2012年のこと②

立ち飲みの酒場で解放感にひたりながら、嫌な気分ごと飲み干すという生活を続けていたが、そこはなかなかの値段がするので懐が寂しくなっていった。酒場で知り合った飲み仲間もいたし、マスターと話すのも楽しかったけど、少しずつ足が遠のいていく。

しかし、帰宅する前に飲んでワンクッション置かないとどうにもこうにも、嫌な気分を紛らわすことができないので、次に探したのはとにかく安くて酔える酒場。

探したらありました。相合橋商店街の出口辺りにある大衆居酒屋。とにかく安い。大瓶1本とお酒冷やで1合、アテ2品で1,000円。

いつ行っても混んでいて、皆さんご機嫌。
僕も狭いカウンターの空いてる席に毎夜潜り込んでチビチビやる。そのうちにまたよく会う人が出来て、話しながら飲む。楽しい。

でもある日、初めて話すお爺さんから、「自分若いのに1人でこんなとこ飲みに来て。さっきから見てるけどあんまりええ酒やないな」と。図星だった。分かる人には分かるんだな。嫌な気分を紛らわすために飲んでることが雰囲気に滲み出ていたんだろう。僕は苦笑しながら、そんなことないですよとボソッと呟きながら飲む手をとめなかった。分かる人には分かるんやなと。でもそんなことはどうでもよくて、このころは明日を生き抜くために飲んでいた。誰にどう思われたっていい。

そのお店では、おそらく留学生とおぼしき若い中国の男の子が注文であくせくしていた。まだインバウンド前のミナミ。まだたどたどしくはあったけどちゃんと日本語で注文を聞いてオーダーを通していた。異国の地で頑張っている彼らを見て、毎晩少し勇気をもらっていた。

このあいだ久しぶりにその店に行くと、彼らの姿はなかった。彼らどころか、コロナの影響で酔客自体がいなくてガラガラだった。あれほど熱気があった店なのに、寂しい風景だけがそこにあった。

彼らはどうしているのだろう。もう母国へ帰ったのかな。
よく店の横でタバコを吸って休憩をしている彼らの姿を見て、サボってんの?と言ってからかい、彼らのバツの悪そうな笑顔を見るのが好きだった。


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