書きながら、ちょっとDHI/JNWSFLに対して厳しいことを書きすぎかもと感じますが、JNWSFLは、全世界に3つしかないスーパーファブラボの1つですし、文字通り「スーパー」なラボだというのは私は認めています。ただ、「スーパー」である以上、そして、対内的にも対外的にも「スーパー」であると振る舞う以上、彼らには自社の論理だけにとらわれず、ブータンのファブコミュニティ全体の利益を考慮した、責任ある行動が求められると思います。

首都に立地というアドバンテージがあるため、外国の援助機関や国際機関、企業などはJNWSFLに真っ先に訪問します。それはやむを得ないことですが、そこで彼らが自社の論理だけで応対すれば、他の有能なラボにとっての機会を奪ったり、逆に他のラボにしわ寄せが行ったりするような事態を招きかねません。

政府や外国の援助機関、国際機関、外国企業などがいろいろな研究開発の話をJNWSFLに持ち込むのは結構な話ですが、彼らは現状それを自分たちで独占して引き受け、実施しようとしています。結果、JNWSFLばかりが忙しくなり、ファブラボブータンネットワークとしての発展を考える機会をおろそかにしているとは言えないでしょうか。ラボ運営の長期的な持続可能性の観点からは、研究開発の話は、地方のラボも絡める形で実施した方がむしろ対応が早いというケースも考えられます。

また、純粋にブータンのファブラボを見てみたい、知りたいという方は、首都ならチェゴファブラボを訪問すべきだと考えます。JNWSFLを最初に見てしまうと、ファブラボというのは皆こういったハイテク機械が揃っているスーパーな施設なのだという、誤った先入観を持つことになりかねません。


6.経験共有は刺激になったし、他ラボに伝えることもできた

ネットワーク会合は、日頃各ラボが感じていた課題を共有し、他のラボがどのように取り組んでいるのかを教え合い、学び合う貴重な機会でもありました。私も、JNWSFLが教えてくれたFusion360での3D CAMや、DGIが教えてくれたChatGPTを使ったプログラミングや、AIを用いたツールのディレクトリー「Futurepedia」などは、教えてもらわなければ使ってみたかどうかわかりません。

JNWSFLにリードしてもらった、Fusion360による3D CAMのハンズオンワークショップ

ファブラボCSTからも、既述の通り、マネージャーのカルマ・ケザン先生が自助具技術を取り上げてブータンファンデーションのATラボ構想やFab Bhutan Challengeを受けたCSTでの取組みを紹介して、皆で取り組もうと盛り上げてくれましたし、私もプンツォリンのユースセンターのPCルームをお借りして、pi-top [4]を用いたコーディングのハンズオンワークショップを主催しました。

2人1組になってもらい、pi-topコーディングに取り組んでもらった
文系チームも、pi-topのチュートリアルに倣って取り組んでもらった

pi-top [4]については、9月のブートキャンプから、10月にはユースセンターでのpi-topワークショップにCSTの学生をインストラクターとして派遣するところまで展開してきたところですが、同様の連携は、pi-top [4]が配備されたユースセンターが近所にあるCNR、TTTRC、JNWSFL、チェゴファブラボにとっては再現可能です。

また、ここから次の展開として、ファブラボブータンから20台以上のpi-top [3]を継承して使途に困っているチェゴファブラボにおいて、その操作講習会を冬休みで帰省中のCSTの学生を捉まえて一緒に開催し、そこからチェゴファブラボに活用を考えて行ってもらおうというシナリオの第一歩も、踏み出すことができました。


7.チェゴファブラボを応援しよう

個人的に思うネットワーク会合のもう1つの大きな成果は、チェゴファブラボを会合でデビューさせたことでしょう。DHI/JNWSFLがオンラインで主催してきた過去3回は、人間関係のこじれから、マネージャーのドゥゲル君が出席できない事態が続きました。彼は今回も当初は欠席を表明していましたが、テンジン君と私は彼がある意味今回の会合の主役であり、どうしても出席させようと働きかけてきました。

ドゥゲル君も2022年のファブアカデミーの卒業生で、DGIのアニス君、CNRのケンチョ君、そしてCSTのテンジン君と同期になります。このメンバーであれば会合にいてもドゥゲル君がそれほど居心地の悪さは感じないだろうと思っていました。そして、実際に彼らの間にはファブアカデミー同窓生としての横のネットワークがあると感じています。

それ以上に大きかったのは、うちのマネージャーのカルマ・ケザン先生が、ドゥゲル君と直接会話を交わす時間が多くあり、その中で、彼に対する評価を180度変えたことです。同席したファブアカデミー同窓生も擁護したのでしょう。「サー(私のこと)やテンジンがなぜチェゴファブラボに肩入れしているのか、ようやく事情がわかりました」と、会合終了後に語ってくれました。

「チェゴファブラボがインパクトを示すことが、ブータンのファブコミュニティの発展にもつながる」———このメッセージを、会合出席者に私からは伝えることができました。ファブラボブータンのレガシーを継承したチェゴファブラボに対して、一緒に盛り立てていこうとの機運を作ることができ、なんだか私の仕事の1つがこれで達成できたような気もしてしまいました。

チェゴファブラボ、CNR、CST、DGIの面々。私の離任前に、また会えると嬉しいなぁ…
チェゴファブラボの入居する、チェゴセンター(ティンプー)の外観【10月12日撮影】
おそらく、11月1日には開所式が行われるでしょう。そこまでは来ている気がする

8.かくして、怒涛の10月が終わった

こうして、国政選挙前の駆け込みで行われた、外部の方を巻き込んだイベントは終わりました。

この間、ティンプーでは10月27日(金)にブータン青年海外協力隊35周年記念式典が行われ、28日(土)には「日本週間」のオープニングイベントがクロックタワー広場で開催されました。JICAブータン事務所OBとしては、どちらもできたらお祝いしたかったイベントですが、選挙前の駆け込みでいろいろ行事をやっているさなかだったため、まったく協力できませんでした。

逆に、「週間」と銘打つぐらいだから、1週間ぐらいは日本関連イベントが続くのでしょう。大使館やJICAの事務所にその気があったなら、プンツォリンで関連行事を開催するという手もあったような気がします。それくらい10月は当地でいろいろイベントをやっていたわけですし。ソニーのMESHブロックを使ったIoTワークショップなんて、やろうと思えばやれたかも。でも、今頃言うなって怒られそうですね(苦笑)。戯言書いてすみません。

先週のチュカ県庁とのメイカソン共催に加え、今週のファブラボブータンネットワーク会合ホストと、プロジェクトとして最後の大仕事を終えられたような感慨に浸っています。次週は自助具技術に俄然やる気をみせているマネージャーのカルマ・ケザン先生が主導で、インド・ケララ州からインストラクターを招聘して、ローコスト自助具のワークショップを3日間、学内で開催予定です。ファブラボCSTとして行事は今後も続きます。

でも、私自身はここからは技術協力プロジェクトの幕引きに向けて準備を進めていくことにしています。






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