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ばね指

パソコンのキーボードを打ち過ぎたからか、年齢的なものかは不明だが、数週間前から右手親指の関節不調に見舞われている。整形外科へ行くと「ばね指」と診断された。腱鞘炎の一種だ。

実はこの「ばね指」、私にとって初めてではない。まだ3歳ぐらいのころ、左手の親指が曲がったまま伸びなくなった。ばね指とのことで手術を受けた。

手術室の様子は今でも覚えている。子どもゆえ暴れないように手術台にくくりつけられ、局部麻酔で手術が行われた。時間的には短かった。手術室の隅に座る母はシャワーキャップのようなものをかぶっていた。感染対策だったのだろう。

あの手術以来、幸い私は大病を患うことなく今に至っている。出産後に授乳と抱っこで腱鞘炎にはなったが、それ以外はいたって健康。だが、人間の体は年齢とともに徐々に摩耗していく。よって今回ばね指と診断された時もさほど驚かなかった。

「痛みがあるときは飲み薬とシップで対処してください。あとはあまり酷使しないようサポーターで固定を。」

医師にこう言われ、以来、サポーター着用生活が続いている。骨のコキコキ感は朝が強く、夕方にかけて緩和されるので、サポーターも違和感に応じて付けるぐらい。今のところ注射や手術にまでは至らずに済んでいる。

ところが昨日は朝からかなりコキコキ感が。クリニックは土曜午前までで日曜は休診だ。手帳を見ると来週以降は仕事が立て込んでいるので、とりあえず診察へ。ドクターいわく、「痛みが強いなら注射を。手術の場合は1日安静にする必要がある」とのこと。

私の場合、痛みはゼロで単なるコキコキ感が鬱陶しいだけ。よって今回も結局、引き続きサポーター着用で様子見となった(と言いつつ、要安静なのにこの文章を打っている時点で、模範的患者から程遠い)。

ちなみに昨日は夕方から都内のコンサートへ行く予定を立てていた。演目はチャイコフスキーの交響曲第4番。大好きな作品だ。チャイコフスキーが本作を書くきっかけには、人生上の大きな出来事があった。結婚に失敗し、自殺未遂を図り、ロシアを離れてイタリアへと向かっていたのだ。そして彼は資金援助をしてくれたメック夫人のおかげで、4番を完成させたのである。4楽章からなるこの作品にはチャイコフスキーの苦悩が盛り込まれている。

旧ブログや他のコラムでも書いてきたのだが、私はラトビア出身の指揮者、故マリス・ヤンソンス氏から非常に大きな影響を受けてきた。直接面識があるわけではないが、マエストロの人生観や音楽に励まされ、救われてきた。今でも氏の動画や音楽を視聴すると涙が出てしまう。

昨日、コンサートへ出かける前に予習も兼ねて久しぶりにヤンソンスの4番を動画サイトで観た。そこでふと思い出した。晩年のヤンソンスも確か指揮棒を持つ右手親指の手術をした、とインタビューで語っていたのだ。

「指揮者」は英語でconductor。語源はcon(一緒に)、duct(導く)、or(人)が組み合わさっている。ドイツ語ではdirigentだ。一方、日本語には「指」という字が入っている。

ヤンソンスは持病の心臓病でわずか76歳で亡くなってしまった。私は自分のばね指と、経年劣化してゆくであろう自分の体力を考えながら、改めて生き方を考えさせられている。

https://www.youtube.com/watch?v=PE1cbF3sQQc

上記映像はまだ43歳のヤンソンス。私がロンドンで初めてマエストロを見て衝撃を受けたのは、氏が50歳の時であった。

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