見出し画像

カーファイナンスを通して、真面目に働くことが報われる世界を作るHAKKI AFRICA

サムライインキュベートの起業家へのインタビューシリーズ、第5回は、ケニアにおけるタクシードライバー向け中古車ファイナンスを手がけるHAKKI AFRICAのCEO兼創業者、小林嶺司氏のインタビューをお届けします。

同社はテックを活用した信用スコアリングで、不正が絶えないアフリカでも誠実に努力を積み重ねる人の信用を可視化し、機会の最大化を目指しています。また、2021年12月に開催された「Fintech Japan2021」スタートアップバトルでは優勝を成し遂げています。


(第4回インタビュー: 医薬品版マーケットプレイス「Medsaf」のバックナンバーはこちら▼)


1. 新たなCredit Techを使ったファイナンス

HAKKI AFRICAは、ケニアにおけるタクシードライバー向け中古車ファイナンスを主な事業としています。アフリカでは多くのタクシードライバーが銀行の求める与信基準に値する書類を準備できず、レンタカーを利用してのタクシー個人事業が一般的になっています。そんな中で、同社は事業分野毎に独自の信用スコアリングシステムを作成し、与信審査を行っています。信用スコアの高い顧客に対し中古車を動産担保とし、車両購入のためのマイクロファイナンスを提供しています。

また、Safaricom社のAPIを活用しモバイルマネー経由の返済の自動記帳システムを開発し、人的ミスや内部不正を防止することで、地域最安金利でのファイナンス提供が可能となっています。

HAKKI AFRICAの代表取締役/創業者、小林嶺司氏に創業に至る経緯やアフリカで事業を展開する面白さと難しさなどについて、インタビューしました。


2. ケニアでの起業に至った理由

ケニアで起業した理由については、主に2つの背景があり、共同創業者の時田はナイロビで生まれ育った為、ケニアでの事業展開を視野に入れていたこと、もう1つは、私が2社目に起業したコミュニティビジネスを売却した後に、日本で新たな金融ビジネスを興そうとしたことがきっかけです。日本で送金にまつわる事業を検討していましたが、日本では送金は銀行業務である為、スタートアップが参入しようとしても潰されてしまう/そもそも始められない背景があることに気付き、日本で金融系イノベーションを生み出すのは非常に難しいと感じ、日本以外での事業を検討し始めました。

そこで、アフリカの市場を調べてみると面白いことがわかり、ケニア在住の日本人へ相談をし、すぐにチケットを取り3日後にアフリカへ飛びました。前の会社を売却してお金だけはありましたが、当時はまだ何もしてなかったのでフットワークだけは軽かったんです(笑)。

画像3


そこで初めに、いわゆるSMEs(Small Medium Enterprises)と言われる、ナイロビ市内の小さな露天商へのファイナンスを開始しました。さまざまな事業主をエンパワーメントができる「マイクロファイナンス」に挑戦したいと思い、まずは現地のキオスクに資金を貸し出しました。この事業を通じて、低所得者層の顧客データを獲得できるのは大きな価値があると考えていました。当時、私たちはナイロビのカワンガレ・スラム(ナイロビにある低所得者向けのスラムで約13万人程度が住んでいると言われている)にオフィスを構えていましたが、インターネットにもケニア政府も、カワンガレ・スラムのデータを持っていません。10年前にキベラ・スラム(ナイロビで一番規模の大きいスラム、約70-80万人が住む)を調査したデータはありますが、住民の収入レベルや男女比などの詳しいデータは存在しない為、我々の事業を通してデータを取ることの社会意義を感じました。国勢調査のような感覚で、ファイナンスを軸にデータを獲得し、そのデータを基にビックデータ処理で、信用スコアリングを測っていく。お金を借りたくても借りれない人に、彼らの代わりに我々が信用を証明してあげることができるのではないかと考え、マイクロファイナンス事業をカワンガレ・スラムで始めました。


