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個人的には反省点だらけ~メイカソン開催裏話

2022年10月25日付のプロジェクトニュースで、「ファブラボを活用した初めてのオープンイノベーションイベント「メイカソン」を開催」というのが掲載されました。「プロジェクトの活動の1つでもある「オープンイノベーション」の推進の一環として、10月1日から22日にかけて科学技術短期大学(CST)で開催されたものづくり共創デザインマラソンの開催に協力」したとあります。

ファブラボCST開所からわずか1カ月。時期尚早じゃないかとの懸念もあった中で、CSTテックインキュベーションセンターのダムチョ・チョデンさんから、「このタイミングじゃないと直近で他にできる時期がない」と懇願されて実施に踏み切りました。しかし、個人的には反省点も多かった大会でした。プロジェクトニュースでは文字数もなるべく抑え気味に、かつできるだけネガ要素抑え気味に原稿を執筆しましたが、ここでは少しだけ裏話をご紹介しましょう。

出展された試作品の数々

1.ファブラボCSTの体制が整わない中での開催だった

元々、ダムチョ・チョデンさんから提案されていたのは「9月の第1週末」でした。ご存知のように、ファブラボCSTの開所は8月25日だったので、開所からわずか2週間でメイカソンをやりたいということになります。さすがにこれはとても準備が間に合わないので、無理だと回答しました。

彼女のいるテックインキュベーションセンターは、文字通り起業を希望する学生に起業に必要な能力開発や情報提供、起業準備のためのスペースを提供する機関です。CSTの構内に設置されていますが、労働人材省傘下のインキュベーション施設です。王立ブータン大学の他の単科大学にも同様の施設があるようです。彼女たちにとっては、入居率を高めて将来有望なスタートアップをそこから輩出することが必須。でも、その入居者を増やすためには、有望なビジネスアイデアを発掘していくことが求められています。インキュベーション施設にはワークステーションが8つありますが、現在埋まっているのは2つ。次の発掘の機会を早く設けて、入居者を増やしたいとの希望が強くあります。

9月第1週末ではとうてい不可能ということで、ダムチョ・チョデンさんとファブラボCSTのマネージャーである電気通信学科のカルマ・ケザン前学科長、そして私とで次善策を協議しました。9月後半は私が一時帰国で不在、11月に入ると秋学期の期末試験が始まるため、参加者が集められない。協議の結果、「10月15日」という案が浮上しました。

余談ですが、私自身も準備期間が欲しかったので、一時帰国の期間を短縮した経緯があります。でも、その後、ダムチョ・チョデンさんは世界銀行が主催するインキュベーション施設マネージャー向け研修に呼ばれ、10月15日は学内に不在ということがわかり、「10月22日」という第3案になりました。どこの援助機関も実績作りのために研修をやりたがるので、限られた人材に研修受講機会が集中します。ブータンあるあるですね。でも、結果的にこの研修は流れ、ダムチョさんはセンターに居残ってメイカソンの準備に当たりました。

ダムチョ・チョデンさん(写真が暗くてごめんなさい)

この時期、確かにファブラボCSTには私は残っています。ファブラボに配備されている工作機械の操作に最も詳しいのは、2022年のファブ・アカデミー修了生であるテンジン君ら4名ですが、彼らは同じ時期にインドネシア・バリ島で開催されている第17回世界ファブラボ担当者会議(FAB17)に出席していて不在です。特に、工具やパーツ類のストック管理をしていて、CSTの他のラボのラボ技術者(Lab Technician)とコミュニケーションが取れるテンジン君が不在の中で、メイカソン参加者の相談に全部答えられるのだろうか―――私は相当不安でした。


2.このメイカソンの定義

開催が10月22日と決まった後、最も気になったのは、メイカソンが足かけ3週間にわたる共創デザインマラソンなのか、それとも10月22日だけの1日イベントなのかという点でした。テックインキュベーションセンターのFacebookは常に「メイカソン=10月22日」と明記されていました。しかし、そのプレイベントとして、10月1日(土)にオリエンテーションがあり、以後毎週末に研修が行われました。そして本選会直前の1週間は、ファブラボでの「残業」を希望する参加学生が多く、中には徹夜までしたチームもいました。

