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「惑星降下猟兵3192~獣亜人と恋に落ちた少年の物語」第7話

「おい、聞いたか? なんでも、連合軍のでっけぇ戦艦がそこの宇宙海軍基地に入港したんだとよ」
「当たり前だろ! 今朝からうちのラジオも、街中のTVモニターもそんなニュースばかりでもうウンザリだ! クソ宇宙連合め」
「戦艦じゃねぇよ。さっき見てきたけど、ありゃあ強襲揚陸艦さ。あの無愛想なフェイス無し・レスどもがわんさか乗ってる軍艦だよ。それが一隻どころか、遠征艦隊レベルの数で火星に集結してるってんで、噂になってる。明日には戦争が始まるってな」
「戦争だって? 誰と誰が?? まさか、火星を攻撃するつもりだってのか? 自分たちの傀儡政府とおっぱじめて、連中に何の得がある?」
「そうじゃねぇって、バカ! ……ゲリラだ。火星自由主義リベラルの連中が、調子に乗りすぎたんだよ……!」

「お客さんがた!! そこでメシ食ってたガキは!?」

「あ? ああ、きたねぇジャンパーを羽織ったガキなら、さっき出て行ったぜ?」
「くそぅっ!! 食い逃げだ、畜生ッ!! 誰か警察を呼んでくれ!」
「まったく。どこもかしこも、酷いクリスマスだねぇ……」

 ──人混みを早足で逃げ進むレンが、やっと背後を気にして振り返る。誰も追っては来ていないようだ。

「なーんだ。第二港区っていっても、大したことないじゃん」

 レン、ニナ、マサムネ、リヒト、メイメイ────。五人には、日中の過ごし方について共通のルールがある。それは次の通りだ。

 ひとつ、命を落とすような真似はするな──
 ひとつ、レンとニナは単独行動か、誰かと協力して食べ物や役に立つ物を持ち帰ること──
 ひとつ、マサムネ、リヒト、メイメイは基本的に一緒に行動し、特にアジトの外では絶対に単独行動をしないこと──
 ひとつ、出来るだけメイメイを一人にしないこと──
 ひとつ、十二時、十五時、十九時には、必ず一度アジトに戻って全員集合すること──
 ひとつ、集合時間か就寝時間になっても誰かが帰って来ないときは、残りのみんなが集まってから、二人以上で一緒に探しに行くこと──。

 つまり、昼過ぎにみんなと別れたレンにとって今は自由時間のようなものである。彼の仕事である”食料の調達”については、今しがた食い逃げをした居酒屋の屋台に吊るしてあった大きなサーモンの燻製を頂戴したので、今日のノルマはすでに達成だ。
 そして、レンはこう考えていた────『これ、ニナが好きなんだよな』。昨日ほどではないが、これで今夜もそこそこのご馳走だ。正直、クリスマス・イヴは黙って指輪を買いに行ったせいでニナの機嫌は最悪だった。だからこそ、今夜はみんなで笑って飯食って──そんで、チビどもが寝た後は……もしかして、ニナと二人きりで……?? などと────

「……なんだ? 妙に人が集まって……」

 レンが立ち止まる。突如、彼の目の前に現れて行く手を阻んだのは、鉄条網の前にたむろする異様な雰囲気の群衆だった──。

 タルシス第二港区の警備が厳重な理由はいくつかあるが、その理由のひとつが火星防衛宇宙海軍MDSN本部が所在する軍事基地”ベース・タルシス”の存在だ。さらに、基地内には宇宙連合の火星方面軍司令部”キャンプ・タルシス”まで設営されている。故に、港区内では火星暫定政府の警察官に加え、完全武装の海兵隊員や戦闘無人兵器コンバット・ドローンが多数、巡回・定点警備を実施している。

「「 圧政反対!! 弾圧反対!! 宇宙連合は、火星に完全な独立と自治権を!! 民主主義を!! 自由な宇宙そらを!! 」」

 デモ隊が昔ながらのプラカードや横断幕を掲げ、宇宙連合への抗議を述べるとともに、鉄条網の向こう側で隊列を組んで警戒する火星防衛軍の海兵たちへ、同調を訴える。宇宙連合の傀儡国家と揶揄される火星暫定政府マーズ・ガバメント側に属する彼らとて、デモ隊にとって同胞であることには変わりは無いのだ。デモ隊の中には、友人・親族が軍の所属である者も多くいた。そして、それは防衛軍の兵士たちも同じだ。

「うわぁ、すげー……」

 目の前の光景に、レンは畏怖し、ただその場でしばらく立ち尽くしていた。普段から、盗みを働いた店の人間や、追ってくる警備員に罵声を浴びせられることは多々あったが、これほどの数の人間が集結して、罵声でも怒号でもない──それでいて殊更に強い感情が込められた”叫び”を上げる声を耳にした記憶は、彼には無かったのだ。

「 横隊、前へ!! 正面に構え!!!! 」

 群衆の叫びがピークを迎える頃、ついに非難の的となっている連合軍が動いた。強化外骨格に身を包み、火星の海兵たちよりも明らかに重武装で、体格も一回り大きい宇宙連合軍の暴徒鎮圧部隊が整然と金属製のシールドを構え、鉄条網の向こう側で整列する。

「この人殺しどもめ!! 火星から出て行けぇぇ!!」
「そうだ、出て行けー!! 人類の安寧に仇なす反逆者ども!!」
「「出て行けー!!」」

「「 警告する! デモ隊は、直ちに退去せよ! これは公共の安全を脅かす違法行為として検挙の対象である!! 」」

「「 裏切り者は出て行け!! 虐殺者に裁きを!! 火星に自由を!! 太陽系に、真の平等を!! 」」
「──火星自由主義万歳!!」

 ────ドオオオオオオオオン!! ヴヴヴヴヴヴヴヴンッ……!!!! ピピピピピピピピピ──!!

 ──突然、鼓膜を貫通して脳味噌ごとぐちゃぐちゃに破壊するような騒音が、レンを襲う。どうやら、騒音に襲われたのはレンだけでは無かったようで、レンの目の前でデモをしていた人々も皆頭を抱え、地面に倒れて痙攣したり、嘔吐したりしている。

 デモ会場は、一瞬にして凄惨な地獄絵図へと変貌した────

「「 直ちに退去せよ!!!! こちらは宇宙連合軍、特別治安警備隊!! 命令に従わなければ、こちらには殺傷・非殺傷を問わずありとあらゆる武器を使用する準備と権限がある!!!! 」」

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