3. マイクロファイナンス事業の失敗要因

事業を始めて気づいたのは、ファイナンスの需要は多いのですが、「返すからどうしても貸してほしい」というニーズと「お金がもらえるから」というニーズとでは、後者の方が圧倒的に多いということです。その為、顧客の多くは、小さなものを買う時に12ヶ月程度の融資を受けて購入し、返し始めるものの、徐々に金回りが厳しくなり、ローンを返済する為に10ヶ月目頃にまた他のファイナンス業者から借り、多重債務に陥るのです。その為、金融業者からすると、最後に融資した人が損をするようになっており、このモデルは機能しない、と気付き、またコロナが起きたことにより、ケニア政府がマイクロファイナンスの返済猶予を与える方針を出した為、返済が益々滞る事態となったこともあり、そこから車のファイナンスへピボットしました。


4. カーファイナンスへのピボット

当時、時田と共にファイナンスの歴史を学んでいた中で、無担保ローンから始まった歴史はこの世にないと気がつきました。日本でもアコムなどの消費者金融の前身は質屋から始まって、江戸時代から様々な形態に変わりつつ金利という概念ができ、それからようやく無担保ローンに行き着いたんです。

なので、まずは無担保ではなくしっかりと担保を持てる事業がいいと考え、商材は日本に強みのある車を選びました。しかし、初めは時田や、ケニアに長年住まわれている日本人の方々から反対を受けました。「ローンを組んでもみんな1年以内に逃げ出すよ」と言われました。また、「多額の現金がないとできない事業であり、現地の銀行が始めた瞬間に負けてしまう」とも言われました。

そこから、皆に反対された意見・リスクをどう回避できるか考えていきました。例えば、ログブック(車の所有権を示す証書)もなく、覚書だけが存在するような車では融資を行った後に逃げられてしまうので、きちんとログブックを発行する、など1つ1つリスクを排除していきました。一度打ちのめされたのはいい経験でした。


5. アフリカで事業をすることの難しさ

アフリカで事業をしている人が増えてきている中で、最近はマニュアル通りのミスをしている起業家をよく見ます。私たちも同じ道を通ってきたので、理解できなくはないのですが、皆同じミスを繰り返して嫌な思いをしているので、勿体ないと思います。どこにお金と時間をかけるべきかという考えが日本とアフリカではベースとして違います。そこを理解した上で、何が通用するか、どこに資本を投資すべきなのかを悩むようなことであればいいのですが、先人達がしてきたミスを起こさないよう、アフリカで事業を行う上でのプロセスや注意点などがもっと体系化されると良いなと思っています。

一番よく聞くのは「従業員に盗まれた」というような事案。これが発生するのは単純に盗むメリットが盗まないデメリットを上回るかどうかだと思いますが、他にも人種(我々が外国人である事)の問題も少なからず関係していると思います。乱暴に言うと、人種が違うと、自分にとって一生関わる仲ではないと判断されて、裏切ってもいいだろうという意思決定に至ることがあると思います。なので私は、盗む方ではなく、盗まれた方が悪いという意識で事業を行っています。文化の違いから起きる避けようもない事態を、アフリカで起きたからアフリカの人々が悪だと言ってもあまり意味がありません。

私は、ケニアで事業をやれてよかったと思っています。他の国だともっとハードシングスが大きい感覚があるので、ここで慣れて、国際展開していくのが一番良いシナリオだと考えています。

画像1


6. 外国人起業家としてケニアで事業をすること

ケニアで事業を行う上で常に意識しているのは、不正や騙すことでお金を手に入れるより、真面目に働く方が報われる、という意識を社内に植え付けることです。スタートアップですので社員との距離も近いですし、社員皆敏感かつ繊細で、我々の一挙手一投足を見ており、我々がどれぐらいの投資を受けているか、その投資は私達が懐を肥やすために使われようとしているのか、もしくは実直にビジネスを伸ばそうとしているのかを彼らは理解していると思います。それを踏まえて、我々が誠実なビジネス展開を決めたら、社員皆で呼応してくれると感じます。また、我々も彼らの誠実さに答えようと決めているので、人としての尊厳を大切に、フレンドリーさを忘れず、社員を家族だと思って、ビジネスを一緒に作っているんだということを伝えています。