直前の1週間、こんな状態が深夜まで続いた

留守番係を務めていた私も、ファブラボCSTを定時の19時で閉めるわけにもいかず、学生がいる間はファブラボにいて、学生からの様々な質問に応対しました。ファブラボCST側のスタッフの人員が欠けている状態でイベント開催を引き受けることの業務負荷の大きさを痛感しました。付き合った私も含め、参加した学生たちにとっては、文字通りの「マラソン」だったように思います。

待っている私も個人的に3Dプリント
コーヒードリップのかさ上げアタッチメント

私がイメージしていたメイカソンとは、まさに1つの週末だけを用いた、短期集中型の共創デザインコンペでした。ダムチョさんから、参加希望者が70人以上いると聞かされた時、これをファブラボCSTを会場にしてどうやって行えばいいのか、まったく理解できませんでした。ファブラボCSTには、かき集めても椅子は30脚ほどしかなく、コワーキングデスクも、頑張っても7つほどしか準備できません。それなのに、彼女は16チームも作った。一時帰国から戻って彼女からその話を聞き、せめて8チームにしてくれと懇願しました。

加えて、ダムチョさんからもらった10月22日の本選会当日のプログラム案では、審査員に加えて私まで15分間のプレゼンを求められ、その後各チームのピッチが行われ、昼食をはさんですぐに結果発表が行われるという流れになっていました。当日は「トーク」ばっかりで、「メイク」の要素がまったくありません。でも、これによって、会場としては大学の講堂を使用することができるメリットはあります。

本来であれば、「メイカソン=10月22日」ではなく、「メイカソン=10月1日~22日」と明記すべきだったのではないかと思います。そうすれば、「メイク」の要素は前日までに終わっているものと理解できます。

機械操作研修もやり、2D/3Dのデザイン研修もやり…
これを1人で半日ホストするのは結構大変だった

3.ビジネスアイデア発掘 VS ものづくり体験

主催したテックインキュベーションセンターと、共催者に名を連ねたファブラボCSTの間で、明らかに認識が違っていたのが、このメイカソン開催の目的でした。テックインキュベーションセンターにとっては、有望なビジネスアイデアの発掘、これに対し、ファブラボCST側では、開所後間もないことから、初めての共創デザインによる試作品を輩出できればOKだと考えていたのです。

インキュベーション施設への入居者を増やしたいのであれば、学生は当然、気心知れた仲間とチームを組んで、そこで揉んだアイデアを以って勝負したいと考えるでしょう。しかし、今回のメイカソンでは、参加希望者は個人での応募とし、チーム分けは主催者側で行いました。いろいろなバックグランドの人が混じってごちゃ混ぜの中でアイデアを出させようという、ファブラボCST側の希望を通した形となったのです。

しかし、ご想像の通り、即席チームで臨んでいますので、いかにチームビルディングに時間を割いたところで、イベントが済んでしまうとチームは存続のインセンティブを失います。ダムチョさんも、メイカソン開催後の上位入賞チームのインキュベーション施設利用への反応は芳しくないと認めていました。インキュベーション施設への入居者獲得を目的として実施するのなら、チームでのエントリーを認めるのも一案だったと反省しています。

この点でもう1つ気になったのは、審査員の質問が、「プロダクトの市場性」や「材料原価と販売価格を踏まえた収益性」、「ビジネスモデル」といった点にあまりに集中していたことでした。各チームのプレゼンも、試作品の製作工程そのものや、利用者の使いやすさの検討といった、試作品そのものに関する言及をほとんどしません。これは、評価の配点をプロダクト開発の着眼点や導入技術、デザイン等によりウェートをかけた評価表を準備していたにも関わらず起きたことです。

モデルの試作なのにビジネスモデルに関する質問が飛ぶ。
それでも答える学生チームもいましたが…

これでは、参加者も委縮してしまいます。純粋にファブラボCSTを利用してものづくりを体験してみたいという動機で参加した学生もいたでしょう。ゆるいものづくりであっても体験してみたいと考えていた参加者に、「この商品はいくらで売るのか」とか質問しても、「え~、そこまで考えないといけないんすか?」と戸惑うのも不思議ありません。実際、そこをどう説明するかで悩んでいたチームもあったようです。

ビジネス開発やスタートアップ支援に主眼が置かれると、自ずとこういうプレゼンになり、審査員もこういう質問をするのだというのがよくわかりました。テックインキュベーションセンターがメイカソンを主催する場合、そういうポイントも考慮せねばならないのだと気付かされました。

