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かぐや様はバズらせたい

かぐやは激怒した。かの邪智暴虐の女王を除かなければならぬと決意した。かぐやには政治がわからぬ。かぐやは、SNSのインフルエンサーである。映える写真を撮り、動画をアップして暮して来た。もちろん自分の類まれなる美貌に対しては、よく自覚をしていて、人一倍利用した。

男たちが彼女に言い寄ると、彼女は上手くあしらって、最終的に無理難題を突きつけて、振る。これをネット上で公開するのである。
男たちにとっては好い面の皮だ、しかし、恥をかいてでも手に入れたい、宝石のような美貌を彼女は持っていた。
そのうちに、振られた男に幸運がもたらされるという噂が生まれた。本当はただの偶然だったのかもしれない。それに興味を持ったある野球選手が彼女に言い寄り、振られた。すると翌シーズン、彼は最多勝をはじめ、投手部門のタイトルを総ナメし、ここで噂は神話となり、著名人や財界人、そうそうたる人物が彼女に言い寄る。
そして彼らが振られる様がネット上で公開される度に、フォロワーやチャンネル登録が増えていくのであった。もちろん彼女は莫大な広告収入を得た。彼女はSNSの女王になった。

その頂点が「皇太子を振った事件」だ。彼女も思慮深く、さすがにこの件はネット上でもスルーした。しかし、週刊文春がこの事件をスッパ抜くと、彼女のSNSは炎上した。ネトウヨが攻撃したのである。
とはいえネトウヨの罵声も、かぐや信者のモチベーションにとっては養分になったようで、PV数や再生回数は飛躍的に伸び、ネットで公開しなかった事に世間の人々は大方好意的だった。

ところが状況が一変する。かぐやに粘着していたあるネトウヨが、狂信的なかぐや信者に刺殺されたのである。ここに至ってメディアのバッシングが始まり、かぐやもSNSでの情報発信に慎重にならざるを得なくなった。

かぐやがSNSの世界から離れてから、SNSの女王座についたのが@しらゆきだ。
@しらゆきは、毒親から虐待を受けながら育ち、AV女優となり、芸能界へと進んだ女性だ。その半生を自ら綴った「しらゆきと7人のオジサン」は大ベストセラーとなり、ちょうど「かぐやロス」で落ち込んだ人々に希望と勇気を与え、瞬く間に時の人となったが、ヒット作後は、あまり人前に出ないで、SNSで情報発信をする道を選んだ。

さて、かぐやが激怒したのは、@しらゆきのあるつぶやきだった。

「竹は梅より上だけど、松より下だよね」

かぐやには、振った男が幸運になる事以外にも、竹から生まれたという伝説もある。一方@しらゆきのベストセラー作品の帯には「松の上にのる白雪のように儚く」というコピーがあるのだ。

マウンティングだ!

かぐやはそう思った。しかし彼女には往年の力はない。
(力を手に入れなくては)
かぐやは憤怒とともに冷静に打算した。

「かぐやよ。どうした?怖い顔をしておる」
お爺さんが声をかけた。
「お爺様。わたし、次の都知事選に出ようと思うの」
「お~。ようやく、世のために何かしようという気になったかぁ。わたしも応援するよ。で、皆さんには何を訴えるつもりなのかね」

かぐやは逡巡した。そもそも誰かに訴えたいことなどない。しかし、選挙に出るのなら必要なことだ。
彼女は、しばらく頭を右に左に振りながら考え、満面の笑みを浮かべて口を開いた。

「SNSをぶっ壊す!」
そう言いながら、かぐやは可愛くガッツポーズをした。

次話 @しらゆきのnote

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