見出し画像

涙のROCK断捨離 135.THE_PRETTY_THINGS「PARACHUTE」

プリティ・シングス「パラシュート」+6/THE PRETTY THINGS「PARACHUTE」
1970年

人生は選択の繰り返しだ。
人は毎日、数千回だとか数万回だとかの選択をしている、というのは、スティーブ・ジョブスのファッションに関する文章で見つけて、その後もいろいろな場所で目にするようになった話しです。
だから服選びなんていうことに判断力を使って疲れないようにするのだとか、ルーチンがストレスを減らすとかいう話しになるわけですが、そんなことを思い出したのは、プリティ・シングスを久しぶりに聴いたからなのでした。

プリティ・シングスは、ビートルズローリング・ストーンズと同じ頃に、近い場所で誕生したバンドでした。
ヴォーカルのフィル・メイとギターのディック・テイラーは、ミック・ジャガーキース・リチャーズと親しく、一緒に活動していたこともあったそうです。
それどころか、ギターのディック・テイラーは、何ならストーンズのメンバーになっていてもおかしくなかったらしいのです。
ところが、後から入ってきたブライアン・ジョーンズがギタリストだったせいで、「ベースをやらされるくらいなら辞めてやる」とバンドを出てしまったとか・・・。
もし、この判断がなければ、プリティ・シングスというバンドは生まれず、ディック・テイラーローリング・ストーンズだったかもしれないのです。

エリック・クラプトンジェフ・ベックジミー・ペイジが在籍していたことで知られるヤードバーズで、ジミー・ペイジはベースを弾いていた時期があったそうですが、ディック・テイラーはそういう選択はしなかったわけです。

その後、彼はフィル・メイプリティ・シングスというバンドを作って活動を開始します。
R&B好きだった彼は、ハードなR&Bを志向して、衝動的なエネルギーを感じられる良いアルバムを作ります。
彼らのデビュー・アルバムが出たのは1965年。
この年、ローリング・ストーンズはセカンドアルバムを発表して、全英トップを獲得していましたが、プリティ・シングスが評価を得るのはまだ先のことでした。

ディヴィッド・ボウイがカバー曲を集めた「ピンナップス」(1973年)には、プリティ・シングスのデビュー・アルバムからの曲が2曲も取り上げられています。

今聴いてもカッコいいと思えるバンドですが、R&B路線ではブレイクには至らず、その後、サイケ調の音楽に転身します。
サイケ色を強めて制作された「SFソロウ」というコンセプチャルなアルバムは、ザ・フーの「トミー」に先駆けて世に出たロック・オペラとして後に高い評価を得ますが、この時点では商業的な成功は得られなかったようです。
そして次のアルバムを制作する前に、ディック・テイラーはバンドを脱退してしまいます。

ディック不在のまま、バンドはこの「パラシュート」を制作するのですが、これが高い評価を得ることになります。
CDの帯には「米ローリング・ストーン誌にて1970年度No.1アルバムに選出されたコンセプト・アルバム」というコピーが踊っています。
実際にそういう選出がされていたのかとか、この時点でローリング・ストーン誌がどれだけの影響力があったのか私は知りませんが、とにかく認める人は確実にいたわけです。
せっかくの評価なのに、ディックは何やってるんだという感じです。

商業的にはなかなか成功を得られない彼らでしたが、頑張る姿はジミー・ペイジの目にとまり、レッド・ツェッペリンのスワンソング・レーベルに移籍して活動を続けます。
その後も特にヒットが出たわけでは無かったと思いますが、過去の作品の評価が高まってきて、プリティ・シングス見直しの流れが出てくる中、ディック・テイラーはバンドに戻り、活動を再開。
今年、創設メンバーのフィル・メイが他界してしまいましたが、80年代以降、数年前までライブを行っていたようです。

大ヒット曲こそありませんが、ロック史の中で最も過小評価されているバンドと言えるかもしれません。
この「パラシュート」は、良い曲が詰まった名作です。
美しく切ない表題曲は名曲です。
ストーンズビートルズビーチ・ボーイズゾンビーズバーズなどが好きな方なら、きっと気に入ってもらえると思います。

ローリング・ストーンズに成りそこなった男。
ザ・フーの「トミー」より先にロック・オペラを発表しながら認められなかったアルバム。
1970年度No.1の評価を得ながら売れなかったバンド。
と、さんざんですが、これも彼らの人生の選択の結果です。

傍らで世界一のバンドに成長してゆくミック・ジャガーキース・リチャーズを見ながら、フィル・メイディック・テイラーは何を思っていたことでしょう。
願わくば、彼らの思いが後悔ではなく、自分らしさを貫いた結果であるというプライドに満ちたものでありましたように。

Spotifyでも聴けます。


Top Photo by Clem Onojeghuo