給与設計も大事な要素で、実際のパフォーマンスに応じて成果が出る設計にしています。真面目に働いていれば半年に1回は確実に上がっていきますし、給与支払いも1日も遅れたことはないので、信頼できる会社だと思ってもらえていると自負しています。初期メンバーがその意識を持っていると後から入社する人も、コミュニティの法則で同じ文化が醸成されます。最初にいる人たちが固い安心感を持って企業運営をしていると、それが文化作りになる。HAKKIで働いている社員はトップクラスに真面目かつプロフェッショナルな人材です。


7. 今後の展望

巨人の肩に乗ったスタートアップはうまくいく傾向がありますが、私たちのファイナンスの性質上、大企業と組んでも必ずしも売上が爆発的に伸びるわけではありません。例えば、Watu Credit(中小企業、低・中所得世帯に対してのマイクロファイナンス事業)やMogo Cars(新車・中古車購入に手頃な価格の融資オプションを提供)は目覚ましい成長を見せています。おそらく、M-KOPA(Solar Home System事業を展開)は月間で3億円くらい貸しているのではないでしょうか。我々はまだ他社と比較すると少額ずつしか融資をしていないので、最低でも今年内には月間5,000万円-1億円まで引き上げたいです。3年間はリカーリング収益がありますが、積み上げ方式なので指数関数的に成長できないもどかしさを感じています。日本で急成長しているスタートアップに比べると、地道にやるしかないと思っているのですが、やはりどこかで勝負したい。近隣の国に進出するよりも、ケニアの第二都市、第三都市に進出した方が戦略的に有利だと思うので、まずはケニア全土に進出し、その後他の国にも進出しようと考えています。

また、現場で汗をかくことを私は意識しています。今日も支店作りのために自分で現場に視察へ行ってきました。ナイロビの大きなカーヤードに支店を開き、社員2人が常駐予定です。今年は、カーヤードがたくさんある場所の中心地にデスクを置かせてもらうという戦略で、車を購入しに来る人全員にアプローチすることで事業拡大を行っていく予定です。

画像4
左から、HAKKI AFRICA 小林 嶺司氏、サムライインキュベート 武田 理沙


8. アフリカのスタートアップ市場について

アフリカは参入障壁が低いと思われがちで、私も事業を始めた当初はそう考えていました。3年前にアフリカに来た当時は、誰もやっていないのだから何をやっても儲かるだろうと安直に思っていました。今は、なぜ勝てるのかを完全に論理的に説明できるようになり、アイデア次第で何でもできるんだということを実感しています。勝てる根拠と合理性がなければ、どの市場でも勝てるわけがないのです。それを説明できるスタートアップは、私の知る限りそんなに多くはない。プロダクト自体はいいと思うのですが、レッドオーシャンで、資金が不足しているという現状もあります。

正直なところ、アフリカが本当にスタートアップ市場として盛り上がるには、まだまだ時間がかかると思っています。破壊的イノベーションがアフリカではもてはやされていますが、既にある市場を新しい技術で再スタートさせることは、スタートアップとしての投資としては圧倒的に費用対効果が高く、またその市場が成長するまでには7〜10年かかります。また、始めるのが早すぎると逆に失敗します。

しかし、現在はインパクト投資も盛んですよね。合理性云々ではなく、間違いなくやる価値がある、という事業を支援する素地もできつつあります。アフリカに大きな価値をもたらすもののためにお金が集まるのは、とてもうれしいことです。



ー 小林さん、ありがとうございました!

HAKKI AFRICAは先日、シリーズAラウンドを2.2億円でクローズされました!(プレスリリースはこちら)真面目に働いた人が報われる世界を作る、HAKKI AFRICAの事業を今後も支援してまいります。