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NOTEDEN~書いて生きる

東京に出てきた時には、色々な事に感動したが、中でも、

HMVとか行くとCDの試聴ができるぞ!

というのは衝撃だった。僕の世代はカセットテープが、CDに音楽媒体の王座を明け渡す頃。
考えてみると、テープは早送りにするにも巻き戻すのも時間がかかるし、それを繰り返すとテープが伸びる。だから田舎の音楽屋には試聴という概念がなかったのだと思う。

そして僕が聴く曲は「洋楽」だ。今でも「黒人のオッサンが高い声で歌うヤツ」が好きだ。例えばこういうの

どうですこのオッサン具合。まあ声が良いんですけどね。

それで当時の「洋楽好き」にどういう事が起こっていたかというと、邦楽は歌手や曲名がだいたいわかっても、洋楽は、友達に恥ずかしがりながら、鼻歌で訊くのがせいぜいだった。
しかも僕の音楽嗜好は田舎じゃあニッチ。となると、

ジャケ買いという賭博

に打って出るしかない。
すると、外して頭抱えるのがフツー。
たまに、欲しかった曲に思わぬところで再会する感動はありましたけど、狙ってやれることじゃありません。
とにかく情報が少なかった。Googleもないし。

一方で、田舎の音楽屋でも、情報が十分にあって、確実に好きなものを選択出来る商品があった。
「落語」だ。
僕の高校生活での悩みの種の一つは、限られた予算の中で「ジャケ買いの博打をやるか、堅く落語を買うか」だった。
先日僕はノートを書かないという記事を載せたが(夏が来れば思い出す感動爺さん)よくよく考えたら、ノートは真っ白ではなく、どのカセットテープ買うか詳細な検討を、ノートに書きながらやっていた。

もっとも、僕の場合は落語が好きというより「志ん朝」ファンなので、そこまで落語には詳しくない。他の師匠と比較してどうと、上手く言葉に出来なかったけど、ちょうどnote読んでたら良い表現を発見。

志ん朝師匠の落語は、映画を見ているかのような感覚に陥ります。それほどまでに表現が豊か。人も景色も、言葉だけなのにブワッと目の前に広がる。鳥肌が立ちます。こればかりは聞いて感じてもらわないと説明できない。
出典元:「落語初心者に聞いてほしいハナシ3つ」戸田江美

さて、時は流れ、神はYouTubeという「神の御業」を与えたもうた。それに触れた僕の、スマホの「ミュージック」データは、

黒人のオッサンが歌う曲と古今亭志ん朝

になってしまう訳だ。
先日カミさんとドライブした時、山間部に入ってラジオがイマイチになり、スマホでこれをランダムシャッフルでかけた。

アース・ウィンド・アンド・ファイアー→シェリル・リン(あ~これ女性ね)→スティービー・ワンダー→古今亭志ん朝→ハービー・ハンコック→古今亭志ん朝→ホール&オーツ(これは白人だわ)→古今亭志ん朝

のような感じで、僕にとっては「神の御業」を存分に堪能し、軽快に運転していた。すると後部座席で寝ていたカミさんが突如むっくり起き上がって言った。

あんたはやっぱり頭がおかしい

それだけ言って彼女はまた寝た。

僕の若き日の悩みなどカミさんにはわかるまい。
「うるさい。消せ」とまで言われなかっただけでも有り難いことだ。

それにしてもYouTube。
名盤を心置き無く聴く立場の者には「神の御業」だが、歌手や落語家からすると厄介な代物だと思う。
同世代のライバルだけでなく、過去の巨匠とも張り合わなくてはならないのだから。

今日、僕はソローに張り合うつもりでこのエッセイを書いたが、いかがであろうかね。

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