作品の発想は面白いのに、市場性を問われては答えに窮する

4.学内限定イベント VS 公開イベント

もう1つの論点は、参加者は学内限定とするのか、それとも周辺コミュニティからの参加者も募るのかという点でした。オープンイノベーションを試行するのだからと、ファブラボCSTでは当然後者を希望しました。実際の募集もそのように行われ、結果として、チュカ県庁の経済開発担当官(EDO)やゲドゥの起業家、縫製屋さんなどが参加してくれました。

CSTの教員も1名参加。チームのメンバーの学生と一緒に、木工に挑戦

でも、実際のメイカソンの建付けは、10月1日から22日までの足かけ3週間のマラソンイベントでした。そうすると、車で1時間~1時間半はかかるゲドゥやチュカから、試作品製作プロセスに参加するために毎回来るというわけにはいきません。実質的には外部の参加希望者が手を挙げにくい実施スタイルであったと思います。参加して下さった方々は、アイデア出しの過程でZoom会議が開かれ、それに参加して意見を出し合ったと聞きました。それで十分だと彼らが思っていたのならいいですが、もし「自分もこの際機械操作を体験したい」と期待していたのだとしたら、その期待には応えきれなかったかもしれません。

外部の一般利用者の参加も期待するのであれば、特定週末だけを使った短期集中型のメイカソンにして、その中にチームビルディングやアイデア出し、試作、発表の全行程を入れ込むイベントの設計の仕方もあったでしょう。もっとも、学生スタートアップ支援を目的としているテックインキュベーションセンターの業務とは、相容れない部分もあるとは思いますが。


5.まとめ~ファブラボCST単独主催も要検討

このように、ファブラボCSTが発足から間もなく、利用者の機械操作体験が未だ少ない中での開催だったこと、ファブラボCSTの主力スタッフの不在の中での開催だったこと、ビジネスインキュベーターとの共催だったことなどの初期条件の中で、関係者がない知恵を絞ってできることをやったというのが、第1回のメイカソンでした。

特に、ビジネスインキュベーターと組んで開催するとどういうジレンマに直面するのか、身をもって体験できたというのが大きな収穫でした。足かけ3週間のマラソンイベントではなく、短期集中型のメイカソンをより「メイク」部分に焦点を当て、よりオープンな形で実施する―――そんな実践機会を今後作っていかないといけないという思いを、個人的には強く持ちました。それはきっと、テックインキュベーションセンターとの共催ではなく、ファブラボCST単独、あるいは外部の公的機関や民間セクターと組んでの開催ということにもなっていくものなのかもしれません。

最後にもう1つ。足かけ3週間、テンジン君不在の中で留守番係として私が1人で利用者応対したのは、個人的に非常に疲れました。バリに行っていた彼らにはどうこう申すところはないですが、この間、一度もファブラボCSTに足を運んでくれなかったプロジェクト関係者がかなりいます。10月22日付note「「ファブラボはネットワークで動く」を、改めて実感した出来事」は、まさにメイカソン本選会直前の1週間の出来事で、私は「誰かShopBotが使える人いない?」と9月に日本に研修で行った教職員に呼びかけました。ノーレスでした。

10月22日の本選会で、私に「15分間、自由論題で話して欲しい」とダムチョさんから依頼され、途方に暮れた私は、またしても帰国研修員のグループチャットに、「日本で見てきたことを話してくれないか」と問いかけました。でも、またしてもノーレス。カルマ・ケザンさんを通じて個別に交渉を試みたところ、皆が「都合がつかない」「何をしゃべっていいのかわからない」と回答したそうです。結果、私は他の人に投げるのを断念し、9月3~4日のメイカーフェア東京のステージイベントの1つの内容を紹介してお茶を濁すという、自分的にはやっつけ仕事感が強すぎるショボいプレゼンを行いました。帰国研修員の面々は、当然、当日の本選会にも姿を見せませんでした。

適当に作った「雑なプロトタイプが世界を変える…かも?」
元ネタはMaker Faire Tokyo 2022のアレです

10月15日付note「日本での研修から帰って来た人たちの近況」では、けっこう好意的なことを書いたのに…。おかげで、本選会当日はもう過労の極致。終わったらとっとと帰宅して、爆睡したのは言うまでもありません。

ファブラボCSTでメイカソンを主催するのであれば、彼らに働いてもらうような設計にしないといけない。いずれ彼らには、別の形でペイバックしてもらうぞと心に誓ったのでした。

闘い終わって、1人祝杯


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