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サムちゃんのショートショート30【ゆるしてチョンマゲ】

 画期的ないたずらグッズが発売された。
 ゆるしてチョンマゲというふざけた名前のカツラだ。その名の通り、安っぽいちょんまげが付いている。こいつを被り、「ゆるしてチョンマゲ」と言い放つだけで、相手は何をされても許してしまうらしいのだ。 チョンマゲの部分から人間の怒りの感情をかき消す「消波パルス」なるものが「ゆるしてチョンマゲ」の言葉をトリガーに放たれるらしい。
 開発メーカーは「一種のジョークグッズ」と言い張っているようだが、こんな道具、是非とも悪用してくれと言ってるようなもんじゃないか。
 通販から届いた次の日、俺は早速チョンマゲを頭につけて会社に出勤することにした。手始めに通勤路にあるコンビニでパンと牛乳を適当に選び、店員に
「金払わないけどもらってくよ。ゆるしてチョンマゲ」
と告げてさっさと立ち去る。背中越しから店員の
「あはは、どうぞどうぞ」
という声が聞こえた。うんうん、出だしは好調。
 職場に到着後、すぐに上司に
「部長。今日は適当にその辺をぶらぶら外回りしてから直帰します、ゆるしてチョンマゲ」
と業務連絡。もちろん
「ははは、しっかりやりたまえ」
と速攻承認である。うんうん。やっぱり大事なのは報連相だ。

 会社を出る前になにか面白そうな事はないかと見回すと、経理の杉下さんが目に入った。社内で一番の美人、杉下さん。性格もいいし、実家が結構な名家ときてる。しかし残念ながら彼女は営業一課の竹本主任と付き合っていて、まもなく結婚するらしい。まぁ、折角だし、味見させてもらおっかな。コピーを取っていた杉下さんのスカートの中に手を潜り込ませながらもう片方の手で胸を鷲掴む。杉下さんはまさに声にならないような声を上げながら振り向く。彼女の顔は怒りと驚きの感情が混ざりぐちゃぐちゃになっていた。間髪入れずに
「そのまま楽にしててよ。ゆるしてチョンマゲ」
と告げると、彼女の顔は引きつったまま、ゆっくりと口角が上がっていった。
「ええ、どうぞ、どうぞ」
笑ってはいるが、目の奥は笑っていない。抵抗してるつもりなのかな。無駄なんだけどなー。
「部長ー!杉下さんの体を好き勝手弄りたいんで第一会議室を使いますねー!ゆるしてチョンマゲー!」
「おう。しっかりやんなさい」
 部長からあっさりと使用許可が出たので彼女を会議室に連れ込む。それから彼女の体を、彼女の同意の上で、じっくり楽しませてもらった。彼女は処女だった。なんだ、竹本主任、やることもやらないで。それでビジネスマンが務まるか。
「俺が先にもらっちゃっていいんだよねー?ゆるしてチョンマゲ~?」
「どうぞ、どうぞ」
 杉下さんは引き笑いのまま、俺の目をグッと見つめていた。もしかして睨んでるつもりなのかな?でもまぁ、どうぞどうぞって言ってるならこれは和姦だし。睨まれても困るわけで。俺はさんざん言葉で罵りながら彼女の体を楽しんだ。しまいには杉下さんは笑いながら涙まで流していた。そんなに良かったのかな?ふふふ。

 それから俺はチョンマゲの効果を存分に使い、楽しい生活を謳歌していた。チョンマゲさえあれば金や女に困ることはない。なんでも好き放題だ。まるで殿様だ。次は何をしてやろうか、芸能人とかとヤッてみたいな、へへへ。
 そう思いながら道を歩いていたときだった。背中にドンッ、という衝撃があった。後ろを見てみると、そこには杉下さんと結婚する予定の竹本主任が俺の背中にナイフを深々と突き立てていた。そして竹本主任の頭には、自分と同じく、見覚えのあるチョンマゲが乗っている。彼の口から言葉が漏れた。
「ゆるしてチョンマゲ」
 この世の憎しみや恨みを煮詰めて凝縮させたかのような、呪詛のごとき言葉だった。
 瞬間、俺の心から焦りや、恐怖の感情がスッと消え失せた。穏やかな気持が心と体を巡り巡っていく。なんともいい気分じゃないか。
「どうぞどうぞ・・・」
 そう言いながら血まみれの俺はアスファルトの上にドサリと転がった。

この投げ銭で家を買う予定です。 よろしくお願いします。