#3 木綿のハンカチーフください

自転車に乗るのも慣れてきたようだけど、まだまだ飽きる様子はないみたい。

「自転車に乗りたいな、明日晴れるかな?」
と君は母親に天気を聞いている。

そして、外出するたびに
「私の自転車置いてあったよ」

って、母に報告しているみたい。
盗まれていないから、ほっとしているらしい。

私は、思わず笑っちゃった。
「そんなに心配しなくてもいいよ」と思った。

けれども、よくよく考えてみると
君は私に大切なことを教えてくれている、
って思い直したんだ。

自分にとって大切な自転車。
絶対になくしたくない。

できるなら、いつでも、ずっと、
そばに置いて、乗っていたいもの。

だから盗まれちゃうかもしれない、って心配するのもあたりまえと言えば、あたりまえだよね。

大人になるとたくさんのことを経験して、先が予測できることが増えてくる。知ってることが増えてくるんだ。自転車が滅多なことでは盗まれないこともわかってる。カギもつけてるしね。

だから、大切だと思ったものも
「少しくらい気にしなくても大丈夫」って思ったりするんだ。

健康で元気で生活することや、友達と仲良く遊ぶこととかね。明日病気になるかも、とか、友達がいなくなっちゃうなんて考えないからね。

私も君と同じように
「今日も一日無事に過ごせてよかった」
って思って過ごしたいな。

そうそう、
そういえば最近、父親が家を出る時に、ハンカチーフを渡すことが日課になってきたね。

間違って、私が自分で引き出しからハンカチーフを持ち出すと、泣きながら「私がやるのに」と怒られます。

15歳の君も、自分の役割に責任を持つような人間になっていますか。

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