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涙のROCK断捨離 51.RICK_WAKEMAN「ALWAYS WITH YOU」

リック・ウェイクマン「オールウェイズ・ウィズ・ユー」/RICK WAKEMAN「ALWAYS WITH YOU」
2011年

積み上げられたキーボードに向き合う、プラチナブロンドのストレート・ロング・ヘアー。背筋の伸びた肩にはキラキラ輝くゴールドのマント。その神々しい姿を目にして以来、自分の中では特別なミュージシャンとしてフィルターがかかってしまったリック・ウェイクマン
残念なことに、神と見紛っていた魔法はけっこう早くに解けて、太った髭オヤジな姿に幻滅したのですが、それでもピアノの音は今も魔法が解けずに美しさを保っています。

リック・ウェイクマンと言えば、イエスのキーボーディストとして語られることが常だと思うのですが、実は活動のメインはソロだと言えます。
イエスに加入する前からデヴィッド・ボウイや数々のバンドのレコーディングに参加し、イエス脱退後も様々なバンドで演奏したり、アレンジをしたりしているものの、決して匿名のスタジオ・ミュージシャンではなく、アーティストとしての個性を際立たせています。また、ソロ・アルバムでのヒットや映画音楽での実績を持ち、かなりの多作でもあります。
それでもイエスのキーボ―ディストと言われてしまうのは、それほどまでにイエスの「こわれもの」「危機」「究極」での演奏が素晴らしかったからなので仕方ありません。
イエスでの成功は彼の創作意欲に火をつけたのか、脱退後は「ヘンリー8世と6人の妻」「地底探検」「アーサー王と円卓の騎士たち」「リストマニア」「神秘への旅路」「罪なる舞踏」というアイデアに満ちた優れたアルバムを毎年発表していました。
ご存知のように、リック・ウェイクマンは、イエスの周辺で常に気になる存在であり続け、その後、何度も再加入しては脱退します。

彼は「鍵盤の魔術師」と称えられるように、様々なキーボードを同時に弾きこなしていました。アコースティックなピアノから最先端のシンセサイザーまで見事に使い分けて演奏する姿は、まさに魔術師のようでした。
クラシカルで手数の多い演奏が持ち味ですが、楽曲に彩りをもたらす装飾的なプレイには特別なものがありました。これは、各アーティストが超人的なプレイを繰り広げるイエスのようなバンドにあっては、特に輝きをみせました。
彼のソロ作品に何か物足りないものを感じるとすると、その点だと思えます。彼の作り出す音の美しさは、他の優れたアーティストと一緒になることで、さらに輝きを増すのです。

このアルバムは、全曲ピアノの単独演奏で構成されていて、彼のピアノ弾きとしての魅力が詰め込まれた一枚となっています。
シューベルトの「アヴェ・マリア」、ヘンデルの「グローリー」の他、ハレルヤ・コーラスやバッハ、グリークなど、誰もが聴いたことのある有名なクラシック曲を、いかにもリック・ウェイクマンなタッチで聴くことができます。
アルバムのタイトル曲は、彼のオリジナル。
さらには、レッド・ツェッペリンの「天国への階段」をピアノ・アレンジで収録するという選曲には、ロック・ファンもニヤリとしてしまいそうです。

アルバムを通して、メロディアスで感情を込めた演奏を、相変わらずやりすぎなくらい手数の多いアレンジで聴かせてくれます。
かつての鍵盤の魔術師でも気難しい芸術家でもなく、ロマンチックなピアニストとしてのリック・ウェイクマンに触れられるアルバムです。
ジャケットの写真は、髭を剃ってこざっぱりしたように見えます。

Spotifyには、このアルバムはありませんでした。
(類似の企画ものはありました。)


写真の使用許諾に感謝します。
Photo by Gabriel Gurrola on Unsplash