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サムちゃんのショートショート26【まもなくハタチ】

 あまりの焦燥感に耐えきれなくなり、夜の街に飛び出した。
 走り出さなければ息の根が止まりそうなほど、私の心は慌てふためいていた。
 明日。もう既に23時20分なので正確にはあと40分後。私は20歳になる。20歳、そうハタチだ。私は20歳になる。時計を見ながら口の中でそんなフレーズを繰り返していたら、私はいつの間にか駆け出していた。じっとしていたら発狂してしまうかと思った。ある意味、自己防衛の本能が働いたとも言える。じっとしていたら嘔吐いて吐き戻しそうだったのだ。
 私は今まで何一つ成し遂げてやいない。何かに夢中になったことも、誰かに褒められるようなことも、自分で満足できるようなことは何一つしたことがない。周りの成功例からは必死に目を背けてきた。見ないふりをしてきた。聞かないふりをしてきた。テレビのニュースで取り上げられる、自分より年下の天才、秀才、努力人。それらを「へー」の一言で済まして必死に逃げてきた。将棋の天才少年、汗水たらす高校球児達、海外の学校へ留学する若き研究者の卵。彼らの活躍を眺めながら「凄いねぇ」で片付けてきた。
 もしかしたら、ひょっとして、「自分も大人になればスゴくなれるのでは?」という漠然とした期待があった。私は馬鹿だ、大馬鹿だ。努力してない人間が大成するはず無いのに。
 まもなく、あと数分で私は「なんでも無い大人」になる。もう「子供だから」は通らない。バカ子供が大きくなっただけの子供大人が私だ。嫌だ嫌だ嫌だ。

 気がつけばだいぶ遠くまで走ってしまった。数十メートル先に自宅から遠すぎてに滅多に寄らないコンビニが見えた。息を整え、ゆっくりと頭をクールダウンさせる。あぁ、こんな所まできて。これから家まで帰らなきゃいけない。もう日付は越えたんだろうか。私は20歳になっちゃったのかな。そんな事を考えていたら、なんだか心がスンと無の状態に落ちていくような気がした。賢者モードとかいうやつだろうか。
 アイスでも買って帰ろうかな、と思ったが完全に寝間着で来ていたことに気がついた。小銭すら持っていない。どうせここまで来たんだからジャンプでアクタージュとチェーンソーマンだけ立ち読みして帰ろう。
 そう考えてふと、視線を上に向けた時だった。コンビニ入り口の上部。黄色い回転灯が回っている。あれ?あれあれあれ?あれって普段からクルクルしてたっけ?なんか良くないことがあったときだけクルクルするんじゃなかったっけ?
 その時、コンビニから目出し帽をかぶった全身黒服の男がとんでもない勢いで飛び出してきた。なにやらバッグをしっかりと胸元に抱えている。いくら私が抜けているといっても流石にわかる。
「こいつ、悪いやつだ!」
と。
 目出し帽の悪いやつは猛スピードで私のいる方向へ走ってきた。私は仰天した。この男、信じられないくらい、私のいる方向にまっすぐ走ってきやがるのだ。寸分の狂いもない。このままだと確実に私と衝突するだろう。私の足は地面と接着されているかのように動かない。怖いのだ。動けない。
「とまってよおおおおおお!!!」
 気がつくと私は手を左右に広げて絶叫していた。瞬間、私と男は予想通り、完全に正面から衝突し、私は意識を失った。

 翌日私は病院のベッドの上で目覚めた。気を失った私は病院に搬送されていたらしい。色々と検査をしたが、頭など特に異常は見受けられなかった。
 その後、事情聴取をしにきた警察から、あの犯人はコンビニから18万円を奪った直後の強盗だったことと、既に犯人は逮捕されていることを聞かされた。
「お姉さんと同じように犯人も気を失ってたんですよ」
と刑事は話した。どうやら私達は相打ちだったらしい。

 それからまた数日後、地方紙にこんなニュースが載った。
『おてがら女子大生!コンビニ強盗犯逮捕に協力!勇気を出して犯人の前に立ちふさがったヒーロー、望月 麻美さん(19)!』
 あはは、と変な笑いが出てしまった。年齢を19歳にしてくれたのは地方紙の記者が気を利かせてくれたんだろうか。
 喜べいつの間にか20歳になっていた私。19歳の私が最後の最後にプレゼントをくれたぞ。ヒーローだってさ、あはは。
 ありがとね、19歳の私。これからはちゃんと、あなたにもっとドヤれるような、そんなかっこいい20歳の私になるよ。

この投げ銭で家を買う予定です。 よろしくお願いします。